命を懸けた願い
最後の戦い、偶然にも最強と同じ様な展開に。そして、終わりには、よく問題になるあの件が……
「それでどうなってるの?」
良美の言葉に、携帯電話を凝視していた較が言う。
「ここと同じ機能が地下にも作られてる。そっちで何かやってるみたい。降りるよ」
良美がエレベーターを指差す。
「あれで降りるの?」
較が笑顔で言う。
「あんな遅い物に乗ってられないよ」
壁に近づき、両手を連続して撃ちつける。
『ツインテール』
壁を粉砕する較。
「ここから飛び降りるから、出来れば待っていて欲しいんだけど?」
良美が楽しそうに言う。
「フリーフォールみたいで楽しそうだね」
較が諦めた顔で言う。
「そう言うと思った」
較は、良美を抱きかかえると、そのまま勢いをつけて飛び降りる。
どんどん落下していく。
「凄い!」
純粋に楽しんでいる良美と違い、較は、空中で姿勢制御をしながら絶妙のタイミングで空中をける。
『イカロスキック』
その一回で、全ての降下加速をキャンセルし、空中で反転して、着地する。
地上では、十斗が待っていた。
「地下への入り口は、こっちです」
較の手から降りた良美が言う。
「そういえば、貴方は、どうやって塔から出てきたの?」
十斗が苦笑する。
「外に仲間を待機させて、いざとなったら道を作るように指示しておきました」
「あちきが連絡をとったのもそっちの人。魔力にしている人達の所は、いまだ完全に封鎖されてる状態だよ」
較がそう答えて、十斗を見ると、十斗が言う。
「それでは、約束通り、覇道グループは、こっちで吸収解体させるという事でよろしいですね?」
較が頷く。
「八刃に逆らったらどうなるか、思い知らせる為ですので、間結と萌野も全面協力しますから安心してください。ただ、あがりの一割は、バックって事で」
「二割でも構いませんよ」
笑顔で答える十斗に較も笑顔で答える。
「いえいえ、八刃は、あくまでどこの後ろ盾にもならないのが基本姿勢ですから。一割のままで」
良美がつまらなそうな顔をして言う。
「変な大人の会話をしていないで行こうぜ」
較も頷く。
「そう言う事で」
去っていく較と良美を見送る十斗にパートナーの雹見十三が来て言う。
「切り札として八刃と繋がりを作っておくには、もう少し、向うに有利な条件の方が良かったと思うがな」
十斗が肩をすくめて言う。
「ヤヤを見ていれば解る。あれは、孤高の狼だ。一応は、組織の体制を取り繕っているが、こっちの思うとおりには、けっして動かない。今回は、覇道グループを確実に取り込む事を優先した方が後々の為だ」
こうして、二人は、今回の事件と、覇道龍一の身柄を使って、覇道グループの切り崩しを開始するのであった。
「この奥に問題の男が居るんだよね?」
地下に降りながら、良美が質問してくるので較が頷く。
「うん、十斗の調査資料を見たけど、やりたい事は、だいたい解るけど、本気で意味ない事をしてるよ」
そして二人は、目的の部屋に到着する。
そこで待っていたのは、この塔を設計した大道実であった。
「もう、覇道龍一は、破れたのか。早いな、もう少しで復活するのに」
淡々と語る実に較が言う。
「貴方のやろうとする事は、何でオカルト業界では、タブーと呼ばれているか解る?」
実が頷く。
「当然だよ、こんな自然の摂理に逆らった事を行われては、この世界が成り立たなくなるからだろ?」
較が手を横に振る。
「それは、表向きの理由だよ。本当は、そんな事をやっても本気で意味が無いからだよ」
すると実が怒鳴る。
「意味は、ある! 僕には、彼女が必要なんだ!」
実は、中央の特殊保存液の中で眠る女性を見上げる。
「死者蘇生が狙いなんだ」
良美の言葉に実が言う。
「笑いたければ笑え。僕には、どんなに小さくても復活する可能性があれば、それに縋るしかないのだ」
較が十斗から受け取った資料を見ながら言う。
「奥さん、雲雀さんは、階段で足を踏み外して、頭を打って死んだって話だけど、本当に綺麗な死体だね」
実が拳を握り締めて言う。
「そうだ、外傷は、全く無いんだ。小さな内出血、それで死んだんだ。こんな元のままの彼女が居るのに、死んだなんて納得できないんだ!」
較が複雑な顔をして言う。
「納得できなくてもその人は、死んでいるよ」
実が較の方を向き言う。
「だから生き返らせる。この命に代えても邪魔は、させない!」
そういうと、実は、コンソールに自分の腕を突っ込む。
すると、前面に強力な結界が張られる。
「この結界は、塔の魔力と僕の生命力を使って生み出したもの。そう簡単に破る事は、出来ない!」
較は、結界の表面に掌を当てる。
『バハムートブレス』
較の強力な気の一撃は、結界の一部を破壊するが、塔の魔力と実の生命力を使い、瞬時に回復する。
「なるほどね、最初から壊れる事を前提にして、膨大な魔力と己の命を駆けた生命力で即時再生させる。変に完璧な結界を生み出すより確実だね」
良美が言う。
「対応方法が無いの?」
較が複雑な顔をする。
「手は、あるんだよ、ホワイトファングを使えば、こんな結界なんて無いも同然だけど、あの人は、消滅する事になる。ほかにも塔自体を破壊するとかあるけど、目的を考えるとあまり派手な事は、したくないんだよね」
実は、祈る様に言う。
「もう少しだけで良いんだ、もう少しだけ待ってくれ」
較が頭をかいて言う。
「不幸になるだけだよ」
「覚悟は、ある!」
実が叫んだ時、較が大きな溜息を吐いて、両手を広げ、結界に向って振り下ろし、交差させる。
