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必滅少女伝  作者: 鈴神楽
23/52

八刃の意味

撃術を封じられたヤヤに勝ち目は、あるのか?

「安全にとる方法は、無いか」

 調査レポートを読み終えて、較が溜息を吐く。

「一生このままって事?」

 良美が不機嫌そうに言うと、較が首を横に振る。

「時間があれば幾らでも方法はある。逆言えば、一週間もすれば、それに籠められた力も無くなって、無効化する。問題は、その時間だね」

 較がシシを見る。

「気にしないで下さい。仲間を助けるのは、僕一人で行います」

「あたしも手伝う」

 思いつめた表情で言う小較に、シシが首を横に振る。

「駄目です。小較さんは、もう五八八では、ないのですから。これは、僕達の問題です」

 つらそうな顔をする小較に、良美が苛立つ。

「助人頼むって訳には、行かないのか?」

 較が肩を竦める。

「駄目だよ、今回の事は、明らかに個人的な話。多少は、バトル組織の情報が流れてるけど、それでも直接介入する言い訳には、ならない。あちきが直接介入するのも、実際は、問題なんだけどね」

 シシは、頭を下げる。

「ご迷惑をおかけしました。僕は、これから相手のアジトに向かいます」

 小較が止められないで居る間に、シシが出て行こうとした時、良美のかかと落しが、シシの脳天に決まる。

「何するの!」

 小較がクレームを入れるが、良美が無視して断言する。

「何いい子ちゃんぶってるのよ! 仲間を助けたいんでしょ?」

 シシが頭を押さえながら頷くと、良美が断言する。

「だったら、もっと他人に頼りなさいよ」

「しかし、これは、僕の問題ですから」

 シシが反論すると、容赦ない張り手を入れる良美。

「毛も生えてないガキが、生意気なのよ!」

 理不尽な扱いにシシが戸惑う中、較が諦めきった顔で言う。

「助人が頼めないから、あちきが手伝うしか無いね。それじゃあ作戦会議だよ」

 小較が躊躇しながら言う。

「良いの?」

 較は、そんな小較の頭を撫でながら言う。

「可愛い妹の友達の願いだもんね。姉として当然だよ」

「しかし、力も使えなければ、いくらなんでも無茶です」

 シシの言葉に較が庭で、顔を倍に腫らしながら、木から吊るされた、モリモトを指差し微笑む。

「君もあの男と一緒だね。術なんて関係ない。本気で強いって意味を教えてあげる」

 シシが戸惑いながら、作戦を聞いて、一言。

「僕は、絶対に八刃に、特にヤヤさんを敵にまわしません」



 三日後の、ダークウェポンカンパニーのアジト。

「ギリギリまで準備をしているみたいだな」

 アスモデウスが余裕の態度で待っていると、少し苛立った顔をして、ノーベが言う。

「もし来なかったらどうする? 作戦を延長させるか?」

 アスモデウスは、首を横に振る。

「作戦は、続行です。ただし、実際に行わせるのは、一体。それを三日もやれば十分でしょう」

「三日も研究が遅れるのは、困るぞ」

 ノーベの自分本位の意見にアスモデウスが苦笑していると、アジトが大きく揺れる。

 眉を顰めるアスモデウス。

「日本は、地震が多いと聞きましたが、本当ですね」

 その予想は、外れ、揺れは、連続する。

「アスモデウス様、大変です、正体不明の侵入者が、アジトを無差別に爆破しています」

 部下の報告に、思案するアスモデウス。

「シシには、大量の火薬を手に入れる術があるとは、思えない。八刃も動いていないのは、確認済み。第三者か?」

「半分正解」

 その声と共に、報告に来た男が気絶する。

 その後ろから、較が現れる。

「浸入は、出来ましたか。しかし、単独で我々を全滅させられますか?」

 アスモデウスが平然と告げると較は、あっさり首を横に振る。

「幾らなんでも無理だね。単独じゃ」

「八刃の救援を期待しているのですか? それは、無理ですよ。こちらに干渉しないと確約を貰っています」

 アスモデウスの問いに肩を竦める較。

「まあね、今回の事は、個人的な事だからね。だから金で人を雇った」

 アスモデウスが予想外な展開に驚いた表情をする。

「まさか、どうして?」

 較は笑みで答える。

「本当に不幸ね、あちきが術使えれば、こんな回りくどい事なんてしないんだけど。爆破のケンって、知ってる」

 その一言に、アスモデウスの顔が引き攣る。

「イギリスの貴族御用達ホテルを爆破させて、国際指名手配されている、爆破のプロ」

 今まで黙っていたノーベが怒鳴る。

「何でそんな犯罪者の力を使う! お前達だったら、自分達の力で何でも出来るだろう!」

 大爆笑する較。

「何が可笑しいのですか?」

 不機嫌そうな顔をするアスモデウスに、較が涙を拭く。

「あんたら、八刃を誤解してるね。圧倒的な力を持って、オカルト世界の王者とでも思っていた?」

 アスモデウスが頷く。

「実際そうです。この業界では、誰も八刃に逆らおうとは、思っていません」

 較が凄惨な顔を見せる。

「八刃は、神への、上位者への反逆者。絶対の力に逆らう意思。どんなに醜く、みっともなく、血反吐を吐いて、卑怯と罵られても、戦うそれが、あちき達なのよ」

