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必滅少女伝  作者: 鈴神楽
12/52

世界で一番の重石

ウエイトオブアース、大門良美。彼女の強さの秘訣とは?

「ヤヤさんは、また呼び出し食らってるの?」

 エアーナの言葉に良美が帰り道で買ったアイスを食べながら不満げな顔で頷く。

「核ミサイル撃たれた仕返しに、ホワイトハウスを半壊させた位で呼び出しなんて、八刃の奴等も器が小さいな」

 頭を抱えてエアーナが言う。

「それってどっちもただ事じゃないと思うよ」

 だが、良美は、当然そうな顔をして答える。

「そりゃ大事だろうが、やられたらやり返す。これが常識だよ」

 大きく溜息を吐いてエアーナが言う。

「良美さんにとっては、不良との喧嘩も国相手の戦争も一緒なんだね?」

 頷く良美。

「当たり前。どんなに事態が大きくなっても、結局は喧嘩の延長戦。自分が正しいと思ったら貫き通せば良いの」

「良美さんは強いね」

 エアーナの言葉に良美が頷き言う。

「秘訣があるけどな」

「秘訣?」

 エアーナが首を傾げる。

 エアーナが聞き返そうとした時、良美が銀行を指差す。

「ちょっと合宿費を下ろしたいんだけど良い?」

 エアーナが頷くと良美が銀行に入っていった。



「何回、同じ事を言わせれば気が済むのだ?」

 間結の長、陽炎の言葉に較が大きく溜息を吐いて言う。

「相手が大陸間弾道弾を使ってきたのですから仕方なかったのです」

 陽炎は、較の言い訳をあっさり否定する。

「朧が居たのだ、八刃だけなら十分回避する方法があった筈だ」

 陽炎は、その事実を示す、力こそ低いが、多才さを示し、八刃でも有力者である息子、朧の報告書を示す。

 他の長も一通りその資料には目を通しているのか、較に突き刺さる視線は動かない。

「お前のやった事は二重で危険な事だ。一つは白牙様の力を使うという物理的な危険。そしてもう一つは必要以上の干渉による、八刃の不干渉性の低下させる危険」

 重い沈黙の中、較が宣言する。

「それでもあちきは、間違った事はしていません」

 遠糸の長、翼が言う。

「しかし、その所為で八刃が不干渉の信が失われれば、八刃と人類との殲滅戦が始まるのですよ」

 何も言い返せない較に翼が続ける。

「外の世界の人間が考えている程、八刃は磐石では、無いのです。強すぎる力を持つ八刃は一方的に自分達の我を押し付ける事が出来ます。しかし私達が望むのはそんな事ではありません。その意思を示すための不干渉なのです。その約定が破られれば人は直ぐにも八刃の排除の為に全力を尽くすでしょう」

「万物の霊長の座に固執する人類には、八刃の存在は本来ならば容認出来ないのだ」

 陽炎の言葉に、八刃の長達の視線が冷たさに較が言う。

「あちき達も人間です!」

 その言葉に神谷の長、夕一が言う。

「残念だが、人はそれを認めない。そして、人でないことを示す物理的な証拠等幾らでもある。チンパンジーより違う遺伝子配列。戦闘に特化した肉体。長い年月で、作られた戦いの為の魂。我々は、どんなに頑張っても人と主張できる者では、無い」

 決定的な言葉であったが、較は、真直ぐな瞳で言う。

「例え人と違っても親友には、なれます。親友の為に戦う。それが八百刃様の教えの筈です」

 萌野の長、勇一が言う。

「そうだ、だがお前にそれだけの力があるのか? その右手の力、白牙様の絶対の力に抗い続ける力が?」

 較は頷く。

「あります。あちきは、自分のこの白い手で護らないといけない者がいっぱい有りますから、負けません!」

 未だ封印が無ければ発光が収まらない右手を掲げて言う較の言葉に百母の長、西瓜が言う。

「八百刃様の教えを出されたら私達の負けだ。我等八刃は、正義なんてお題目は、とっくの昔に捨てている。人であることすらやめた我々に、残っているのは、大切な者を護るそれだけだった筈だ。ここは、その思いを信じるしかないな」

 不満げな顔をする一部の長だったが、力こそ全ての八刃で、三強の一人、西瓜に逆らうものは、居なかった。

「それでは、これまで通り、右鏡ウキョウ左鏡サキョウにウエイトオブアースの警護を続けさせるということで問題ありませんね?」

 頷く長達に較が有る事実に気付いた。

「まさか、排除するつもりだったのですか?」

 その言葉に答える者は居ないが、較は確信した。

 較の右手の封印から白い光が漏れ始める。

 緊張が高まる中、霧流の長の代理で来て居た八子が言う。

「ヤヤちゃんが自分を制御している間は大丈夫よ。安定している力を無理に乱そうとはだれも思わない。だけど、その安定が無くなれば、その時はあたし達も容赦をしない。あたし達にも護りたいものがあるから」

