巻き込まれた少女
ヤヤの出番なし。智代が主役です
「あたしって普通の女子中学生だね」
渋谷の町を歩きながら少女が呟く。
自分と同じ様な少女達が行き来する町の中、その少女は、小声で続ける。
「何か変わった事無いかな?」
その時、一つの露店を見つける。
そこでは、シルバーのアクセサリーを売っていた。
普段は、あまり興味がないそのアクセサリーの中で、一つの指輪が少女の目を引きつけた。
外見は、シンプルだが、不思議なマークが刻まれたその指輪に、少女が手を伸ばす。
「これ、いくら?」
店番の外人が首を傾げて居たが、周りの商品の値段を見て答える。
「サンゼンエンよ」
少女は、財布を覗き込む。
そこには、今日の活動資金、三千円(小銭抜き)が入っていた。
指輪を買ってしまったら、折角渋谷まで来たのに何も買い物が出来なくなる。
「もう少し、安くならない?」
外人は、首を横に振る。
もう一度、財布を見る少女。
そして、少女は、決断する。
「今日は、ウインドウショッピング」
少女は、三千円を支払い、指輪を買うと、直ぐに左手の人差し指につけて、露店を離れた。
少女がさった後、店番の外人が首を捻る。
「それにしても、一度も見たこと無いアクセサリーだったね。まあ、どれも数百円の安物だから、三千円で売れれば問題ないか」
あまり気にしないで、店番を続けていると、数人の不思議な刺青をした男達が露店を囲む。
外人は、すこし引きながらも笑顔を作って、わざと下手な日本語で言う。
「ドレモ、ヤスイヨ」
商品を何度もチェックした後、中央に居た男が言う。
「指輪をどうした?」
外人が幾つかの指輪を指差して言う。
「ユビワ、イッパイアルヨ」
男は、袖から鎖を伸ばす。
「同じ事は、何度も言わない。お前の露店の商品では、無い指輪は、どうした?」
外人の顔が引き攣る。
「ナンノコトカ、ワカラナイネ」
次の瞬間、鎖が意志を持ったように動き、外人の肩を貫く。
地面を転げまわる外人。
「次、嘘を吐いたら、殺してから、その脳味噌に聞く事になるぞ」
外人は、恐怖に震えながらも答える。
「売った、三千円で売りました! 相手は、何処にでも居る女子中学生だ!」
男が舌打ちする。
「面倒な事を」
男の隣に居た、女が言う。
「その少女は、指輪を着けた?」
外人が頷くと、女は、男に言う。
「指輪の力が発動している可能性が高いですから、その波動を追えば見つかります」
男が頷くと刺青の男達が行動を開始する。
そして、最後に残った女が、一本の針を外人の額に刺す。
「売らなければ、生きて居られたのにね」
女は、針を抜いて、離れる。
痛みと恐怖で震えていた外人だったが、針が抜かれた瞬間、無表情になり、露店を閉め始める。
そして、そのまま、道路に飛び出す。
急ブレーキと周囲の人間の悲鳴が響く。
外人は、不法入国者で、借金も多かった為、衝動的な自殺として処理される事になる。
少女は、不思議な感覚に襲われていた。
何かに導かれるように路上で行われて居たくじをやれば、特賞が当り、偶々入った店では、来客者一万人目になってサービスを受けられた。
「今日ってラッキーデー?」
サービスで貰ったアイスクリームが手にたれる。
それを舐めた時、さっき買った指輪が目に入る。
「もしかして、この指輪のおかげ?」
「その通りです。その指輪は、導きの指輪。身に付けた者の寿命を使って、望む物の所に導く指輪」
女性の声に少女が振り返ると、そこには、奇妙な刺青をした集団が居た。
「それは、我々の物だ。返して貰おう」
少女は、指輪を握り締めて言う。
「駄目よ、これは、あたしが買ったんだから」
男が舌打ちして、鎖を伸ばし始めた時、女が前に出て、一万円札を取り出して言う。
「手違いで売られたのよ。これで買い戻させてくれない?」
少女が、悩む。
少女にとって一万円は、物凄い大金である。
元々三千円だったものだから、七千円の儲け、少女のお小遣い数ヶ月分だ。
悩んだ結果、少女は、指輪に手をかける。
「お釣りは、無いよ」
女が微笑み頷く。
「構わないわ」
しかし、指輪は一向に抜けなかった。
「どうして、指輪が抜けない!」
少女の声に男が怒鳴る。
「ふざけるな!」
それを女が抑える。
「本当かもしれないわ。導きの指輪は、使い手を選ぶ。選ばれた人間の寿命が尽きるまで、その持ち主から離れないとも言われてる」
女は、少女を見て言う。
「いっその事、この少女を操り人形にして、導きの指輪を使ってもらいましょう」
男が頷く。
「許可する。こんな小娘一人が居なくなった所で、直ぐに忘れられるだろう」
少女が冷や汗を垂らし、後ろを向くと駆け出す。
「逃がさないわ」
女が指を鳴らすと、周りの大男達が少女を捕まえる。
「放して!」
女が妖しい笑みを浮かべて言う。
「導きの指輪に選ばれた事を怨みなさい」
女の針が少女の額に迫る。
「嫌!」
少女の叫び声に、周りの人間もざわめくが、刺青をした大男達に睨まれて近づかない。
「そこまでだ!」