 言葉を無くすアスモデウスとノーベ。

「絶望と相対した事ある? 勝てる可能性なんて、僅かも考えられない状況でも戦う。それが必要だから。大切な者を護る為だったら何でもする、それが八刃なんだよ」

 較がゆっくり近付いてくる。

 ノーベが腰を抜かす。

 歯軋りをしてアスモデウスが怒鳴る。

「五月蝿い! 小娘の分際で! 俺が今の地位につくまでどれだけの苦労を積んだか知るまい! 我が名前の謂れを知れ!」

 その背中から、牛と羊の頭が現れる。

 周囲を瘴気が漂う。

「術を失ったお前に、魔王の力にあがなう術は、無い!」

 アスモデウスが高らかに宣言する。

 較は、冷め切った目で告げる。

「愚かな男。自分の存在を代償に、魔王の端末に成り下がった。それで力を得たつもりになっている。それは、所詮貴方の力では、無い。その意味を知りなさい」

 較は、拳銃を取り出すと、牛と羊の頭を撃ち抜く。

「無駄だ! 幾らでも回復する」

 アスモデウスの言葉通り、較に撃ち抜かれた頭は、復活していく。

 しかし、較は諦めず、拳銃を撃ち続ける。

 高笑いをあげるアスモデウス。

「所詮は、ガキ! どれだけ無駄な事をしてるのかも判らないみたいだな!」

「アスモデウス、その体は、大丈夫なのか?」

 ノーベの言葉にアスモデウスが自分の体を見下ろし、呻く。

「何なんだ?」

 アスモデウスの体が、本来のそれとは、異なる、異形の姿に侵食されていく。

「上位者の力を体に宿すって事は、常にその力に対して浸食されていく事を意味するんだよ。自分の存在を消耗する事でしかその力を使用できない」

 較は、自分の右手を見ながら答える。

「馬鹿な、俺には、まだやる事があるのだ!」

 アスモデウスが叫ぶが、その侵食は、止まらない。

 それを確認してから較が携帯を取り出す。

「異邪の存在を確認したよ。助人お願い」

 それだけを告げて、切ると、アスモデウスを見る。

「貴方がアスモデウスに侵食された時点で、もう異邪認定されたから、八刃が動く理由が発生したの。ゲームセットだよ」

 背中を向ける較にアスモデウスが叫ぶ。

「頼む! 助けてくれ! 俺は、俺は、死にたくない!」

 較は、答えずその場を後にする。



「仲間達の回収は、終了しました」

 シシが戻ってきた較に言うと答える。

「急いで脱出するよ。この爆破騒ぎで混乱しているけど、八刃が介入してくるから、こんな建物、直ぐに崩壊するよ」

 その時、ノーベが現れる。

「このままでは、済まさないぞ!」

 自分の胸に何かを突き刺す。

 較は、シシと一緒に行動していた小較に言う。

「けりをつけてきなさい」

 小較は、頷き前に出る。

 その間にもノーベの体が巨大に変化する。

『これは、魔法強化薬に、最後に残った白風遺伝子を組み込んだ物だ! 術を使えぬ白風にも、逆らう失敗作どもにも負けないぞ!』

 突進してくるノーベ。

 小較は、それを紙一重でかわすと、その後ろの壁が粉砕される。

 すぐさま、振り返り、連続攻撃を繰り出すノーベ。

 最小限の動きで回避する小較だったが、攻撃と同時に発生するカマイタチで、服や表皮が切り裂かれる。

『所詮この程度、もうお終いだ!』

 小較が大きく息を吸い、拳を前に出す。

『止め!』

 組んだ両手に炎を生み出し、小較に向かって振り下ろすノーベ。

『カーバンクルホース』

 左手で受けた炎の一撃が、小較の体を通じて、突きつけた拳から、相手の体に打ち込まれる。

 吹き飛ぶノーベ。

 壁に激突し、元の姿に戻ったノーベを見下ろして、小較が言う。

「白風の力は、遺伝子なんかじゃないんだよ。その意思こそが、力なの」

 後ろで頷き較が言う。

「だから、小較は、あちきの妹なんだよ」

「それでこいつどうするの?」

 今回は、直接護れないからと、離れた位置に居た良美が近付いて来て言う。

 較は最初に小較を見る。

「あたしは、もう決着をつけたよ。シシが選んで」

 シシに視線が集まると、シシがノーベを見下して言う。

「怨みは、あります。でも怨みに囚われるつもりは、ありません。それにこいつは、もうおしまいです」

 そして、ノーベを残して、アジトを出る較達。



 アジトの外で、魔法改造された子供の事後処理をしていると良美が一言。

「それで、これ何時外れるの?」

 治療方法の検討をしていた較が、めんどくさそうに言う。

「一週間もすればエネルギー切れになるから、それから外すよ」

 おざなりな答えに、不満そうな顔をする良美。

「自分の事しか考えられない人って、最低」

 小較の嫌味に、二人が喧嘩モードになった時、較の携帯が鳴る。

「はい、どうしましたか?」

 相手の答えを聞いて、大きく溜息を吐く較。

「了解、アジトの外に開放して良いよ」

 立ち上がる較を見て、シシが言う。

「何かトラブルがあったんですか?」

 較が肩を竦めて言う。

「アスモデウスの侵食が完了して、完全なアスモデウスの分身に成り下がったらしい。そうなる前に、始末するつもりだったのにね。魔王の分身相手じゃ、居場所を明確にしておかないといけない、上位の八刃の人間じゃないと駄目」

