誰が『美しくて儚い恋』だと言い始めたのか
読んでいただいてありがとうございます。この話と一つ前の話は、書籍には入っていないなろう限定です。
「……ねぇ、誰が言い出したのかしら?」
「何を?」
「あの二人の恋が、『美しくて儚い恋』だって」
教室内で孤立し続けているザカリーを見て、女子生徒の一人がぽつりと呟いた。
二人は、ザカリーたちのことを見守っていた方だった。
クラスの中心人物たちが全員そっち側だったので、二人もそっち側に付いた。
輪の中に入っていればクラスで浮くことはない、その時はそう思っていた。
……社会的に浮くとは思っていなかった。
ただ、最初はそんな言葉は使っていなかったと思う。
「え?それは……」
誰、だったのだろう。
思い出そうとしても、はっきりと思い出せない。
気が付いたら、皆が『美しくて儚い恋』だと言っていた。
綺麗な、綺麗な言葉。
『美しくて、儚い』、もうそれだけで触れたら壊れそうな感じを受けるのに、そこにさらに『恋』が加わり、ただ言葉にして出すだけでその場の雰囲気が違ったものになっていた。
「私は覚えていないわ。あなたは?」
「……私もよ。思い出そうとしたのだけれど、気が付いたらもう使っていたわ」
「そうなのよね」
「気になるの?」
「えぇ、少し」
「どうして?」
「だって、その誰かがそんな言葉を使わなかったらって思ったら……」
泣きそうな顔をした友人に、女子生徒は何とも言えない顔をした。
友人は、婚約を保留にされた方だ。
すぐに破棄にならなかったのは、輪の中に入ってはいても積極的に動いていなかったから。
クラスで浮かないように輪の片隅にいただけだったからだ。
それでも、信頼は取り戻せなかった。
婚約者からは、君が分からなくなった、と言われた。
クラスがおかしくなったのは、あの二人の容姿と実ることのない恋、ということもあったけれど、それを簡単で綺麗な言葉にしてしまったことにも原因があると思う。
口に出せる言葉にしてしまったことでそれについて話すことが多くなり、結果的に同調者を増やしていった。
「もしこの言葉を最初に作った人の狙いがこのクラスの崩壊なら、上手くやったと思うわ」
「そうね。誰かの婚約破棄を狙ったのなら、成功してるでしょうね」
最初に誰が言ったのか分からないけれど、クラスは瓦解した。
「……こういうのって、何て言うのかしら……そう、陰謀とでも言うのかしら?私たちは、その陰謀に巻き込まれただけ」
……そう、思いたい。
誰かの策略にはまってしまった被害者。
だから、私たちは悪くない。
友人が必死にそう思おうとしていることに気が付いて、小さく息を吐いた。
「そうだったとしても、今の結果は変わらないわ。むしろ、私たちにはさらに『踊らされた道化』という称号が付くでしょうね」
「……止めてよ」
「現実は、何も変わらないわ。私たちは、『美しくて儚い恋』に『踊らされた道化」よ」
「…………止めて……」
「……今度は、ちゃんと覚えておきましょうね」
友人の目から涙がこぼれたのを見て、『踊らされた道化』だろうと涙の色は変わらないのよね、と静かに思ったのだった。