『アポロン』
超高熱が結界を粉砕する。
「まだだ!」
即座に復活する結界に較は、手を振り下ろす。
『ゼウス』
雷撃が結界を再び粉砕するが、結界は、即座に再構成する。
「もう一度だけ、彼女に会うために!」
実は、顔面を蒼白にしながらも必死に結界を構成し続ける。
「これで、おしまいだよ」
較は、気を収束して撃ち出す。
『バハムート』
その気の一撃は、結界に大穴を空けた。
「諦められるか!」
実は、最後の力を振り絞り、結界を構成する。
両膝をつく実に較が告げる。
「勝負ありだよ。諦めて結界をときなよ」
「何度も言わせないで下さい。この命に代えても彼女を復活させます!」
実が強い意志を込めて宣言すると較が言う。
「その彼女が崩れていくよ」
実が振り返ると、較の言うとおりに、実の奥さん、雲雀の体が崩れていく。
「……どうして?」
較が解説する。
「結界の元にする魔力と死者蘇生の魔力は、同じところから取っている。だから、無理に結界の方を過負荷にした。死者蘇生みたいな、高度な魔法が途中で魔力供給が止まったらどうなるかは、目の前にある通りだよ」
「雲雀!」
実の悲痛な叫びが地下に響き渡り、タワーオブバベルの事件は、解決した。
事件から数日後、今回の事件で危険性を認知された実は、非公式な裁判にかけられていた。
「この裁判って何なの?」
直感で今回の裁判に気付いてついて来た良美に較が答える。
「タブーを犯したからね。でもこっちの業界は、有能な人間には、その力で贖罪を求める場合が多いの」
そして、裁判官が言う。
「最後に確認する、お前は、妻の蘇生を諦めないのだな?」
実がはっきりと答えた。
「絶対に蘇生させて見せる。僕は、何があっても諦めない!」
その一言で裁判官が刑を確定した。
「汝には、蘇生した死者との共同生活を送り、一生、我等が与えた研究を行う事を罰とする」
その一言に、会場がざわめく。
較が舌打ちをする。
「あちきの努力は、無駄に終わったみたい」
そして空間が割れて、八子が現れる。
「お待たせ。ご依頼の品をお届けします」
八子が指を鳴らすと、実の前に、雲雀が現れた。
驚きのあまり声が出ない実に雲雀がしがみ付く。
「怖かったよ」
抱きしめかえす実。
「もう大丈夫です、これからは、ずっと僕が護ります」
裁判官が言う。
「それは、死んでいない限りどんな病気でも治す力を持ち人と最高の遺伝子学者、そして汝への記憶のサルベージによって成された、最高の死者蘇生だ。人間には、元の人間との差異すら指摘できないだろう」
そんな裁判官の言葉も聞こえていないように実と雲雀は、抱きしめあっていた。
「あれって罰な訳?」
良美の質問に較が頷く。
「最悪の罰。多分、他の死者蘇生を望む人間に対する見せしめだよ」
ここから先は、少し未来、較が、十斗と覇道グループの件で話を持った時の話である。
「予定通り、覇道グループは、細分化し、隠蔽した形で私の傘下に収めました。これがそれによって生み出された利益の一割です」
そういって差し出された小切手には、国家予算レベルの金額が書かれていた。
較がそれを受け取る。
「この短い期間でご苦労さま。八刃は、基本的に兵器関係には、関わりを持ちたくないっていうのが本音だから助かったよ」
十斗が頷く。
「どういたしまして。それよりもあの大道実は、どうしていますか? 余裕があればお借りしたいのですがね」
「精神病棟に入ってる。付き添いは、何回目かの死者蘇生をした雲雀さんだよ」
較が即答すると、十斗が言う。
「何度目と言うのは、どういうことですか? まさか何度も事故にあってるのですか?」
較が紅茶を飲みながら答える。
「実さんに殺されてるだけ。まあ想像は、出来たから、素体になるクローンもいっぱい作ってあったけどね」
十斗が事情を悟る。
「最初から、死者蘇生した人間と長く続かないという事が解っていたのですか?」
較が頷く。
「あれを愛せるのは、人形愛好家だね。所詮は、作られた命、それを知っている為に疑心暗鬼に陥る。実際、八刃の技術を導入して再生した死者だったら、言われない限り偽者だと解る人間は、皆無だって言うのに」
十斗が苦笑する。
「所詮は、人間は、より良いものを求め続ける。生きている人間ならば、そういう人間だと納得するか別の人間を探す道を選ぶ事が出来るが、死者蘇生という作られた命ならば、もっと良い物があるかもと思う、満足を知らない下らない考えですね」
眉を顰める較。
「ひねくれた意見だね。あちき達は、少し違って、本物との差異を無理やり見つけ出す疑心暗鬼による、同一性の否定を問題視してる。変な話で、死者蘇生が出来るレベルになれば自然と、ある程度の流れを見る力が生まれるから、その流れから一度外れたら、全く同じ物を生み出しても、同じ人間にならないのが明確に解る様になる。だから高位の人間ほど死者蘇生には、手を出さない」
十斗が肩をすくめる。
「所詮は、死んだって事実を消すことは、出来ない。例え、等価の物を手に入れても。だから私達は、戦っている」
その一言に較は、何か感じたが、敢えて無視をして立ち上がる。
「とにかく頑張りな」
較が立ち去った後、十斗の所に電話が入った。
「八刃が購入制限をかけている裏の一品を買い取って欲しい? 良いでしょう」
電話を切り十斗が笑みを浮かべる。
「八刃と良い関係にあると言うだけでプラスが発生する。これからも利用させて貰いますよ」




