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その4 劇場での漫才ステージ

 けたたましいBGMをバックに、悠貴とキツネのコンビである『ユー&フォックス』の出番がやってきた。悠貴は、お客さんの前で初めて漫才を演じるという不安がないわけではない。


 そんな不安を一掃しようと、キツネのボケに対してツッコミを入れようと試みた。


「わしが使うとるのは、ホールインワンとロストボールや」

「ほんまかいな? ほんまにけったいや!」

「けったいやあらへん! 都合のええ時はホールインワン、そうやない時はロストボール」

「ほんなこと、あるかいな!」


 悠貴がツッコミを入れるたびに、動物たちが見ている客席は爆笑の渦に包まれている。ボケとツッコミのキャッチボールがうまく行っている証拠である。


 キツネと悠貴は、お客さんを大受けさせようと今のネタを続けることにした。


「ゴミ箱にゴミを捨てるときがあるやろ。そん時に、丸めたゴミを投げてそのままゴミ箱に入ったらホールインワンって言うんや」

「知らんがな! ほんな使い方せえへん!」

「ほんなら、ロストボールはどういう意味言うてみい」

「決まっとるやろ! ボールを失くしたちゅうことや!」

「ちゃうちゃう! 大事なもんを落としてもうた時に……。ああ~っ!」

「どないしたんや! そんな大声出して!」

「甲子園のホームランボールを用水路へ落としてもうた」

「なんでやねん!」


 次々と繰り出すしゃべくり漫才の応酬に、観客はすっかりのめり込んでいる。そして、悠貴のツッコミで締めくくると、『ユー&フォックス』は客席からの拍手を受けながら反対側の舞台袖の中へ移動した。


 即席コンビであるにもかかわらず、観客が大笑いしている姿に悠貴も少し照れくさそうな顔つきを見せている。しかし、悠貴がコンビを組むのはこの1回限りであると心に決めていた。


 すると、キツネは悠貴のポケットにポチ袋を入れながら何かを話し出した。


「あんた、ほんまに笑いのセンスがあるわ。ほんなら、わしとずっとコンビを組んで……」

「ほんまにすまん! やっぱコンビは今回限りでかんにんな」


 悠貴はその場から駆け出すと、一目散に劇場の出口へ向かって走って行った。舞台袖の中で取り残されたキツネは、相方に逃げられて立ち尽くしていた。


 こうして、劇場から出てきた悠貴は通り道を歩いている動物たちの人混みの中をかき分けた。人混みを抜け出すと、悠貴はポチ袋の中身を見ることにした。


「えっ? たったこんだけなん?」


 ポチ袋の中に入っていたのは、千円札1枚だけである。駆け出しのお笑い芸人が手にする1ステージのギャラは500円というのはよく知られた話である。


「ほんなら、ギャラが1000円ちゅうのは……」


 悠貴は千円札を眺めながら、若手芸人のギャラ事情への複雑な心境を抱いていた。

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