15.夜会の開始?
王宮に着いたらちょうど入場する貴族が多い時間で、入場待ちの列に並ぶ。
少しずつ前に押し出されるように進み、検査を受けると大広間の入り口に着いた。
陛下に見られるまで帰れないとなると、陛下の入場まで待たなければいけない。
まだ一般貴族の入場時間も終わっておらず、高位貴族すら大広間についていなかった。
「しばらく時間かかりそうだな」
「そうよね……陛下が入場してきたら戻ればいいかしら」
「じゃあ、飲み物とってきて、中庭の方で時間を潰していよう」
混んでいる大広間の中に居続けるのは苦痛で、二人分の飲み物をもらって奥へと進む。
バルコニーから外に出て中庭に行くと、さすがに人の気配は少なかった。
始まる前に中庭に来ているのは待ち合わせをしている者たちくらいだろう。
噴水の近くのベンチに座って飲み物を口にすると、もうすでに喉が渇いていた。
馬車でここまで来るだけでも結構時間がかかっていた。
できればもう二度と王宮での夜会には出席したくないなと思う。
そう思ったらため息をついていた。
「王宮には来たくなかったよな」
「そうね。それもあるけど、なんだか始まる前から疲れちゃって。
不思議ね。前世では夜会に出席するなんて簡単なことだったのに」
「少しずつ薄れていっているのかもしれないな。
それだけ囚われていたのが解放されているのならいいんだが」
記憶が薄れていってる?
そういえば王弟殿下に顔に出やすいなんて言われたし、
前世での王太子妃教育を忘れていっているのかもしれない。
「全部忘れられるなら、それはうれしいけど。
それで私が変わってしまうのも、ちょっと嫌かもしれないわ」
「そっか」
会話が途切れ、隣に座るユリアスも黙ってしまい、暗くなっていく空を眺めていた。
思い出すのは苦しかった前世のことよりも、
魔術師学校に勤めてからの日々だった。
ユリアスがいてくれて、前世の話を聞いてくれたから、
解放されかかっているのかもしれないと思った。
「そろそろ中に入ろうか。」
「もう高位貴族の入場が終わった時間?」
ベンチから立ち上がって中に戻ろうとした時に、ユリアスを呼ぶ声が聞こえた。
艶やかな赤いドレスを着た令嬢が小走りで向かって来るのが見えた。
「ユリアス!会いたかったわ!
手紙を書いたのに返事をくれないなんて、ひどい人!
でも、来てくれたから許してあげる」
少し頬を赤くし、ユリアスの腕をとろうとしたのはキャロル様だった。
フレッド様の件ではキャロル様は付いてきただけということで処分無しだったと聞いていた。
だけど、そのキャロル様がユリアスに何の用事があるのだろう。
ユリアスは掴まれそうだった腕を引き寄せて、キャロル様からあからさまに逃げた。
「何か用か?」
久しぶりに聞いた鬼騎士の声だった。低く、どこまでも愛想のない声。
こんな風に冷たくされたら、もう二度と話しかけないだろうと思うのに、
キャロル様は全く気にしていないようだった。
「え?エスコートしてくれるんでしょう?
本当は迎えに来てほしかったのよ?
でも、会場に直接来たみたいだから、仕方ないなって。
さぁ、行きましょう?」
エスコート?ここから?
というよりも、隣にいる私のことを見えていない?
そういえば、話したことがあれば認識するって言ってた。
じゃあ、キャロル様はユリアスは認識するけど、
話したことのない私は認識できていない。
同じことを思ったのか、ユリアスは私の手を取ってキャロル様に紹介をした。
「キャロル嬢、こちらはロージー嬢。子爵令嬢だ。
俺は今日はロージー嬢のエスコートで来ている。
それに、俺はキャロル嬢をエスコートする理由が無いんだが」
「は?」
キャロル様は私の存在がようやく見えたようで、ポカンとした顔をしている。
言葉の意味が分かり始めると目が吊り上がり、怒鳴り始めた。
「何よ、この女!どこから湧いて出たのよ!
私とユリアスの邪魔をしようって言うの?」
えー?エスコートされているのは私だって説明されたのに、どうしてそう思うの?
どう考えても邪魔しに来ているのはキャロル様なのに。
「だから、何でおれがキャロル嬢をエスコートしなきゃいけないんだ。
俺はもう関係ないだろう?」
「あるわよ!
フレッドが王族から抜けるっていうのよ。
臣下にくだるって言っても、謹慎がいつとけるかわからないっていうし。
じゃあ、ユリアスと結婚して家を継いだ方がいいでしょう?
もう仕方ないからユリアスと仲直りしてあげようと思って」
「……ふざけんな。
俺はもう二度とお前と婚約したりしないからな。
王弟の後見下に入ったから、侯爵家が何を言っても聞かないぞ」
「はぁ?何を言ってるの?ユリアス。
私と結婚できるのうれしいでしょう?
戻って来てあげたのよ?」
「誰がうれしいか。
絶対にお断りだ!」
「なんですって!……あんたのせいね?
あんたがいるからおかしくなるんだわ。
フレッドも、ユリアスも!」
キッと睨まれたと思ったら、キャロル様に力いっぱい突き飛ばされた。
その衝撃で後ろに倒れて、眼鏡がどこかにいってしまった。
片手が噴水にさわったせいで、ドレスにも水滴がたくさん飛んでくる。
乳白色のドレスがところどころシミのようになってしまった。
「なんてことをするんだ!ロージー、大丈夫か!?」
あわててユリアスが起こしてくれた時には、
キャロル様はもうどこかに去ってしまっていた。
「大丈夫か?どこか痛めてないか?」
手足を動かしてみても、特に痛みは無かった。
しりもちをついてしまったのでお尻は痛むけど、それもすぐに治りそうなものだった。
「ええ、驚いたけど、大丈夫」
「あぁ、ドレスの後ろが泥まみれになってしまっているな。
帰らなきゃダメかもしれない」
見ると、噴水の水が飛んだ場所だったのだろう。
足元の泥がドレスについてしまっていた。
こんな状態で大広間の中には入っていけない。
着替えて戻ってくることもできないし、帰るしかなさそうだった。
だけど、そんなことになれば、陛下が怒るかもしれない。
怒らないにしても、もう一度招待されることになりそうだ。
そのどちらも面倒なことにしかならなさそうだった。




