30.逃げ場所(ユリアス)
目の前にいる騎士団長に遠慮なく剣ごと体当たりすると、
熊のような体が後ろに吹っ飛んでいった。
認識阻害をかけなくなってから、その分の魔力も身体強化にまわせている。
速度を上げる風魔術も使いたいだけ使える。
今までよりも早く動けるし、力も強くなった。
身体も剣も軽いし、飛べる距離も長くなった。
なんて戦いやすいんだろう。
結果、騎士団でまともに戦える相手はいなくなっていた。
「ユリアス~お前が強いのはわかったから、
もう少し手加減してくれないと訓練にならない」
「……すみません、団長。
どうにも手加減が難しくて。魔力が有り余ってる感じなんです」
「認識阻害だったっけ。それを使わなくなったせいか?
俺はまったく気が付いてなかったよ。
そういえばあの時も治癒使ってたなぁくらいしか。
光属性だったなんてなぁ」
「団長~のん気ですね。
光属性もそうですけど、こんな顔隠してたなんてずるいよ!
見て!観客席!今日も女官と侍女でいっぱいだよ!
こんなに観客いることなんて、今まで無かったよね!?」
観客席のほうに顔を向けると悲鳴があがるから、
できるだけそっちのほうは見ないようにしている。
日に日に観客が増えていくけれど、これも帰国すれば落ち着くだろう。
「あー騒がしくてすまん。
明後日にはいなくなるから静かになるんじゃないか」
「それなー。寂しくなるよ。
お前も少しは寂しいって思ってんだろう?
ここ最近、ずっと暗い顔してんじゃん。
今日くらいは一緒に飲むか?」
「いや、やめておくよ。
ロージーの護衛で来てるんだ。
最後まで油断したくないから」
「まぁ、それもそうか」
騎士団の訓練も終わり、
動けないものは治癒係がミルフェ王女の待機場所まで引きずって連れて行く。
ミルフェ王女が治癒しにくるようになって、ロージーは来なくなってしまった。
せっかくミルフェ王女が頑張っているのだから、と言っていたが。
俺としても他の奴にロージーが近づくのは面白くないし、
騎士団に来なくなったのはかまわなかった。
精霊の滝での一件以来、自分のふがいなさに落ち込んで、
騎士団の訓練の時間を増やしていた。
身体を動かしている間は忘れていられるのと、
王宮内で騒がれるのが面倒になってしまったのも原因だった。
ロージーと一緒に目立てばいいなんて簡単に言ったけれど、かなりめんどくさい。
帰国したらこうなるんだなという意味ではいい経験になった。
王弟殿下の後見下に入っておいて本当に良かったと思う。
きっと王弟殿下は俺が認識阻害かけていたのに気が付いていたはずだ。
それでも何も言われなかったのは、こういう面倒な思いを知っているからだろう。
王族で唯一の光属性が騒がれないはずはないのだから。
だけど……いくら騒がれてもむなしいだけなんだけどなぁ。
ロージーと話している時でも女官たちが会話に参加しようとしてくるのも困る。
俺はロージーとだけ話したいのに。
ロージーはその思いには気が付かずに女官や侍女を受け入れてしまう。
だけど俺はぐいぐい来る女性たちの相手をするのはごめんだった。
だから、こうして騎士団に逃げ込んでいる。
明後日には帰れる。
大変なことが待っているかもしれなくても、
帰るまでの間はまた二人旅ができるのがうれしかった。
少しでも近くで、二人で、静かな所ですごしたい。
……帰りはもう少しゆっくり馬を走らせようかな。




