その3 即席の漫才コンビ
「ここを真っすぐ行けば、通天閣までもうすぐやな」
動物たちの人混みの中、悠貴は目的地へ向かって再び歩き出した。しかし、すんなりと目的地へ行けそうにない事態がそぐそばまでやってきた。
「うわっ! ちょ、ちょっと手を引っ張って何を……」
「ご、ごめん! 相方が姿をくらましてもうて……」
誰かに反対方向へ引きずられると、向かった先は悠貴が見慣れた大きな建物である。その建物には、『新世界演芸劇場』の大きな看板が掲げられている。
その劇場では、若手のお笑い芸人が漫才やコント、ピン芸などをお客さん相手に披露している。
けれども、その劇場でお客さんとして見るのと、実際に自分が芸を披露するのは勝手が違うようである。そうする間に、悠貴は誰かに引っ張られたままで控室に入った。
そこで悠貴が目にしたのは、ラフな服装をしたキツネの姿である。キツネは、無理やり連れてきた悠貴に即席の漫才コンビを組もうと頭を下げている。
「たった1回だけでいいんや! ウソやない、ほんまのことや!」
「そげなことを言うても……」
1回限りのコンビという提案にも。悠貴は戸惑いを隠せないままで賛否を表明することができない。すると、キツネは時計を眺めると再び悠貴の右手を持った。
「うわっ! わしらの出番まであと10分もないんや!」
「今度はどこへ……。うわわっ!」
悠貴は、キツネに無理やり引っ張られながら舞台袖までやってきた。そこは、次の出番に備えてスタンバイする場所である。
悠貴の耳元には、ボケとツッコミの化学反応で笑わせる男性漫才コンビの声と、大ウケする観客の笑い声が入ってきた。すると、本番を前にしたキツネが悠貴に声を掛けてきた。
「わしらのコンビ名は『ユー&フォックス』という名前や。わしがボケ役をやるから、お前はツッコミ役をやってみいな」
「ほ、ほんまに大丈夫なん?」
「大丈夫や! わしの言う通りにやればええんや」
悠貴とキツネは、本番前のネタ合わせを行うことにした。時間はないけど、少しでも形になって笑わせることができればと考えている。
少しすると、観客の拍手が悠貴たちの耳に入ってきた。それと同時に、劇場スタッフのモグラが声を掛けてきた。
「次は『ユー&フォックス』や。はよう舞台へ出ないと」
その言葉に、悠貴とキツネは劇場の舞台に出るとすぐに漫才を始めることにした。ここにいる人間は、悠貴ただ1人である。相方はもちろんのこと、漫才を見るために席に座っているお客さんも全員動物の姿である。




