その2 大阪名物の串カツ
串カツ屋へ入った悠貴の目の前には、席に座って串カツを食している数多くの動物たちの姿があった。
「ええ~っ! こ、これって……」
悠貴が声を失うのも無理はない。普段なら、多くのサラリーマンや学生たちで賑わうような店である。しかし、悠貴が何度も目を開けたりつぶったりしても、店内には動物たちのサラリーマン姿や学生姿が席を占めている状況に変わりがなかった。
悠貴は、意を決してタヌキの店長に話を掛けることにした。
「ちょっと聞きたいんやけど、ここのお客はんは動物ばかりなんか?」
「はあ? あんた、頭おかしいんとちゃうんか?」
言葉がかみ合わないことに頭を抱える悠貴に、タヌキの店長は再び口を開いた。
「ここはいろんな動物が名物の串カツを食べにきとんやさかい、あんたも早よ席へ座らんとあかんぞ」
悠貴は戸惑いながらも、席が空いているところを見つけるとそこへ座ることにした。同じ席には、すでにキツネとカバのサラリーマンが串カツをおいしそうに食べていた。
「おっ、見かけねえ顔やな。どこの人や」
「え、え~と……。ぼくは大阪生まれなんやけど」
少し口の悪そうなキツネの迫力に、悠貴は思わず尻込みしてしまった。しかし、悠貴の言葉にキツネは柔和な顔つきで笑みを見せるようになった。
キツネとカバは同じ会社の同僚とあって、お互いの仕事やプライベートの話題が次々と出てきた。すると、悠貴のもとへ自ら頼んだ串カツセットが運ばれてきた。
悠貴は、さっそく串カツをソースにつけて食べることにした。ソースに一回つけて口に入れると、キツネが再び声を掛けてきた。
「そやそや、それでええねん。串カツのソース二度づけは絶対にあかん」
「二度づけする奴って、ほんなことあるかいな!」
関西に住んでいる人にとって、串カツのソース二度づけ厳禁というのは常識である。しかし、それ以外の地域から関西へ旅行したときに、その常識を知らないでソース二度づけをしてしまう人は少なくない。
「それがな、ほんまにする奴がいるんだわ。テレビでソース二度づけ厳禁と言うとるのに、全然知らんのがたまにいるんや。けたくそわるいわ!」
荒げた声を上げるキツネの姿に、悠貴は串カツを食べる手を止めた。すると、温厚そうなカバがキツネに声を掛けながらなだめている。
「あんたの気持ち、わしもよう分かりやっせ。せやけど、なんぼ何でもそんなことを言うたらあかんわ」
カバが発した魔法の言葉に、キツネも次第に落ち着きを取り戻した。こうして、目の前にいる2人は世間話で盛り上がりながら串カツを口に入れていた。
悠貴のほうも出された串カツを全部食べ終わると、代金を支払って店の外へ出ることにした。しかし、新世界の通り道は、相変わらず動物たちが2本足で歩いていることに変わりはなかった。
「どないしたら、元の世界へ戻れるんやろ」
悠貴は、元の世界に戻りたくても戻れないもどかしさに包まれていた。