少女を捕まえる大男を少年が蹴飛ばす。
開放された少女を背後に庇い、その少年、童顔に似合わない、鋭い目付きをした高校生くらいの少年が、刺青をした集団を指差す。
「これ以上、勝手な事は、させないぞ、クライシスコーラー」
女が舌打ちをする。
「邪魔をするのね、神器会」
男が前に出る。
「俺の出番の様だな」
男の袖から鎖が延びて、少年に向かう。
少年は、背中から、刀身に刃が無い日本刀を取り出す。
「その力を解放しろ、音切」
少年がその日本刀、音切を振るうと、届かない筈の鎖が弾かれ、男が飛び退き、嬉しそうに微笑む。
「その年で、神器使いか。面白い」
男の両腕の袖から鎖が伸びる。
少年も油断無く、音切を構える。
その時、人ごみを掻き分ける声がする。
「警察です、道を開けて下さい」
男が躊躇していると女が言う。
「ここは、引きましょう。あの少女が着けている限り、追うのは、簡単よ」
男は、不満げだったが頷き言う。
「俺の名は、蛇鎖だ。次にあったが、お前の最後の時と思え」
去っていく刺青の集団。
そして、少年も少女の手を引っ張り駆け出す。
「俺達も逃げるぞ」
少女が躊躇する。
「何で? 警察に保護して貰えばいいじゃない」
「どうやって説明するんだ? 指輪を買ったら追いかけられて、その指輪が抜けなくなった。信じてくれると思うか?」
少年の言葉に、少女が言葉に詰まる。
その間に、少年が再び走り始める。
「警察は、撒いたな」
裏道に入った所で、少年が足を止める。
「もう、どうなってるの?」
泣きそうな顔で少女が言う。
少年は、舌打ちをして、少女の指輪を指す。
「全ては、その指輪だ。その指輪は、神器で、俺達、神器会でも追っていたんだが、奴等、クライシスコーラーに先に発見された。奪い合いのさなか、奴等の仲間の一人が死ぬ前に、渋谷の露店に隠したと言う情報を手に入れて調査していたら、さっきの場面に出くわした」
少女が頭を抱えて言う。
「意味不明よ! 神器って何? クライシスコーラーって飲み物? ちゃんと説明して!」
少年が溜息を吐いて言う。
「解った。説明してやる。その前にお前の名前は、何て言うんだ?」
少女は、少年を睨み言う。
「人に名前を尋ねる時は、自分からでしょ」
少年は頭を掻きながら言う。
「はいはい。俺の名前は、黒林館達樹、危険な神器を管理する、神器会の一員だ」
「あたしは、緑川智代、私立羽鳥中学校に在籍してるよ」
少女、智代の答えに、達樹が首を傾げる。
「どっかで聞いた事ある学校だな?」
智代が肩を竦める。
「気のせいでしょ。運動会の時に、とんでもない事が起こった事があるけど、いたって普通の中学だもん」
達樹も少し悩んでいたが、諦めた顔をしていう。
「そうだな、今は、それよりも現状を理解して貰うのが先だ。お前のつけている指輪は、着けた人間の寿命を食らい、その人物が望む所に導く力がある。奴等、クライシスコーラーは、その力で魔神の封印を解こうとしている。もし魔神が復活してしまえば、世界は、お終いだ。俺達は、それを防ぐ為に動いている」
智代は、不思議そうな顔をして言う。
「どうして、そいつ等は、そんな事をするの?」
達樹が肩を竦めて言う。
「起源は、キリスト教の一派で、世紀末になったら現れ、人々を救うキリストの復活を望んでいる。その為、自分達の手で世紀末を起こそうとしてやがるんだ」
智代が呆れた顔をする。
「本末転倒じゃん」
達樹が頷く。
「俺もそう思うが、奴等にとっては、意味がある事らしい。とにかく、その指輪をしている限り、やつらは、お前を狙う。外れるまで、俺達の所に来い」
智代が指輪を凝視した後、言う。
「あたしは、家に帰る!」
「あのな、事態が解ってるのか?」
達樹の言葉に、智代がはっきり答える。
「解らない。でも、一つだけ解るのは、貴方が信用できるかどうか解らないって事。だからうちに説明に来なさいよ」
達樹が言葉に詰まると智代が言う。
「そういうことで、あたしの家は、竜夢区の……」
その一言に達樹が驚き言う。
「駄目だ、竜夢区だけは、いけない」
首を傾げる智代。
「どうして、竜夢区だと駄目なのよ」
達樹は、真剣な顔で告げる。
「あそこは、八刃の連中のテリトリーだ。こっちの世界の住人は、入っただけで殺される」
「また出た、今度は、何? どんな組織?」
呆れ顔になって智代が言うと、達樹が嫌そうな顔をして言う。
「あいつ等は、人間じゃない。人の外に居る。常識が通じない化物だ。すまないがそちらから来てくれないか? 名刺を渡す。家族にも見せて良い。そうすれば、万が一の時も、家族が動く。これ以上の妥協は、出来ない」
達樹に渡された名刺を見て、智代が頷く。
「仕方ないわね。来週で良い?」
「明日だ、交通費も渡しておく」
達樹が千円札を渡す。
智代が、溜息を吐いて言う。
「でも、学校があるから放課後だよ。遅くならないでしょうね?」
「善処する」
達樹の言葉に不信感を覚えながらも、家路につく智代であった。




