17.旅路
「目立っているわよね……?」
「ああ、間違いなく目立ってるな」
金色の髪で青い目、それでいて旅装束の私と、
金色の髪に緑目の騎士で、同じ馬に乗って私を守っているユリアス。
日の出とともに朝市場の準備をしている人たちがいて、
旅支度の私たちは予想以上に注目を集めいてた。
準備している横を通り抜けると、
私たちを見る人たちは目を見張って驚いている。
その後はまるで宗教画でも見たような顔になって、
お祈りを始めていて、思わず目をそらした。
「あれって、聖女と騎士に見えてるのよね?」
「ロージーはどこから見ても聖女にしか見えない。
俺も帯剣してるから騎士にしか見えないだろうしな」
ユリアスの剣は学校長から授かったもので、王弟の紋章が入っている。
身分を示すためのものでもあるので、とても目立つ。
騎乗しているせいで人の目の高さに剣があるために目に入りやすいだろう。
「これは街壁の外に出るまではこんな感じかしら。
仕方ないけれど、視線がいたいわ……」
「もしかしたら俺たちのことが王宮に知らせが行ってるかもしれないから、
少し足を速めて行こう。こんなとこで止められたら困る」
「そうね」
人に見せるようにゆっくりと進めていた馬の足を速め、街壁の外に出る。
出る際には検査がないので、そのまま馬に乗ったままで進む。
検査をしている衛兵がこちらをちらっと見た気がしたが、
ユリアスは一気に馬を駆けらせて森の奥へと入って行った。
「少しの間、飛ばして進むから。
しっかり掴まっていてくれ」
「ええ」
なんだかユリアスに掴まっていることが多い気がする。
倒れたり、担がれたり……。
そんな浮ついた気持ちは無いとわかるんだけど、それでも気にはなる。
こんなに男性に近付いたのは、前世合わせてもユリアスしかいない。
顔が赤くなりそうなのを必死に平気なふりをしてやり過ごす。
二人旅なのに、変に気まずくならないように、
こういう時こそ王太子妃教育なのにと思った。
それから何度か休憩をはさみ、
夕方に近くなる前に道から少し入った森で野宿の用意をし始めた。
街道沿いにはいくつか宿屋があるらしいが、
王宮から誰かが探しに来ていると困るので野宿することにしていた。
枯れ木や枯れ草を集めて戻ると、
ユリアスが簡易の寝床を作ってくれているところだった。
「手際が良いのね」
「ああ。騎士団で遠征に何度も行ってるからな。
簡易寝床でも、寝る場所があるだけましなほうだよ。
その辺に寝転がって休憩だけ取っていることだってある」
「騎士団ってすごいのね」
本当にすごいと思って褒めたのに、
ユリアスの顔はちっともうれしそうじゃなかった。
そういえば騎士になりたくないって言っていた。何かあるのだろうか。
夕食のために小鍋を出して焚火の近くに置き、簡単なスープを作る。
近くで採って来た野草と干し肉を細かく割いて入れる。
干し肉につけられている塩やハーブがスープに溶け込むまで煮込めば出来上がる。
ふつふつと沸いてくる小鍋を見ながら、
近くに座って火の強さを調整してくれているユリアスを見た。
さっき騎士を褒めた時に見せた顔が気になっていた。
ハンドウイル家にしばられるのは嫌だと言っていたが、
騎士を嫌う理由はそれだけなのだろうか。
「ねぇ、ユリアス。
言いたくなければ聞かなかったことにしてくれていいんだけど、
騎士になりたくないのは家が嫌だったからだけなの?」
「……」
「あぁ、ごめんなさい。やっぱり聞かなかったことにして」
「いや、いい機会だし、話すから聞いてくれる?」
「いいの?」
「うん。ロージーから前世の話を聞いたしね。
俺が話さないのも不公平のような気がしているから。
……俺ね、ずっと騎士になりたかったんだ。
崇高な使命ある騎士に。だって、騎士ってかっこいいだろう?