 暢気そうだが、芯が通ったその言葉に較の右手の光が止まる。

「心に留めておきます」

 頭を下げる較、そして較に対する話は終わり、次の議題に移る。

「アメリカの今回の件については、不問にしたが、あの大国がそうそう性根を入れ替えるとは思えない。今後の対応としては……」

 陽炎の言葉で始まる、自分とは直接関係ない重要議題に較は溜息を吐いて小声で言う。

「お父さんも重要会議の時くらい帰ってきても良いのに」



 綺麗な長い黒髪を右で纏めた、14歳の同じ年の少女達より長身の少女がクレープを食べながら溜息を吐く。

「いつまで、こんな下らない仕事しないといけないんだろう?」

 少女の名前は、谷走右鏡。

 谷走の長の命令で、双子の妹、左鏡と一緒に良美の護衛をやっている。

 今は、左鏡の番で、出来た休憩時間でクレープを食べていた。

「ギャラは、白風の次期長が全面的に出してくれるから、良いけど。こう白風の次期長が離れる事が多いと、あたし達のただでさえ少ないプライベートタイムが無くなるね」

 携帯電話が震える。

「もう交代の時間かー」

 溜息を吐いて、左鏡の気配を辿ると何故か人ごみに突き当たった。

「まさか、トラブルに巻き込まれているなんて言わないでよね!」

 駆け出す右鏡の期待は見事に裏切られる。

『犯人に告ぐ、人質を解放して大人しく出てきなさい!』

「うるせー! 人質を殺されたくなかったら、直ぐにヘリを用意しろ!」

 右鏡の眼に、銀行の入り口を囲む警官隊と人質に銃口を向ける銀行強盗犯そして、銃口を向けられた良美の姿が眼に入った。

「どうして、風院の時と良い、揉め事に巻き込まれるの?」

 本気で信じられないと言う顔をしながら右鏡が呟くのであった。



「どうしましょう?」

 右鏡と良く似ているが、髪を左に纏めている左鏡が本気で困った顔をしていた。

 その左鏡の前で良美が銀行強盗犯に怒鳴る。

「いい加減にしなさいよ! 他人に迷惑かけてるのが解らないの!」

「うるせいガキ! お前は大人しく人質になってれば良いんだよ!」

 拳銃の銃口を良美に向けたまま、トリガーに力を入れる銀行強盗犯。

 周りの人間が青褪める。

「大人しくしてなさい! そうすればきっと助かるはずよ!」

 銀行の窓口のお姉さんが必死にそう言うが良美は引かない。

「第一銀行強盗なんて何でしたの?」

 銀行強盗犯が怒鳴る。

「あのパチンコ屋の所為だ! 絶対、出ないような細工してやがる! 騙された俺が高利貸しに借金返済を催促されて仕方なくこんな事をしたんだ。そうだ、全てあのパチンコ屋がいけないんだ!」

