8.やっぱりお馬鹿な王子
フレッド様が王命を出せるわけはない。
もし本当に王命ならば、陛下がそう望んでいる?
そしたらユリアスは行かなければいけないのだろうか。
どうしよう。
「なんだ、騒がしいな」
ガラッと扉が開いて、入ってきたのは学校長だった。
フレッド様はすぐさましまったという顔をする。
この学校が王弟殿下が作った学校だと知らなかったのかしら。
「フレッド、何しに来たんだ?」
「……視察です」
「視察って言うのは、目的があってくるものだ。
俺が作った学校に、何の目的があって王子が視察に来るんだ?」
「すみません。ユリアスを迎えに来ただけです。
もう一度俺の側近に戻して、ハンドウイル家に戻そうと思って」
「ん?なんでだ?ユリアスが戻りたいと言ったのか?」
心底疑問だという顔で学校長が聞くと、
フレッド様は気まずそうに他の側近に目をやる。
その側近たちも気まずそうに目をそらしているのを見ると、
全員がユリアスの意見を聞かずに突っ走ってしまった結果なのだろう。
「学校長、少しいいですか?
俺は騎士に戻りたくないし、側近に戻るつもりもありません。
ですが、王命だと言われたら戻らなければいけませんか?」
まだ静かに怒っていたらしいユリアスが、そう学校長に聞いた。
「王命?」
「ええ、王命だと、さきほどフレッド様が」
学校長がじろりとフレッド様を見ると、
フレッド様たちが震えあがっている。
まさか……王命って嘘なんじゃ。
え?嘘で王命を言うって、処刑されてもおかしくないのに?
そんなバカな真似をしたっていうの?ありえない!
「ロージー先生、いや、子爵家令嬢のロージーとして聞く。
フレッドが王命だと言ってユリアスに命じていたのを聞いたか?」
声が、王弟殿下の声になっている。これは、貴族として正式な質問だ。
もちろん、この答えに嘘をつくことはできない。
これには、私の、私の家の名をかけて答えなければいけない。
一度すうっと大きく息を吸って、はっきりと答えた。
「わたしく、ロージー・ベルファインが証言いたします。
フレッド様がユリアス様に側近に戻るようにと。
断ると王命だ、来い、とおっしゃっていました」
「なっ……お前、貴族だったのか!」
やっぱり、私のことはわからなかったらしい。
でも、最初から私はベルファインと名乗っていた。
下位貴族の子爵家だとしても、
この国の貴族家の名前を覚えていないというのは王子として失格だ。
おそらく、ユリアスは平民になっているので、証言する力がない。
私も平民だから、あの場にいても問題ないと思っていたのだろう。
この国で貴族をを処罰するときに証言できるのは貴族だけだから。
「そうか。では、陛下に話に行くとしよう。
お前たちも、一緒に王宮に行くぞ。
逆らうようなら衛兵に捕縛させて連れて行くが、どうする?」
フレッド様と側近の二人はうなだれ、
学校長の後をおとなしくついていった。
だが、キャロル様だけは騒ぎ立て、
最後には護衛に抱えられるように連れて行かれた。
残された私とユリアスは帰っていいと言われたので、研究室に帰ることにした。
「……ユリアス、大丈夫?」
「ああ、証言してくれてありがとう。
だけど、これから大変なことになるぞ?」
「ええ、仕方ないわ」
大変なことになるのはわかっていた。
だけど、あのまま嘘の王命でユリアスを連れて行かれるのは嫌だった。
王族の権力と力に逆らえず、
王宮にまで引きずられるように連れて行かれた昔の自分のようで、
黙って見ていられなかった。




