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第八話 雷は旨い!

 またあの長い階段を駆け下りると待っていたのはやはり前の層と変わらないごつごつした岩や“光石”が所々に存在する細長い通路だった。


「この迷宮を作った奴も相当変わっているんだろうな。特に趣味とか」


 実はこのダンジョンは人工のものだと言う事は外の世界にも知られている。本当にそう言う所だけ残っているのはある意味凄いと言える。


(うっ、俺の良心と怒りのボルテージが……)


 レンは自分の事を罵倒されたような気持ちになり、自分がと言う事を言わなかった後悔と自分が馬鹿にされたという気持ちが混じり合い、何とも言いがたい気持ちになっている。


「どうかしたか?」

「な、なんでも」

「?」


 またレンの挙動不審な状態を見て不審に思ったアオトだが言わないならとまたスルーしてしまう。


「そう言えばここは雷だったよな」

「うん。ここは雷を使う奴がいるけど。今までのと比べてあきらかに強くなっているから数は比較的に少なめだよ」

「そうか。じゃあここもとばすか」

「いや。ここは慎重に行った方が良いと思うよ」


 そうレンからきつめに注意をされて少し不安げになるアオト。


「何故?」

「僕は霊体だから良いけど、ここの雷のビッグフロッグは肉としては今までと比べてはいけないんだ」


 レンの一生懸命な様子を見て何言ってんの? 的な考えも浮かびながらもそんなに旨いのかと考えてしまうアオト。


「肉は今まで通り脂肪がのってて噛みごたえが良くてー」

「ほうほう」

「口に入れた瞬間に適度な軽い電撃が走ってまるで最高の調味料みたいに」

「おお」

「その丸焼きと来たら火と電気で蕩けてしまうかのような旨さに」

「おおお!」


 レンの説明を聞いているとだんだんその肉が食いたくなってくるアオト。勿論、鮮度を十分に保ったまま出来ればその場で、と考えだす。適度な刺激。どんな感じに肉とマッチしてくれるのだろうか。


「どうする?」

「勿論、食うに決まってるだろうが」


 アオトのそんな言葉だけでは面倒いか怒っているかのようなものだが直に聞いてみると今すぐにでも食いたいと言うような言い方で目まで食いたいというかのような雰囲気を出している。それを見てレンはくすくすと笑い、「だよね」と簡単に返事をしてから前へと動き出す。


 足がないのがミステリーのような感じを出しているが。本当にどうやって動いているのだろうか。


「カエルカエルカエルカエル……」

「怖いわ! 何さっきからぶつぶつ呟いてるの!?」

「カエルカエルカエルカエル……」

「やめてくれ。やめてください。何か呪われそうだよ……」


 先程からアオトはカエルと何度も何度も呟き、猛獣のような目で獲物を探している。あれから10程経ったがカエルもどきが一匹たりとも姿を現さないのだ。それに対してアオトは苛つきながらもカエルもどきに執着している。


「カエルカエルカエル……あ? なんか言ってか?」

「もうやめてください。こっちの方が気が狂いそうだよ」


 レンは今にでも泣き出すかのような顔でアオトに懇願する。


「ご、ごめん。どうかしたのか?」

「……もうしないならいい」


 先程の泣きそうな表情はどこ吹く風のような感じで今度は呆れたような表情になっている。本当に忙しい顔だ。


「グエッグエッグエッグエッ」


そんな今まで聞いた事がないようなカエルもどきだと思われる存在の声がこの先の通路から聞こえて来る。


「飯だぜ! 飯が歩いてきた!」


 まるで気が動転したかのような勢いで声の方向に全速力で向かうアオト。レンも後ろからなんとかついて来ているがアオトを見据える目は冷たく、どこか哀れみの籠った目をしていた。


