19.馬鹿王子
「マリージュ様、馬鹿王子のことは一旦置いておいて、
この国にも馬鹿王子がいるようですが……」
「あぁ、そうだったわね。ユリアス、この子何をしたの?」
「ロージーが着替えのために与えられた部屋に押しかけたようです。
ロージー、他に何かされた?」
「そうですね……ノックも許可もなく部屋に入ってきまして、
人をじろじろと見て、美人だとか名乗れとか面白いとか言ってましたね。
髪をさわられそうになったところをユリアスに助けてもらいました」
そう言った瞬間、スパーンといい音が鳴り響いた。
マリージュ様が振りかぶって王子の額を扇で叩いていた……。
「うぐっ!」
よほど痛かったのか、王子はそのまま床に座り込んで額に手をあてている。
その後頭部にもう一度、スパーン。
……王子は四つ這いで沈み込んだ。
「……あの」
「ごっめんなさいねぇ。ホントこの国の王子と王女も馬鹿で。
陛下には好きに矯正してくれって言われてるの。
前王妃は王女が生まれてすぐ亡くなったらしくて。
この王子は七歳から野放しになってるそうなのよ。
まぁ、好きにしていいって言われてるから。
王太子になる前にきっちりと叩き直すから……ね?」
「……まぁ、マリージュ様がそうおっしゃるなら……ハイ」
「ユリアスもそれでいいかしら?」
「また何かあったら、俺も殴っていいですか?」
「ええ、いいわよ!報告だけはしてね!」
馬鹿王子2号もとい、ベージェ王子は護衛の方がかついで部屋から出て行った。
この後、謹慎処分が待っているらしい。
「それで、手紙は?」
すぐ近くの応接室に通され、ソファに座るように勧められる。
ユリアスがマリージュ様に手紙を渡すと、その場で開いて読み始めた。
王族相手だと緊張するはずなのだけれど、
何だろう……さきほどのスパーンを見たせいか、あまり緊張しない。
マリージュ様ってこういう方だったんだ。
よくあの馬鹿王子の婚約者で我慢していられたと思う。
もしかしたら陛下はフレッド様も矯正してほしかったのだろうか。
だとしても、もう遅いけど。
「うん、話は分かったわ。
もちろん全面的に協力します。
私がフレッドをうまく止められなかったから、
ユリアスにまで迷惑かけちゃったものね。
そのお詫びだと思って、何でも言ってくれていいわ」
「まぁ、あれは巻き込まれた感はありましたが、
卒業後にキャロル嬢と婚約解消する予定ではありましたので、おかまいなく」
「え?そうだったの?
じゃあ、フレッドの側近もやめる予定だった?」
「いいえ。フレッド様の側近はそのままで、
侯爵家を継がなくても王弟殿下の後見下に入ることで問題ないと判断されまして。
かなり前からフレッド様とキャロル嬢がそういう仲だとはわかってましたので、
王宮へとすべて報告していました」
「うそ……だって、報告ってユリアスがよね?
あの馬鹿女、婚約者の前で堂々と浮気してたっていうこと?」
そうよね。私も不思議だった。
フレッド様の側近で護衛騎士ならそばにいるよね。
どうしてそんなことになるんだろうって。
「そうですね。一言で言えば、何も考えていなかったってことでしょうね。
ここに来る直前の夜会では俺と婚約し直すとか言ってましたし。
しかも、私と婚約できてうれしいでしょう?と」
バキィ。
あぁ……いい音がしてマリージュ様の扇がへし折れた。
マリージュ様の怪力ってどうなってるんだろう。
すかさず後ろにいた女官が新しい扇を差し出すのを見てわかった。
マリージュ様、いつもこうなんですね?
「そうなの……ふぅん。そんな馬鹿たちのせいで王妃の座を失ったとは。
フレッドの馬鹿はどうでもいいし、婚約破棄されても悲しくはないけれど、
王妃教育で無駄な時間を使われたことには腹が立ったのよ。
幸い、こうしてルーニアの王妃になるから無駄にはならなかったけど」
「マリージュ様が楽しそうで何よりです。
それで、ロージーがマイケル王子に追いかけられているので、
その対策が終わるまでこちらで滞在させてもらえますか?
できれば魔術学校の研修に来たという形で」
「わかったわ。そう手配させます。
でも、もうすでに聖女の噂はルーニアにも届いてきているし、
マイケル王子の手のものにさらわれても困るから、
滞在するのは王宮内にしてもらえる?
魔術学校へは護衛付きで送り迎えするから」
王宮に滞在で護衛付き……そんなによくしてもらるとは思っていなかった。
「ありがとうございます。マリージュ様。
在学中は一度も話す機会がありませんでしたが、
才女として名高いマリージュ様のことを尊敬しておりました。
そんなマリージュ様のお手を煩わせてしまうことに申し訳なく思いますが、
よろしくお願いいたします」
深々と頭を下げてお礼を言うと、
マリージュ様が面白いものを見る目をしていた。
きらきらと紫の目が光り輝いて綺麗だけど、少し怖い……。
「ロージーってそういう性格なのね。
光属性って、偉そうか天真爛漫かのどちらかと思ってたのに」
「マリージュ様、俺も光属性ですけど……」
「え?ユリアスは偉そうじゃない。
さっきも王子相手にひかなかったし……。
叔父様も他人の命令は聞かないし」
ユリアスと王弟殿下。そう言われてみたらそうかも。
納得してないことをさせるのは無理だわ。従わないと思うもの。
偉そうと言えばそうかもしれない。
「……」
ユリアスもそう考えたら思い当たることがあるのか黙ってしまう。
「でも、そんなものなのよ。王家の血ですもの。
王族らしく偉そうか、聖女らしく天真爛漫か、その二つだわ。
ロージーが目立たなくしてるのが逆に目立ってて。
あぁ、フレッドは何も考えてないから気が付いてないと思うけど。
ユリアスはよくロージーを見てたから、気が付いてたんでしょう?」
「なっ。なんで知ってるんですか?」
「光属性を持つ者同士はわかるっていうから、
ユリアスもわかってるんじゃないかって思って。
聞こうかと思ったら見てるのがわかって。
ユリアスもロージーが目立ちたくないのをわかって何も言わないんだなって。
ほら、私も公爵家の出でしょう?光属性の相手はなんとなくわかるのよ」
「そういえば王弟殿下も言ってました。
光属性を持っていなくても、王族の方は光属性がわかるって。
公爵家の方もそうなんですね。知りませんでした」
「すべての公爵家じゃないわ。
うちは降嫁されることが多いから、王家の血が濃いのよ」
「なるほど……」




