#12「受継がれた物」
「……世話になったな」
「いえいえ。またすぐに会えるよね!」
「……まぁ会えるだろうな」
……だって学校同じだし。
「結局、1ヶ月近く泊まらせてもらってすまなかったな……。」
「全然大丈夫だよ。また、何かあったら頼って!」
「……じゃ、また学校で。」
僕は今日、この館を去る。
「うん!じゃあまた!」
あれは——、
——9月下旬のとある日。
休日である今日だが、天気は暴風雨。
折角の休日だ。
好きなアニメのグッズを買いに、少し遠出でもしてみようかと思っていた僕だが、この暴風雨では到底、外出出来そうに無いだろう。
(まずまず店に着く前に死ぬ可能性があるしな……。)
そのため、外出を諦めた僕は今、好きなファンタジー小説を読んだりと館内でゆっくりしている。
すると。
椛山の館の黒電話に一本の電話が入る。
この時代に未だ黒電話など古すぎるだろ……なんてことを思いながら、僕はなかなか鳴り止まない電話が気になり、その音の方向を頼りに電話の元へ向かう。
そして音の方向を頼りに向かった結果、音の元である電話は館のエントランス付近にあった。
僕がエントランス付近にある電話を遠目で見つけたタイミングで丁度紗綾の使用人が電話に出た。
使用人さんが出たなら僕は別に部屋に戻ってもいいか、と思い、僕は部屋に戻ろうとした。
「あ、藍都さん、ちょっと待って下さい!」
そう使用人さんが僕をこの場に引き留めるように叫ぶ。
「!?な、なんでしょうか……!?」
いつも静かで、喋る時も小声である使用人さんのあまり聴いたことのない大声に、僕はつい反射してそう言う。
「……藍都さん、貴方へのお電話だそうです。」
「え……?僕への電話……?」
僕への電話……?一体誰なんだ……?
わからない。
僕は、電話をかけてきた人の名を使用人に訊ねた。
「名前は、何というのですか……?」
そして、僕は使用人が口にしたその名を耳にする……、
「電話主の名は——」
僕は名を聞き、驚きでこれが現実かどうかわからなくなった。
「——五月雨詠日さんだそうです。」
五月雨詠日、僕の祖父の名であった。
僕は使用人さんの持つ電話を直ぐさま取る。
「ぼ、僕だ、藍都だ。詠日おじいさん、い、生きてたの……!?」
「心配しなくとも生きている。藍都、久しぶりだな。」
「ひ、久しぶり。でもおじいさん、「がん」だったんじゃ……?」
そう。たしか僕が最後に会った時、詠日おじいさんはがんで入院していた。
「早めに見つかったからのう。もう完治しておる。」
「そうなんだ……!とりあえず無事で良かった……!」
僕はそう安堵の言葉をおじいさんに伝える。
すると少し沈黙が訪れ、数秒経ってからおじいさんが話し出す。
「……実はな、今日電話したのには二つ理由がある。」
「何?」
「まずは、すまなかった」
「……?」
「警察から聴いたんじゃ、藍都の事情を」
「……そうなんだ」
「穂高からあんな虐待を受けていたとは……わしがもっと早く気づいていれば、こんな事にはならなかっただろう」
「改めて……本当にすまなかった」
「……別に詠日おじいちゃんが謝る必要なんてないよ。それにもう終わったことだし、変におじいちゃんが責任背負う必要ないと思う。」
「……ありがとうな、藍都。」
「うん!そういえば詠日おじいちゃん、二つ理由があるって言ってたけど、もう一つって?」
「あぁ、そうじゃったな。もう一つは」
「藍都」
「なに?」
……わしの元で暮らさないか?