「グエエエッ!?」


 突然現れた敵に反応が遅れた黄色いカエルもどきは驚きの表情を見せる。


「炎は剣を真似、剣となる 斬れ……」


 いつもとは少し違う詠唱を唱えるアオト。理由は簡単に肉へのダメージを少なくするためだ。


「《火剣(マジックソード・炎)》」


 アオトの手に一振りの炎に包まれた剣が、と思いきや黄色いカエルもどきの首が切断された。斬ったのだ。一瞬にして、カエルもどきの首を。雷の衝撃が当たる暇もなく。普通の属性だけで作られた剣はここまでの強度を持たない。これはやはりアオトの知能と魔力量によるものだと言える。まだ“魔力操作”のスキルは手に入れていないが感覚で覚え始めている証拠と言える。アオトには戦闘センスが元々ずば抜けてあったようだ。


「容赦がないな」

「ふん。あんな雷くらう理由がないからな」

「一応スキルなんだが」

「ステータスの違いって奴?」

「化け物だ」


 その後一応吸収もすませた。結果得たものは魔力変換の雷と追加効果として感電だった。




 ーーーーーーーーーーーーー




 感電

 触れたものに対して電気を送り、動きを奪う。効果がない事もあるが当たるだけで触れたものに対して電気の攻撃で少量のダメージを必ず与える。




 ーーーーーーーーーーーーー




「まあまあな奴だな」

「いやいや、お前以外には100%効果があるから」

「神とかいたらそいつもはいるんじゃないのか」

「それはまあ……。て言うかそう言う問題じゃないじゃん」

「まあ、効果を受けないって、俺って人間か?」

「今更でしょ」

「……」


 そこは否定してほしかったのかどんよりとした雰囲気を纏うアオト。そしてまだ手に持っている炎の剣を地面に突き刺している姿はどこか危なっかしさがある。


「そこまで落ち込むじゃないと思うが……」

「人間じゃないって言われて傷つかない人がどこにいんだよ」


 そう言われてみれば返す言葉がない。レンも霊としての正確には人間じゃないがまだ生きている状態で人間を辞めると言う事は自分の存在価値をゼロとして見られたのと同じものだ。


「元気出せって」

「誰が元気がないんだ? 俺は別に気にしてないぞ」

「じゃあ紛らわしいまねをするなよ!」


 レンの怒った表情を見てしてやったりといった感じで笑っているアオトに対してまたレンは口から炎でも吐きそうな程に顔を真っ赤にしてアオトに抗議をした。結果はアオトに遊ばれて終わりだったが。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 階段の近くに今回は安全地帯が設定されているようですぐに行こうと思えば下におりる事も出来る。


 そんな事よりも今は実食である。なにをかって? それは勿論黄色いカエルもどきの肉の実食の事である。


「いただきます」


 こんなときだけは礼儀正しいアオトは他の分野でも礼儀を知る事は出来ないだろうか。いや、アオトが礼儀を知ったら面白くないかも知れないが。


 もぐもぐ。びりびり。


「……! 何だこれは!?」


 驚きの表情でカエルもどきの肉を見つめる。


「これは例えるなら炭酸の肉! まるで炭酸をたっぷりと含んだサイ◯ーの様にジュワーと来て、口の中を程よい辛さの炭酸を入れたみたいに刺激が来て、まるでステーキの肉みたいにとけていく。なんだ、俺は日本に帰ってきたのか!?」


 そんな例えを言いながら黙々とカエルもどきの肉を食っていくアオト。そんなアオトを見て羨ましそうに見ているレン。


「いるか?」

「いる!」


 パク。


 レンの目の前に出した肉を自分で食べるという何とも酷い事をするアオト。日本人がその地を離れて過ごし、すぐそこに昔の料理に似たものがあるのに食べられないような何とも酷い行動だ。


「嘘だって」


 レンの本当にがっくりとしているような様子を見てアオトはレンに肉を少量渡す。やはり自分で食いたいのか渡すのは少量だがそれでもあるだけで嬉しそうな表情に顔を帰るレン。


 そんな事をしながらその日は安全地帯で久々の休息を楽しんだ。

 ……。やっぱり僕は何時何時更新しますって書かない方が良いかも知れないです。自分にとってはフラグみたいになっているので……。

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