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19 社畜、クエスト報酬を得る

 ドーラ市に帰ってきたツトムとテラーラは宿に直行した。

 ギルドにクエスト成功報告すべきだとは思ったが、疲労のピークに達していたのだ。

 ツトムは2,3日の徹夜は問題ないと豪語していたものの、肉体労働の疲労はデスクワークとは別種の重みで、ドーラ市の城門をくぐる頃には、強烈な眠気に襲われていたのだ。

 なので、ギルドへの方向は明日にして、その日はゆっくりと宿で休んだ。


 当然、テラーラとは別室である。

 テラーラの正体を知った今、彼女と同室に泊まるのは、身の危険を感じた。

 ツトムは部屋を独占でき、安らかに眠ることができた。

 そして、翌日――


「いくらくらいになるんだろうな、この『核』は」

「期待しない方がいいですよ。所詮、ゴブリンの『核』ですから」

「やっぱり安いか、ゴブリンは。見るからに薄汚いしな……」

 魔素の塊たる魔物の『核』は、ギルドで買い取りをしている。

 冒険者にとって、クエスト成功報酬と『核』の売却は、生命線と言っていい。

 ギルドに渡った『核』は、魔法の研究者や技術者に販売され、活用されるとのことだ。

 ゴブリンの『核』を欲しがる人間が多いとは思えない。

 安価で買いたたかれるのも、やむなしである。


 ギルドに到着した。

 中は、冒険者たちでごった返していた。

 早朝のため、クエスト出発前の冒険者たちがたむろしているのだろう。

 ツトムは、カウンター前の行列に並ぶ。

 行列の邪魔になるので、テラーラはテーブル席で待っている。

 しばらく、待機して、ようやくカウンターに到達した。

 受付嬢はもはや顔なじみとなった彼女だった。


「あ!」

 受付嬢が接客スマイルを崩し、怒り顔になる。

「タナカツトムさん! あなた、何をしているんですか!」

 明らかに、詰問だった。


「はて?」

 心当たりのないツトムは首をかしげる。

「見事クエストを達成した上、高ランクのホブゴブリンを屠(ほふ)り、村のがんを発見した僕に何か?」

「何か? じゃありません! 全部問題ですよっ!」

 受付嬢さんは、ぷんぷんと怒気を発する。


「まず、勝手にゴブリン討伐に行かないでください! なんのためのランク制だと思っているんですか! 貴方にはゴブリン討伐クエストは早いです! 危険なんですよ! そりゃあ、ゴブリンを全滅させたのは偉いですよ! でもね、それだけのことをしていながら、なんで村人に滅茶苦茶嫌われているんですかっ! 昨日、村の方がいらっしゃって、ものすごく苦情を受けましたよ! おたくのギルドは、性格の悪さで冒険者を選んでいるのか、次回からは実力のランクだけじゃなく、人格のランクも選ばせてくれ、って!」

 美人な受付嬢の説教は続く。その語気は強く、当然周囲にも丸聞こえだった。

 行列待ちしている冒険者たちの視線が痛い。


「今後、勝手に高ランククエストに該当する行為をした場合、除籍もあり得ますから! 十分に注意してください! 忙しいんですから、時間を取らせないでくださいよ!」

 別に僕の意志で説教を受けているわけではない、と言いたかったが、言ったが最後、余計に説教されることは目に見えていたので、黙っていた。


「はい! これが、成功報酬です! ゴブリン討伐依頼ではなく、護衛任務の報酬ですからね!」

 受付嬢は、硬貨が入った革袋をカウンター上に置いた。

「……これ、ゴブリンの『核』なんですが……」

 ツトムは報酬を受け取りつつ、交換に『核』が入った革袋を差し出す。


「買取ですね! 承ります!」

 受付嬢は乱暴に、ツトムの手から革袋をひったくる。

 初日の丁寧な接客が嘘のようだ。

 完全に嫌われたらしい。


「ゴブリンの『核』が………40、43個ですね……あら? これは……」

『核』をチェックする受付嬢の手が止まった。

 一回り大きい『核』をしげしげと見つめる。

「あ、それはホブゴブリンの『核』です」

「ホブゴブリン……? そういえば、言ってましたね……」

 受付嬢はしばらく考え込む素振りを見せた。

 しかし、何も言わず、領収書と代金を提示した。


「ゴブリン42個、ホブゴブリン1個で、8900ルドです」

「ええ~?」

 ツトムは不満で声を上げる。

 領収書には、ゴブリン200ルド、ホブゴブリン500ルドと記載されていた。

「ゴブリンはともかく、ホブゴブリンはCランクの魔物でしょ? 安すぎないですか?」

「何を言っているんですか、ホブゴブリンはDランク相当ですよ」

「Cランクって聞いたんですけど……」

「それは群れとしてのランクでしょう? ホブゴブリンがいるってことは、それらを生み出すゴブリンロードやクイーンがいる筈です。それらをひっくるめてCランクなんです」


 ゴブリンロードはゴブリンを統べる支配者で、魔法的な手段で手下のゴブリンを召喚する。ゴブリンクイーンは、次々とゴブリンを出産する、女王バチや女王アリのような存在だ。

 それらが統べるゴブリンの群れは最低でも200匹はいる。

 それの討伐ランクがCらしい。


「なら、ホブゴブリン単体ならこの程度か……」

「そうです。ホブゴブリンが単体でいること自体珍しいんですけどね。何か、不審なところはありませんでしたか?」

「え? 不審なところって言われても……初めてのクエストだったので、分かりませんけど……」

「そうでした! 貴方は勝手に無謀なクエストに向かったんでしたね!」

(しまった……)