 慌てるシシ。

「大変じゃないですか!」

 あっさり頷き較が言う。

「仕方ないから、強引な方法で行くよ」

 良美があっさり頷く。

「ぱっと済ませてよ」

 その時、建物が崩れ、完全に魔王の写し身が、その姿を現す。

 瘴気だけで、周囲の建物を変質させている。

「あんな化物とどうすれば」

 圧倒されるシシだったが、小較は、平然と答える。

「大丈夫、魔王そのものならともかく、魔王の分身じゃ、ヤヤお姉ちゃんの敵じゃないから」

 シシが信じられない顔をする。

「いくらなんでも、術を封じられていたらどうしようもない。もし術があっとたしても、人にどうにか出来る存在じゃない!」

 較は、右手を魔王の写し身に向ける。

「そんな存在に抗う為にあちき達は、人である事を止めたって言われているよ」

 シシが叫ぶ。

「それでも、あれは、尋常では、ありません! あんな化物が一個人にどうにか出きるわけが無いです。急いで、応援を頼むべきです!」

 シシの必死に説得する中、較が力を漏らす。

『ホワイトファング』

 それは、白い光の姿をとった力、存在する如何なる物も打ち砕く為の力。

 白い光が消えた時、魔王の写し身が消滅していた。

 同時に、倒れる良美。

 シシが慌てて駆け寄る。

「何で力を使ったのですか? 力を使えば、良美さんがこうなる事が解っていたのに?」

 較は良美の傍に行って言う。

「平気?」

 良美が首輪を毟り取って言う。

「多少は、慣れたからね」

 シシが状況を解らないって顔をする中、小較が言う。

「良美が倒れたのは、首輪の力じゃないよ。ヤヤお姉ちゃんが右手に侵食した、白牙様の力の、一時解放の反動だよ」

 較が首輪を撃術で燃やしながら言う。

「あちきの力ならともかく、白牙様の力を受けて、人が作ったアイテムが持つ訳がないの。それでも、白牙様の力の解放は、あちきもさっきの化物と一緒になる可能性がある危険な事だから、避けてたけどね」

 シシは、いまだ軽く白く燐光を放つ較の右手を見ながら言う。

「貴女も、上位者を宿す事で、その力を自分の物にしているのですか?」

 苦笑する較。

「まさか、これは、代償。昔、白牙様の力を使いすぎた事のね。上位者の力を借りる奥義があるんだけど、それを無茶に使いすぎた為に、あちきの右手は、侵食されているの。アスモデウスみたいな、ちゃんとした契約も無い。はっきり言えば、さっきの奴よりよっぽど危険な状態。少しでも油断していれば、あちきは、白牙様に飲み込まれて、消えてしまう」

 シシの顔が引き攣る。

「信じられません。そんな状態で、普通に生活が出来るのですか?」

 較は、良美を抱き上げて言う。

「ヨシが生き残らせてくれたの。消滅を覚悟したあちきの体を食べて、死ぬ時は、一緒だなんて、脅しをかけてきたんだよ」

 シシは、信じられないものを見る目で良美を見る。

「どうやったら、そんな毒薬を飲むような事が出来たんですか?」

 良美が、調子悪そうな顔をして言う。

「お前もやっただろう、護りたいものが居るんだ。危険かどうかなんて、関係ないんだよ」

 較がフォローを入れる。

「どんなに理屈では、正しくても、それが納得できない限り、人は、抗うべきなんだよ。だからあちき達は、神様だって敵に回す、それが八刃なんだよ」

 そして、この事件は、解決を迎えた。



「結局、どうするんだ?」

 検査入院した病院のベッドに寝た状態で、果物を食べていた良美の質問に、シシが答える。

「僕は、八刃の下部組織に入ることにしました」

 較が溜息を吐く。

「他の魔法強化された人と同じ様に、戻してもらって、普通の生活した方が良いって言ったんだけどね」

 シシが強い意志をこもった口調で答える。

「僕も抗いたいんです、人身売買が行われるこの世の仕組みに。その為には、力が必要です。その一番の近道を選んだだけです」

 良美が大きく頷く。

「男子は、そうじゃないとね」

「良美は、そうだから女らしくないんだよね」

 小較が突っ込むと、毎度の喧嘩が始まり、そんな平和の風景を護ろうと強く思う較であった。

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