10.騎士はもてる
フレッド様の件からしばらくは警戒していたが、
特に嫌がらせが来ることがなく一月が経った。
最近の問題は貴族ではなく、学校の女生徒たちのことであった。
ユリアスが再び騎士になったことをどこからか聞いてきたらしく、
やたらと絡んでくるようになったのだ。
普通の貴族とは違い、平民とも結婚できる騎士爵は人気が高い。
もしかして見初められるかもと思うのか、
女生徒たちがユリアスに声をかけることが増えていった。
その代表ともいえるのが、水属性の授業で教えているナミィという子だった。
「ユリアス様、お昼ご飯一緒に食べましょう?
ユリアス様だって、生徒なのだから、みんなと交流しましょうよ」
「いや、遠慮する。俺は生徒というより職員なんだ。
かまわないでくれ」
「そんなこと言って、いつも断っちゃうんだから~。
ロージー先生、たまにはユリアス様貸してください!ずるいです!」
その矛先は私にも及び、こうして責められることも度々あった。
ユリアスとずっと一緒にいるから、言われる理由はわからないでもないけれど。
「貸してって言われても、ユリアスに言ってくれない?」
「だって、ユリアス様に言っても、ロージー先生と食べるからって断られる。
放課後に遊びに行こうって言っても、ロージー先生と魔術の練習ばかりで!
いつもいつも一緒でずるいです!
貴族だからって、無理矢理ユリアス様をしばるなんて、ひどいです!」
「ひどいって言われても……」
確かに、私の護衛でもあるユリアスは私から離れることは無い。
そう言われたら、私のせいでユリアスは女生徒と交流できないのかもしれなかった。
でも、離れるのも嫌だし、どう言ったらいいんだろう。
「おい、いいかげんにしろ。勝手に人を貸し借りするな。
俺は好きでロージー先生にくっついて修行しているんだから、邪魔するな」
これは本気で怒ってると思うような表情で、ユリアスが冷たく言い放った。
鬼騎士と言われていた頃のユリアスよりかは表情がマシな気もするが、
それを知らない女生徒たちからしてみたら、十分すぎるくらい怖いだろう。
ナミィは私の方を睨むと、ぼそっと小声で、
「眼鏡ブスが良い気になってんじゃないわよ。」とつぶやいて去って行った。怖い。
見た目は水色の髪がふんわりとした美少女なのに、発想も行動も怖すぎる。
それだけユリアスに夢中なのかもしれないけれど……。
「ねぇ、いつも誘いを断っているけど、いいの?」
「あいつらのようなのは一度相手したら最後、どこまでもしつこいぞ。
結婚するまで食らいついて来ようとする」
「食らいついて……それは大変だわ」
的確過ぎる表現に笑いも出なかった。
女性相手に何か嫌な思いをしたことがあるのだろうか。
キャロル様の件で嫌な思いはしているだろうけど、それ以外にも。
まぁ、ユリアスが嫌がっているのなら、
私が気を遣って女生徒と交流させようとか思わなくてもいいだろう。
その後もナミィとすれ違うたびに睨まれ、陰口をたたかれたが、
そのくらい貴族社会ではよくあることで、気にも留めなかった。
そのせいでナミィの怒りが増していることにも気が付かずに。
その日は水属性の授業でいつものように魔石を使っていた。
そろそろ魔石に加え、自分の魔力で水の量を増やすことができるようになるはず。
そのため、演習場をかりて、広い間隔をとって各自で練習させていた。
「ロージー先生、魔石の調子が悪いようです。
こっちに来て見てもらえませんか?」
真ん中の位置にいる男子生徒が呼んだので見に行くと、
どうも魔石に魔力がうまく作用していないようだった。
いつもなら成功している男子生徒が水が出ないと言っているのを聞いて、
思わず首をかしげてしまう。
どう見ても男子生徒の手には魔力が流れていない。
つまり、自分で魔力を流さないようにしているように見えるのだ。
「えっと、魔力を流している?」
近付いて、魔石を覗き込もうとした時だった。
「っ!いてってててて!」
後ろから悲鳴が聞こえた。
驚いて振り向くと、別の男子生徒がユリアスに取り押さえられていた。
「お前も、動くな!」
ユリアスが叫んだのは、先ほど魔石が調子悪いと言っていた男子生徒だった。
見ると、さっきよりも私に近い位置にいる。
もしかして、私に何かしようとしていた?
ユリアスは捕まえていた男子生徒と注意した男子生徒を縛り上げ、
演習場の隅に転がした。
「ちょっと、ひどいんじゃないですか!?
どうして急に男子生徒を縛り上げるだなんて。
ロージー先生が何か言ったんですか!」
どうしてか私のせいにしたいナミィが私に食って掛かってこようとする。
それをユリアスは押し返し、ナミィも後ろ手で縛り上げてしまった。
他の生徒たちは何が起こったのかわからず、ただ茫然としている。
ユリアスはそれらの生徒たちも全員、集まるようにと声をかけた。
縛られている男子生徒が二人。
手だけ後ろで縛られているナミィ。
その周りに集まって来た生徒たちは皆が不安げな顔をしている。
何が起こったのだろうかと。
「いいか、お前たちに言っておきたいことがある。
ロージー先生が貴族令嬢なのは、全員が知っているな?」
皆がうなずく。
それはそうだろう。
最初の自己紹介で、ちゃんと私が子爵家の貴族だと説明をしている。
この学校には他にも貴族の先生がいるので、気を付けるようにと。
貴族との接し方を学ぶのも、魔術師になるためには必要なことだったからだ。
「魔術師になれば、王宮魔術師団に入るにしても、魔術師として仕事をもらうにしても、
貴族とのかかわりなく生きることはできない。
魔術師に仕事を依頼するのはほとんどが貴族だからだ。
だが、魔術師になっても、平民は平民だ。
貴族への関わり方を間違えたら、命はない。それは理解しているか?」
これには誰も頷かなかった。
そこまで深く考えていなかったのだろう。
これまで貴族と直接かかわることなどなかったような子たちだ。
「こいつは、ロージー先生の眼鏡を取ろうと後ろから抱き着こうとしていた」
眼鏡?この眼鏡を取ろうとしていた?どうして?




