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前世で裏切られたので王族との結婚は望みません  作者: gacchi(がっち)


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35/38

35.変わる

私室の寝台の上で目が覚めて、

目の前にいるユリアスに一瞬だけ驚いて、昨日のことを思い出す。


……そういえば、深夜も何度か目が覚めて、同じように驚いたのも思い出した。


さすがに裸のユリアスの胸が目の前にあったら驚いてしまうのも無理はない。

反射的に離れようとすると、ぐっと引き戻されて、

またユリアスの腕の中に閉じ込められる。


そのうち暖かさに眠くなって意識がなくなる……それを繰り返していたようだ。


普通の日なら、もう起きる時間はとっくに過ぎている。

だけど今日は休みで、ゆっくりするつもりだったから何も予定はない。

こうして二人でいるのも何も問題は無かった。



「……ん。起きたの?ロージー。おはよう」


「おはよう、ユリアス。

 起きたけど、今日は特にすることがなかったわって思ってたところ」


「そっか。今日はのんびり休んだ方がいいよ。

 ……身体きついだろう?」


「……」


気遣ってくれているのはわかるけど、言葉にされると困ってしまう。


その通りなんだけど、そうねとは言いにくい。

思わずユリアスに背を向けてしまう。

それをとがめることも無く、後ろからそっと抱きしめられた。


「ごめん。俺が我慢できなかったせいで」


「……それはいいの」


「うん、でも、ごめん。

 学校長には明日の朝お願いしに行こう」


「お願い?」


「ああ。今のロージーの親は学校長だろう?

 ロージーと結婚させてくださいってお願いしに行かないと。

 もちろん、子爵家のほうにもいずれ挨拶に行くけど、まずは学校長に。

 早く結婚して、ちゃんとロージーを俺のものにしたい。ダメか?」


「ダメじゃない。

 そうね。明日の朝、学校長に一緒に挨拶に行きましょう。

 すぐに許してくれると思うけど……これは怒られる?」


婚約もしないでこういう関係になってしまったことを怒られるかもしれない。

いつものんびりしている学校長だけど、

こういうことに関しては寛容なのかわからない。


「俺が怒られるから。ロージーは心配しなくてもいいよ」


「二人で怒られましょう?

