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必滅少女伝  作者: 鈴神楽
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ホワイトファングを乗り越えるもの

ヤヤのリベンジ。ヤヤは、ゼロを倒せるのか?

「古流の鍛錬を始めるぞ」

 蒼牙の居た場所で、心配そうにしている小較に零が声をかけた。

 小較は睨みつけながら言う。

「敵に習うことなんてありません! あたしは、ここでヤヤお姉ちゃんが戻ってくるのを待ちます!」

 零は、小較を持ち上げる。

「下らない事を言っていないで鍛錬だ」

『イカロス』

 小較が強引に抜け出そうとするが、その動き全てが先読みされ、キャンセルされる。

「放してよ!」

 小較が叫ぶと零が淡々と言う。

「白風の姓を名乗るのなら、自分が出来る事をやり、常に次の戦いに備えるものだ」

「次の戦いって何よ!」

 小較の怒声に零が小較の目を見て言う。

「お前は、ヤヤを信じていないのか?」

 その一言にきょとんとした顔になる小較。

「ヤヤは、戻った後も戦い続ける。その時に足手まといになっても良いのか?」

 零の言葉に小較が首を横に振る。

「……そんなの嫌」

「だったら。今は、鍛錬だ」

 零の言葉に小較が頷く。

「解ったから、降ろして」

 降ろされて、大人しくついて行く小較であった。



『ホワイトファング!』

 較が叫びに答え、白い光が放たれる。

 呻き、地面と思われる場所で転げまわる。

 そして、較の身体にも、影響が出ていた。

 右半身が真っ白に光り、右肘までが獣毛で覆われて居た。

「負けて、たまるか!」

 右手を天に向けて再び較が叫ぶ。

『ホワイトファング!』



「ヤヤお姉ちゃんどんな特訓してるんだろう?」

 休憩時間に小較が誰に聞くに無く呟くと、零が飲み物を手渡しながら答える。

「ホワイトファングとは、どんな技だと考えている?」

 小較が少し考えてから答える。

「えーと、白牙様の力を撃ち出す技?」

 零は、苦笑しながら言う。

「正解とは、言えないな。あの技は、通常時には、塞いである白牙様の力のルートを一瞬だけ開くもの。今回、私の白牙の影響でそのルートの入り口の閉まりが悪くなった。それを一度、完全に開いて閉めなおす作業を行っている」

「なるほどね。上手く行くと良いね」

 小較が気楽に言うと零が苦笑する。

「残念だが、そんな簡単な事では、無い。元々、かなり無理をしていた。考えてみれば解る。水流がきついからうまく閉まらない状態の扉を一度、全開にしてから閉め直すなんて真似がどれだけ大変か」

 途端に顔を歪める小較。

「ヤヤお姉ちゃん大丈夫かな?」

 零がそんな小較の頭を撫でながら答える。

「ヤヤは、強い。本当の意味で白風の名を持つ人間だ。絶対に生きて帰ってくるから安心しろ」

 小較が不思議そうな顔をする。

「どうしてそんなにヤヤお姉ちゃんの事を信じられるの?」

 零が微笑を浮かべて言う。

「昔は、これでも婚約者だったんだぞ。父が敗れてご破算になったが、これでも普通の親族より仲がいいつもりだ。だから、ヤヤが良美って子に会うまでの今にも折れそうな程に薄っぺらまでに研ぎ澄まされた時も知ってる。そして、出会ってから本当の意味で強くなって行ったのもな」

 複雑な顔をして小較が質問する。

「今でも、好きなの?」

 笑顔になって零が答える。

「親戚として好きなだけだ」

 その時、氷が現れる。

「ふざけるのは、止めろ。それに前回の戦いは、何だ! 撃術など使いおって! 今のお前だったら撃術等なくても勝てただろうが!」

 零は、呆れた顔をしてから、小較の方を向く。

「鍛錬を再開するぞ」

「はーい」

 大人しく従う小較。

「無視をするな!」

 激怒する氷に零が告げる。

「エンさんは、掛け値なしの天才です。そのエンさんが作った撃術は、有効な攻撃手段です。そんな有効な攻撃手段を使わない戦いなど、白風の戦いとは、言えません」

「五月蝿い! 古流こそ一番優れた技なのだ!」

 氷の言葉に零が振り返り告げる。

「八刃の正義を知っていますね? 強い者が正しい。弱者の言葉に意味は、ありません」

 氷が顔を般若の様にして怒鳴る。

「父親を弱者と言うか!」

 そして、氷は、呪文の詠唱を始める。

『白い風よ、人の生死を司る風よ……』

 小較がびっくりした顔をする。

「何の冗談? 即死効果がある術だよ」

 零が表情を変えずに近づく。

『バジリスク』

 全身の骨を砕かれ倒れる氷を蔑む瞳で見ながら零が言う。

「最低だ」

 小較が頷く。

「そうだよね、実の息子に即死呪文を使うなんて」

 零が首を横に振る。

「違う。何の準備も無く、長時間の詠唱を使用する呪文を敵の目の前で使う。それが自分の死に繋がると思わない。温過ぎる態度。この人は、白風に生まれてくるべきでは、無かった」