気高き王家に仕えて、弱きものを助ける、そんな物語のような騎士にあこがれてたんだ」
それはわかる。騎士ってかっこいい印象があるもの。
少年があこがれる気持ちもわかるわ。
「十三歳になった頃だった。小さいころから騎士団で修行してきて、
ようやく騎士として認めてもらえるようになったかなと思ってたある日、
一人で僻地に派遣されることになったんだ。ハンドウイル家の騎士として。
うれしかったよ。これで俺も一人前だって思った。
一人で派遣されることに少し不安もあったけど、
俺一人で何とかなるくらいの魔獣討伐なんだろうって思ってた」
焚火に枯れ木を足しながら話し続けるユリアスだけど、
こちらは一切見てくれない。
昔を思い出しながら話しているのだろうけど、
その表情は暗く、焚火がそれを照らしていた。
「行った先で案内されたのは領主の家の部屋だった。
魔獣討伐について説明されるのかと思ったが、
侍女たちに囲まれて湯あみさせられて薄暗い部屋に押し込まれた。
……その部屋の寝台に夜着姿の女性が一人いたんだ」
「え……女性?」
「すぐさま部屋を出ようと思ったのに鍵がかけられて外に出られなかった。
仕方ないから寝台にいた令嬢に話しかけて理由を聞いて驚いたよ。
その女性は領主の一人娘だった。
だけど、僻地過ぎて騎士や貴族令息は婿に来てくれなかった。
それでも尊い血を守らなければいけないから、その辺の男と結婚させることもできない。
俺が派遣されたのは、その女性との子作りのためだった……」
「!?」
「僻地だから魔力があった方がいいと、三兄弟の中で俺に決められたらしい。
話を聞いたら、女性も本意ではないらしく好きな男がいるという。
その男の身分が低いため結婚が認められなかったらしい。
無理矢理その部屋に連れて来られたと言って泣いていた」
子どもを作るためだけに……ユリアスを一人で派遣したの?
その女性も嫌がっているのに?
そうまでしてでも騎士の血が欲しかったのかもしれないけれど、
まだ十三歳のユリアスにはどれほど衝撃だったことだろう。
「俺は結局、朝まで何もせずにいて、
部屋のかぎが開けられたと同時に逃げて帰った。
父上に訴えようと思ったんだ。
きっと父上も騙されたのだと思って。
……逆に父上に殴られたよ。役立たずめと言われて。
これも騎士としての仕事だと」
「そんな……」
「俺にはそれが騎士の仕事だとはどうしても思えなかった。
嫌がって泣いている女性を手籠めにして孕ませるのが騎士の仕事?
そんなわけないだろうと思った。
結局、俺は謹慎するように言われ、僻地には二番目の兄上が向かったよ。
その女性は身ごもって男の子を生んだそうだ」
「……それは、お兄様のお子ということ?」
「そのようだな。
後から兄上に言われたよ。めずらしいことじゃないって。
騎士の血が欲しい家はいくらでもある。そんなもんだって。
俺にはどうしても納得できなかった。騎士が汚されたような気がしていた」
ユリアスがそう思うのもわかるわ。
そんなことがあるなんて私も知らなかったもの。
「その後すぐにキャロル嬢との婚約話が王命で来て、
侯爵家を継ぐ俺が子種をばらまくことは許されていないって言われて、
そういう派遣の仕事は来なくなったけどな」
「もしかして婚約解消した後、
ハンドウイル家に戻らなかったのはそういうこと?」
「それもある。戻ったら、そういう仕事をさせられるだろうと思ったし、
もう騎士という仕事に嫌気がさしてしまったんだ。
守っていた王子はあれだし。
魔術師になろうと思ったのは、学校長に誘われていたんだ。
何かあれば手を貸すって言ってくれていて。
騎士を辞めるなら、魔術師を目指してみようと思ったから」
「そうだったのね。
ユリアスの魔力はとても綺麗で魔術の覚えも早いわ。
ハンドウイル家じゃなかったら、もっと幼いころから頭角を現していたと思う」
「多分、ハンドウイル家にざまあみろと言いたかったのもある。
あいつらが否定している魔術師に俺がなったら口惜しがるだろうなって」
「ふふふ。そう言う理由でも良いと思うわ。
魔術師になった時には見返してやりましょうね」
話が終わる頃にはスープが出来上がって、ハーブのいい匂いがしている。
かき混ぜてみると少しとろっとしていて、出来上がったのが分かる。
木の器にもってユリアスに出すと、うれしそうに笑った。
「ロージーの手料理初めてだ」
「えっ!そういえばそうだわ!
……あまり美味しくないと思うけど」
「いや、美味しいよ。すごく美味しい」
「そう?」
なんてことないスープ。
野草と干し肉しか入ってないし、味付けもしてない。
そんなものが美味しいかしらと思ったけど、
暗闇の中で焚火を囲んで、二人だけで食べるスープは確かに美味しく感じた。