 だって、止めなかった私のせいでもあるもの。

 ……実感したかったの。ユリアスに思われているって。だから」


「うん、わかってる。……こっちむいて?」


もう一度寝がえりをしてユリアスに向くと、優しくキスされる。

そのままぎゅっと抱きしめられ、これ以上ないほどの幸せを感じた。


「お腹空いただろう。

 ちょっと軽く食べられるものを作るから待ってて」


「え?ユリアスが作るの?」


「うん。もともと今日は俺が作ってロージーに食べさせようと思って、

 食堂から食材だけ届けてもらってあるんだ。

 すぐ作るから、ゆっくり休んでて。

 大丈夫、ここの調理場借りるから、離れないでいるよ」


どこかに行ってしまうのかと思って、

一瞬だけ不安になってしまったのがわかったのか、

安心させるように頭を撫でてそう言ってくれた。


私の部屋には一度も使ったことのない調理家具が備え付けられてあって、

ユリアスはそれを使って料理するつもりらしい。


この部屋は広いとはいえ、寝台の上から部屋の端まで見ることができる。

ユリアスが私の部屋の中を動き回っているのを見ながら、

身体のだるさを感じ横になっていた。


「できたよ。起き上がれる?」


「うん、大丈夫」


ガウンを羽織ってテーブルに向かうと、サンドイッチとスープが置かれていた。


「簡単なものだけど」


「十分だわ。ありがとう」


ハムと野菜がたくさんはいったサンドイッチとミルクスープは、

どちらも優しい味がして、

ユリアスが作ってくれたのだと思うとよりおいしく感じられた。


「おいしい!」


「ん。ロージーは表情でわかりやすいな」


「そう、だった?あまり表情に出ないと思っていたのだけど」


「最近はわかりやすいよ。俺の前だと特に。

 安心してくれているのかと思うとうれしいけどね」


「そうなのね」


王子妃教育で表情に出さないようにと言われ続けていたことが、

まるで呪いのようにしみついているのかと思っていた。


前世のことが薄れてきているのに気がついてはいたけれど、

こうして一つずつ変わっていくことに、少しの寂しさと、

新しい自分へに期待する気持ちもあった。




休み明けの朝に二人で学校長室に訪ねていくと、

優雅に紅茶を飲みながら学校長が待っていた。


「さてと、こんな朝早くから来るとは何かな~。

 なんて、だいたいはわかってるけどね。

 ようやく告白できたのかな?ユリアス」


特に連絡もしないで訪ねてきているのに、

なぜかこちらの事情はわかっているようだった。


「朝からすみません。急いでお願いしたいことがありまして。

 王弟殿下、いえエバーリング公爵様、

 ロージー・エバーリング様と結婚の許可をいただけますか?」


「え?報告よりも先に、そっち?」


「すみません。早く結婚したくて焦ってました」


「ああ、いい。大丈夫だよ」


学校長はそう言うと、立ったままの私たちにまず座るように言った。

座ると、学校長はユリアスに一枚の紙を渡している。


それを見たユリアスの動きが止まった。

何だろうと思って、ユリアスの手からその紙をとって読んでみて、驚いた。


「学校長?これって……」


「うん、婚姻の届け出の書類。

 二人が署名して届け出れば終わるようになってる」


婚姻の届け出だったことも驚いたが、もう一つ驚いたのは


「どうしてお父様の署名まで……」


もう公爵家の養女になっているはずなのに、学校長の署名だけではなく、

ベルファイン子爵、お父様の署名までしてあった。


「うん、本当は必要ないけれど、子爵だって娘の結婚は見守りたいだろう。

 だから父親の署名欄を一つ増やしてもらったんだ。特別にね」


「いつ署名を?」


「怒らないでね?ここでロージーにユリアスを紹介してすぐ、だよ。

 話を聞いたらユリアスは以前からロージーが好きだって言うし、

 ロージーに無理強いするような奴でもない。

 護衛としての腕はこれ以上いないし、ロージーが苦手な高位貴族でもない。

 これは可能性あるんじゃないかと思って子爵に話したんだ。

 子爵夫妻が喜んでね。ロージーが幸せになれるんじゃないかって」


ユリアスの入学当初!?

そんな最初から私の相手として見られていたなんて。


「ロージーが前世を思い出してから、

 どうしても親子の感覚が薄くなってしまったように思う。

 だが、それでも大事な娘には変わりない。

 ロージーが幸せになってくれるならこれ以上嬉しいことは無い、とね。

 その時に署名して俺に託してくれたんだ。

 子爵領は遠い。署名をもらいに来ると時間がかかるだろうから、

 俺が判断して婚姻させてほしいと」


「……お父様とお母様がそんなことを」


「それだけ心配していたんだよ。

 急に性格が変わって、高位貴族に見初められたくない、

 卒業後は手に職つけて働くって言い出した娘に。

 貴族令嬢としての幸せはもう望めないと思っていたそうだ。

 だから、二人が結婚するって聞いたら、喜ぶだろうな。

 そのうち長期休みの時にでも会いに行ってあげなさい」


「はい!」


前世を思い出したことで、王族や高位貴族と結婚したくないという恐怖があった。


そのせいで両親にずいぶんと心配させてしまっていたことにようやく気付く。

……今度帰ったら謝って、ありがとうって言おう。


「で、ユリアスも、手紙くらいは書いてあげなさい。

 伯爵夫人が泣いていたそうだよ。ユリアスを守れなかったって。

 帰るのは難しくても、報告の手紙くらいは出せるだろう?」


「……わかりました」


「うん、じゃあ、二人とも署名して。

 あぁ、一応ロージーが俺の養女になっているから、

 ユリアスは婿に入ることになるから。それでいいね?」


「「はい」」


「よし」


二人で署名すると、

学校長はお付きの者に書類を渡して王宮へ届けるように言った。


この書類が王宮で受理されれば、もう私たちは結婚したことになる。


「明日には証明書が届くと思うよ。

 それで、二人には話しておきたいんだ。

 公爵家を継ぐものとして」


目の前に新しいお茶が出され、人払いがされる。

それを確認して学校長は話し始めた。



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