 そう語る零の顔は、酷く悲しげであった。



 前回の死闘が行われたのと同じ場所。

 そこに、前回と同じ長達が居て、八子と間結の長が良美を特殊な結界で保護して居た。

 零は、中央で目を瞑り、較の登場を待っていた。

「あと五分で零時ですね」

 谷走の長の言葉に小較が言う。

「ヤヤお姉ちゃんは、絶対に来ます!」

「しかし、気配は、無いな」

 萌野の長の言葉に誰も反論出来ない。

 そして、時間が無常にも過ぎていく中、日付が変わる直前、空間が割れる。

「ギリギリだよね」

 空間の割れ目から較が落ちてくる。

「ヤヤお姉ちゃん大丈夫!」

 小較がそう叫ぶのも理解できた。

 体の変調こそなくなったが、較の顔は、痩せこけ、死人の様な顔色をしていた。

「大丈夫じゃないけど、時間もないから始めよ」

 較の言葉に小較が救いを求めるように零を見るが、零は、頷き、蒼牙を構える。

「了解した。始めて下さい」

 頷き、間結の長が宣言する。

「これより、白風家、次期長の座を賭けた試合を開始する」

 較が右手を前に出して言う。

「小細工する余裕も無いから、全力で撃ちます」

 深呼吸の後、較が叫ぶ。

『ホワイトファング』

 零は、蒼牙でそれを受け止めた。

 白い光りが周囲の空間を破壊する中、較が接近する。

『ホワイトファングオーディーン』

 白い光りが較の右手を覆う。

 通常防御が不可能な手刀に零が蒼牙で防戦するが、手刀が届く長至近距離では、蒼牙での防御が難しく、後退する。

 大きく離れた零に向かって較が右手を突き出す。

『ホワイトファング』

 この後の一連の攻防で勝負が決まる。



「あれを蒼牙様で受けたらゼロの負けだな」

 萌野の長の言葉に谷走の長が頷く。

「手数で負けているのを理解し、有効な手だけで攻めるヤヤの作戦勝ちだな」

 小較が複雑な顔をして言う。

「それじゃあ、ゼロさんの負け?」

「言っただろう、あれを蒼牙様で受けたら負けだと。多分、それは、無いな。そして、それに気付いていなかったらヤヤが再び敗れる」

 間結の長の言葉に小較が首を傾げる。

「蒼牙様以外で、ホワイトファングをしのぐ方法なんて無いよね」

 八子が首を横に振る。

「前回の戦いを思い出して、ゼロくんが最後に何をした?」

 小較も気付く。

「白風流の終奥義……」



『白風流終奥義 白牙』

 零の右手から放たれた光りは、較のホワイトファングの白い光りを逸らした。

「まだだ!」

 震える膝に無理やり力を要れ、零が鋭く較の居た方を見た時、そこに較は、居なかった。

『ああ、我等が守護者、全てを切り裂く存在』

 聞こえてきた詠唱に零の顔に焦りが浮かぶ。

『偉大なりし八百刃の第一の使徒』

 晴れた光の中から較が姿を現す。

『我が魂の訴えに答え、その力を一時、我に貸し与え給え』

 左手を零に向ける。

『白風流終奥義 白牙』

 白い光りが、零に迫る。

 零は、咄嗟に蒼牙で受け止める。

『ホワイトファングバハムート』

 接近した較の右手から放たれた白い光りが蒼牙を大きく弾き飛ばした。

 零の眼前に白く光る右手を突きつける較。

「白牙を撃つ? そうすれば、相殺できるかもよ?」

 零が首を横に振る。

「残念だが、白牙の呪文詠唱より先に、お前のホワイトファングが私を消滅させる。私の負けだ。好きにしろ」

 間結の長が宣言する。

「勝者、白風較。これより、白風の次期長は、較とする」

 較がよろよろになりながらも蒼牙を掴み良美のところに行く。

「後は、任せて」

 八子が蒼牙を受取ると較は、そのまま倒れるのであった。



「折角の戦いを見れなかったなんて、損した」

 不満げな顔をする良美に、右手に厳重な封印されて居る為、資料チェックをしている較が答える。

「はいはい。それより、そろそろ夏休みの宿題を始めてくれる?」

 嫌そうな顔をする良美。

「ヤヤだってやってないじゃん」

「ヤヤお姉ちゃんは、良美が起きていない朝のうちにやってるの!」

 小較が文句を言う。

 そこに零が来る。

「もう彼女は、大丈夫みたいだな?」

 較が頭を下げる。

「感謝しています」

 零が右手を良美の傍にあった蒼牙に向ける。

 すると蒼牙が零の手に収まる。

 驚いた顔をする小較。

「嘘、それじゃあ、あの試合の時も蒼牙を手元に戻す事できたんじゃ?」

 較が大きく溜息を吐いて言う。

「その可能性も考えたんだけどね」

 零が小較を連れて鍛錬に戻っていく。

「勝ちを譲って貰って悔しい?」

 良美の言葉に較が肩を竦めて言う。

「譲られた自分を情けなく思うだけだよ」

 少し不機嫌そうにそっぽを向く較を見て良美が言う。

「次は、完勝するんでしょう?」

「当然の事を言わないでよ」

 較の言葉に良美が笑みを浮かべる。

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