「……え?」
僕は驚きでいつの間にかそんな腑抜けた声を呟いていた。
待ちに待っていた、はず。
最初、僕は椛山の館で生活させてもらうのが申し訳ない気がして、直ぐにでも館を出たかったはず。
はず、なのに。
「警察に聞いた限りだと今、椛山財閥の館で暮らしているのだろう?」
「あぁ、お世話になってる……」
「もちろん、椛山さんの元での生活が幸せなのならそのままでもいいぞ。じゃが、椛山さんの方はどうなんじゃ?」
「……確かに。」
いつの間にか、心が安らげる……そんな僕の「第ニの我が家」へと変わりつつある。
……でも。
これまで紗綾……いや、「紗綾たち」にはかなり色々とお世話になってしまった……。
今が去る時、なのかもしれない。
「……わかった。詠日おじいさん、僕もおじいさん家で暮らすことにする」
「……そうか。わしも独りで寂しかったからのう、ありがとうな——。」
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——で、今に至る。
「……着いた」
僕は詠日おじいさんの家を見て少し驚く。
あの後の話で分かったことだが、詠日おじいさんは僕の知らぬ間に、家の引っ越しを済ませていたらしく、家の外観は純白で白の大理石で出来ているようだ。
また、庭もちゃんと手入れがされているようで全てが綺麗だった。まさに豪邸のようだった。
僕はそんな豪邸の高級さに圧されながらも、恐る恐る豪邸のピンポンを押す。
というかよく考えたら、詠日おじいさんと会うのって久しぶりだなぁ。
そんなことを考えていると、扉が開いた。
「久しぶりじゃな、藍都。」
「久しぶり、詠日おじいさん。」
「まぁとりあえず上がれ。」
「うん」
僕は豪邸でよくある、玄関からの長い通路を進む。
詠日おじいさんが通路を歩きながらこう言う。
「ここまで歩いて来るのは疲れただろう、別に車で迎えに行ったって良かったのだぞ?」
紗綾の館から詠日おじいさんの豪邸までは、小さい山を登り歩いたりしたのでざっと1時間は掛かった。
出発する頃にはもう17時を過ぎていた為、既に今は18時をとうに回っているだろう。
しかし。
「いやいや、それは申し訳ないよ。こっちが住まわせてもらう側なわけだし。」
例え、おじいさんから誘ってくれたとはいえ、こちらが住まわせてもらうということには変わりない。
「……そんな畏まらなくていいのだぞ?別にここは藍都の家でもあるのじゃし、そんな自分を卑下するな」
「ありがとう。じゃあもう少し、楽にさせてもらうよ。」
そう言ってそのまま詠日おじいさんに付いていくと、広い食堂のようなところに着く。
「……ここが、ダイニングルームだ。」
「広いね、こんなに広い食堂いるの?」
「まぁ二人で住む分には広すぎるかも知れんが、もし誰か呼ぶ場合には、広くて困る事ないだろう?」
辿り着くのがかなり面倒なこんなところに、誰が来るというのか。
僕はそう疑問に思いながらも、
「まぁ確かに……?」
と僕は言うのであった——。
——その後、詠日おじいさんは僕がお腹空いていることを予測していたのか、作り置きしていた料理を出してくれた。
「いただきます。」
手を合わせながら僕はそう呟く。
僕が料理を食べていると、詠日おじいさんがこう話す。
「……藍都」
「どうしたの?詠日おじいさん。」
「……わしと藍都の二人しかいない今だから、話せることなのだが……いいか?」
詠日おじいさんは難しそうな表情を浮かべながら、そう話す。
「う、うん……」
「藍都も、五月雨家に代々受け継がれている「埋蔵金」のことは知っているだろう?」
「あぁ、あの何処にあるか全く見当のつかない噂みたいな話だよね。」
「……あれのことだが」
藍都に受け継ごうと思っている
「……は?場所すら分からないんじゃないのか……?」
僕は理解が追いつかない。
両親でさえ場所を知らなかったのだ。
「……黙っててすまない。わしは自分の孫が生まれるまでは誰にも話さないようにと思い、これまで黙ってたのじゃ。」
「……まぁ結局、詠日おじいさんが話さないようにしておいてくれたおかげで、埋蔵金が盗られることを避けられたわけだし、」
「言ってくれてありがとう。」
そして僕は詠日おじいさんに連れられ、目的地の山奥へ——。
——地面の土を少し掘り、出てきた黒色の金庫らしき物のロックを開けてみると……、
詠日おじいさんの言う通り、中には大量の金が入っていた。
「……あとな、藍都。」
そう、詠日おじいさんが言う。
「ん?」
「埋蔵金は、藍都の自由にしていい。」
「えっ……?」
「もう代々受け継ぐのも疲れたからのう。藍都が楽しく生きられるためになら、使ったって構わない。」
「い、いいのか……?」
「あぁ」
こうして僕は、詠日おじいさんから急に埋蔵金の所有権を受け継ぐことになった——。
この時、僕は何も知らない。
——これが、全ての始まりであり、全ての終焉に進み始めたことを。