 せっかく、お説教から解放されていたというのに、自分で話を蒸し返してしまった。

 この後も、ツトムは後ろに並ぶ冒険者たちに睨まれながら、受付嬢に説教されるという苦行を味わった。


「ふぃー……」

 ようやく、苦行から解放され、テラーラの待つテーブルに行くと、テラーラは優雅に紅茶を飲んでいた。

「なんで、報酬を受け取るだけで、そんなに疲れているんですか?」

「受付嬢さんから説教を食らっていたんだよ」

「セアラさんですか?」

「うん? 僕たちの冒険者登録をしてくれた受付嬢さんだけど……」

「だから、セアラさんですね」

「ああ、セアラさんっていうのか」

 そういえば、テラーラはクエスト前に受付嬢と打ち解けていた様子だった。その時名前も聞いていたらしい。


「セアラさんのカウンターを引き当てたんですね……わたくしが行けば良かったです」

「お説教されたぞ」

「むしろ、ご褒美じゃないですかっ!」

 テラーラが鼻息荒く、力説する。


「あの巨乳を長時間眺められると想像しただけで……わたくしは興奮しちゃいます!」

「そう……」

 ツトムはその話題を深く掘り下げる気はなかった。

 両性具有というだけで、ツトムの手に余るのに、その上テラーラの性癖を受け止める自身が1ミリもなかったからだ。


「でも、報酬はきっちりもらってきたぞ。クエストの成功報酬、ゴブリンたちの買取、巣で拾った金貨もあるし、2週間くらいは生活できるな」

 まだ、この世界の金銭感覚はおぼろげだが、多少懐に余裕ができたことは間違いない。

「となると、安いEランククエストを受ける気が失せるなぁ……」

 魔物との戦闘も経験した今、単なる雑用クエストを受けるのは気が進まなかった。


「でも、勝手に高ランククエストをしたら、除籍するぞって、セアラさんに脅されているし……仕方ないか」

「いい方法があるぜ」

 突然、第3者の声が割り込んできた。

 一人のモヒカンが、ツトムたちのテーブルに座る。

 異世界初日に、ツトムがビールを注いでやった冒険者である。

 あの後、飲み会に参加し、そこで名前も聞いたはずだが、忘れてしまった。

 アルコールが入っていたので仕方がない。


「俺たちと一緒にBランククエストを受けてみないか?」

「Bランク⁉」

「へっへっへ……聞こえてたぜ。お前、初クエストでゴブリン討伐したらしいじゃねえか。やるじゃん! 冒険者っていうのは、そうでなきゃな!」

 モヒカンは上機嫌にツトムの肩をバンバン叩く。

 モヒカンはツトムを褒めているつもりなのだろうが、こういうノリはツトムの好みではない。


「でも、怒られた……」

「セアラにだろ? むしろ、ご褒美だろ!」

(こいつもか……なんだか、自分が特殊な気がしてくる)

 気のせいだろうか。


「気にすんなって! ギルドの職員は無難にクエストをこなすことばかり要求しやがる! だが、冒険者っていうのは冒険してこそだ! そうだろう?」

「で、Bランククエスト?」

「そうそう! 受注するクエストはパーティーリーダーのランクで決まる。Bランカーのエグモントさんが受けたクエストに参加してみねぇか?」

「えぐもんと?」

「ああ、このギルド1の古参冒険者で、1番太っ腹な男さ! サテライトメンバーとして、20人くらいが参加する! お前も参加しな!」

「クエストの内容はなんですか?」

 テラーラが尋ねると、モヒカンは少し顔がだらしなくなる。


「魔物の大規模討伐さ。最近ドーラ市周辺の草原に魔物が出てくるようになったから、たくさんの冒険者で狩りをしようって主旨なんだよ」

 若干、モヒカンの口調が柔らかくなる。

 こいつも、テラーラの気を引きたいらしい。

「草原ですか……それなら、わたくしも力を発揮できるというものです」

「そうなん? じゃあ、決まりな! 出発は3日後だから、準備しとけよ!」

 モヒカンは強引に話を付けると去っていった。

 モヒカンを目で追うと、別の仲間たちと談笑し始める。

「なんで、僕たちを誘ったんだろうな? 20人くらいいるのなら、僕たちが参加しても大差ないだろうに」

 しかも、山分けの報酬の取り分が減るのだ。


「もう! なんで分からないんですか? この、朴念仁!」

「はあ?」

「わたくしが狙いに決まっているでしょう!」

「意味が分からないんだが……」

「つまりこういうことです」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 暗い密室で、男たちがたむろしている。

 手には、酒、たばこ……そして、違法な薬物……。

「あの新人、気に食わねえな」

 一人がぽつりと零すと、周囲が同意する。

「ああ、イラつくぜ」

「よそ者のくせに」

「あんなイイ女を侍らせやがって」

「まあ、いいんじゃねえか。カモがネギしょって来たって奴だろ?」

 男たちが顔を見合わせる。


「俺たちは冒険者だぜ……あんな新人どうとでもなる」

「どうとでもって……」

「ちょうどいい具合に、討伐クエストがある。それに、誘き出すんだ」

「そこで、新人をヤッちまえば……」

「あとは、お楽しみタイムって奴さ……」

 暗い部屋に、昏い笑い声が満ちる。


「報酬は山分けだぞ」

「そうだな、女も山分けだ」

「どこが欲しい? 俺は胸だ」

「俺は尻」

「足首だな」

「マニアめ」

「くくくくく……!」

 男たちは口元を緩ませ、魔物ではない獲物を狩る算段をしていた……。

 以上、テラーラの妄想である。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「こんなことが、密室で話し合われていたんですよ!」

「なんで、嬉しそうなんだ⁉」

(こいつの性癖の方が怖い……)

 嫌な予感を抱きつつも、断る勇気がなかったツトムはB級冒険者エグモントが主導する大規模討伐クエストに参加することになった。


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