 呆れた顔をする良美。

「天然記念物クラスの馬鹿だね」

 左鏡もそれには、同意見だが、同時に小声で呟く。

「そして、そんな天然記念物クラスの馬鹿を挑発する、貴女は史上最強の馬鹿です」

 その時、左鏡の携帯電話が震える。

 左鏡は、犯人から死角になる位置で、携帯電話を開き、メールを確認するとそこには、右鏡からの現状の確認のメールが来ていた。

 小さく溜息を吐き、現状を簡潔にメールで送る左鏡であった。



「銀行強盗犯を挑発するって何考えているの!」

 右鏡が怒鳴り、苛立っていると携帯電話が着信する。

 相手を見て、苦虫を噛んだ顔になりながらも、右鏡が電話に出る。

「はい、右鏡です」

 そして電話の相手、希代子の声が携帯電話から流れてくる。

『言い訳は後で聞きます。こちらで出来るだけ情報は止めておきますが、もって三十分です。それを越したら最悪な状況になります。それまでに解決しなさい』

 一方的な通達に右鏡は、予想が外れている事を願いながら質問する。

「最悪の状況とはどういうことでしょうか?」

 しかし的中した予想と同じ答えが希代子から返ってくる。

『ヤヤがその銀行に突入します』

 その一言に半泣きで右鏡が怒鳴る。

「止めてくださいよ! 白風の次期長が突入したら、最低でも犯人の人としての一生が終って、隠蔽工作が大変になるんですから!」

『諦めなさい。ヤヤは、八刃を体現した存在よ。大切な者を護る為だったら、どんな事でも出来る。だからこそ、三十分以内に解決しなさい』 

 希代子があっさりそう答えて、電話を切る。

「こんな人が多い所でどうしろって言うんですか!」

 右鏡の言葉に周りの視線が集まるが、右鏡はそんな細かい事を気にしている余裕など全く無かった。

 必死の形相でメールを打つ右鏡に人々は離れていく。



「冗談ですよね?」

 左鏡も右鏡からの時間制限を知らせるメールに半泣きになっていた。

 そんな右鏡と左鏡の苦しみも知らず、良美と銀行強盗犯のにらみ合いは続いていた。

「とっとと人質を解放しなさい!」

「誰がするかガキ!」

 その時、興奮した銀行強盗犯の手の拳銃が暴発した。

 弾丸は、幸いにも良美を外れて近くで震えていた少女のすぐ傍にあたった。

 そしてその少女は、お漏らしをして大泣きを始める。

「お母さん助けて!」

「うるさい、黙れ!」

 銀行強盗犯の拳銃が少女に向いた時、良美の堪忍袋の尾が切れた。

「いい加減にしろ!」

 銀行強盗犯に向かって駆け出す良美。

「舐めるな、ガキ!」

 銃口を再び良美に戻してトリガーをひく銀行強盗犯。

 この世の終わりの到来を予測し、思わず眼を瞑る左鏡。

 しかし、弾丸は、良美の頬を掠っただけだった。

 戸惑う銀行強盗犯の頭に上段蹴りを食らわしふっとばす良美。

 銀行強盗犯は、慌てて裏口から逃げ出す。

 そして、警官隊の突入が始まった。



「怖くなかったの?」

 エアーナの言葉に良美は苦笑する良美。

「それは、怖かった。でも、あたしには、それらに勝つ秘訣があるんだよ」

 良美の言葉にエアーナが手を叩く。

「そういえば、入る前にもそんな事を言っていたね」

 頷き良美が言う。

「信じること。あたしは、ヤヤを信じているの。ヤヤだったらあたしの期待に答えてくれるって。今回だってヤヤに教わった事を実演しただけだよ」

「それにしても拳銃の弾を避けるなんて凄いね」

 感心したエアーナの言葉に良美は頷く。

「ヤヤと付き合ってると拳銃を撃たれる場面なんていくらでもあるからね」

 頬の傷に気付いて近付いてきていた婦警の足が止まる。

「大門さんも冗談が好きですね。傷の治療はあたしがやりますから、ほら、あの女の子の母親探しを手伝ったらどうですか?」

 左鏡が慌てて割ってはいる。

「あんた誰?」

 首を傾げる良美に、左鏡は涙目で言う。

「お願いですから、八刃に関る事を一般人に言わないで下さい」

「もしかして、八刃の人?」

 良美の言葉に頷く左鏡。

「谷走の左鏡です」

「不思議な巡り合わせだねー、こんな所で会うなんて」

 良美の言葉にエアーナが何か言いたげな顔をするが左鏡が口を押さえて小声で言う。

「本人が気付いていないんですから、言わないで下さい」

 エアーナも小声で返す。

「やっぱり護衛か何か?」

 小さく頷く左鏡。

 その後、知り合いという事で、危険な事をしたと警察に絞られる良美に付き合わされるエアーナと左鏡であった。



「あのガキ、絶対殺してやる!」

 逃亡に成功した銀行強盗犯が怒りの形相で怒鳴る。

「困るのよね、あれに敵対者が居ると、白風の次期長が出てくるから」

 右鏡が銀行強盗犯の前に出ながら答える。

「貴様何物だ!」

 右鏡は、肩を竦ませて言う。

「地球の運命を左右する人間の護衛だよ」

 その言葉に、拳銃を向ける銀行強盗犯。

「ふざけるな!」

 弾丸が右鏡に向かって進む。

影球エイキュウ

 空中に生まれた、影の球が弾丸を防ぐ。

「最初に言っておくけど、普通に警察にいけると思わないでね、あんたみたいに逆恨みをする奴をほっておけないからと白風の次期長が黙ってそうも無いから、二度と争おうなんて思わなくしてから警察に行って貰うからね。その為に態々逃がしてあげたんだから」

 静かにそう告げる右京に、銀行強盗犯は、必死に拳銃を撃つが、全てが防がれ、弾丸が尽きる。

影沼エイショウ

 自分の影に飲み込まれていく銀行強盗犯に右鏡が言う。

「感謝してよね、白風の次期長が出てきてたら、本気で人としての一生が終わりになってたんだからね」

 声にならない声で助けを呼ぶ銀行強盗犯をほっておいて、右鏡がその場を後にする。



「なんであたしが怒られないといけないんだよ。おかわり」

 文句を言いながら、較が作ったご飯を食べる良美。

「仕方ないよ、誰もが弾丸を避けられる訳じゃないんだから」

 ご飯をよそりながら答える較。

「良美も下手糞だよね、頬を掠られるなんて」

 小較の言葉に良美が睨む。

「何だって!」

「弾丸を弾き返すなんて無理は言わないけど、拳銃の弾くらい、完全に避けられないなんて鈍い証拠だよ」

 小較が更に挑発する。

「一度きっちり、勝負しとくか?」

「望むところよ!」

 喧嘩を始める二人に肩を竦めてから較は庭に潜んでいる右鏡と左鏡に告げる。

「一応信じておいてあげるけど、もしもあの男が良美の前に現れたら覚悟しておいてね」

 その一言に、涙する右鏡と左鏡であった。

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