表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/52

エピローグ「帰ってきた」

 目が覚めると、そこは天井のある部屋だった。

 外は暗く月明かりが部屋に差し込んできていた。

 壁に吊られているのは学生服。

 床には、カバンが投げっぱなしで置かれており、机にはマグカップが置かれていた。

 寝転がっている状態から起きるために手をつくとわずかに手元が沈んだ。

 それに驚いた、ユイトだったがそれがマットレスだと気が付いた時、ここが自分の部屋であることを思い出した。


(そうか……今までのは……)


 夢だったのではないかと不安になる。

 いや、夢であった方がよかったのだろうが、今のユイトにとっては夢である方が悪夢だ。

 夢かどうか確認する方法、それは魔法を使ってみることが一番手っ取り早かった。


(いや待てよ、この世界でも同じように魔法が使えるとは限らない……)


 そう思い、ふむと考え込むユイト。

 その時服の袖の端が視界に写った。


(ん……? )


 ベッドから立ち上がり電気をつける。

 そして、部屋にある鏡を見たユイトは


「やっぱり本当にあった……んだな」


 そう呟いた。

 服装は、向こうの世界の服そのままだったからであった。


 ***


 翌朝、着ていた服を隠して、寝間着に着替えなおして寝ていたユイトは、学校に行く前の時間に起きた。

 久しぶりに通す制服に違和感を感じつつ、着替えたユイトは自室を出て母親と会話する。


「おはよう」


「あら、今日は早いのね。おはよう」


 この会話も何年ぶりだろうか。

 平静を装いつつ帰ってきた日常に、泣きそうになりながら朝ご飯のトーストをゆっくり味わった。

 そして、家を出る時間になると「行ってきます」と声をかけて、家を出た。

 外の空気が冷たい。一年生の冬に帰って来たんだと改めて実感する。

 最寄り駅までの道も通学の電車も、どこかすべてが過去の出来事を再体験しているような感覚に陥る。

 そして、同時にこんなことも考えていた。

(ミコトは一つ下だから今は中3。そしてミコトがこの世界に帰ってくるのは高二だから…)


「一年以上待つのかぁ……」


 そう、つぶやかずにはいられないユイトだった。


 ***


 こうして、ユイトにとっての日常は帰ってきた。

 過去のキズも未来への希望も背負いながら時は流れて高校2年生の夏。


「唯人、飯行こうぜ」


 そう声をかけてきたのは卓也。

 唯人の友人だ。

 友人と廊下に出て、学食へ向かう2人。


「昨日のあれ見たか? 」


「ああ、見たよ。熱盛警部の捜査録」


 そうやって、他愛のないドラマの話をしながら学食に向かっていたその時だった。

 階段のところで登ってきた女子生徒と対面してしまい、どちらがどちらに避けるかお見合いのような状態になってしまう。

(おっとっと……)

 と、左側に避けたその時だった。


「ミコト……」


 と、つい口から出てしまった。

 ミコト本人がいたのだ。

 思わず見入ってしまう、名前を呼ばれたからかミコトもこちらに振り返り見ている。

 だが、三秒もしないうちに「気のせいか」と言ってどこかへ行ってしまった。


「なんだぁ? 今の子、狙ってるのかぁ? 」


 と、茶化してくる卓也。


「な、なんでもねぇよ」


 と、誤魔化して学食へ向かうが、その心臓は張り裂けそうなほど跳ね上がっていた。


 ***


 さらに季節は過ぎ、高校二年の冬となった。

 (早くて……あと半年か……)

 そう、思うようになった。

 ミコトの誕生月は六月。

 いつ頃召喚されたかまでは聞いていなかったので、六月から制服を着る日すべてが召喚される日の候補となる。

 だが、ユイトの中では、ある思いが膨らんでいた。


 このまま、召喚させてしまっていいのか。

 本当に無事に戻ってくるのか。


 ユイトは無事に戻ってきた。

 だが、ミコトは無事に戻ってくる保障などどこにもない。

 この不安が拭えなかった。

 だが、どうすることもできない。

 何かできることはないかと考え、《血の記憶》も辿ったりしたが、解決方法は見つからなかった。

 そして、季節は周り高校三年六月……


 ***


「なあ唯人。進路は決めたのか? 」


 六月に入ってしまった。

 もうこうなれば無事にミコトが帰ってくるのを祈るしかないのかと思い悩む。


「おいって」


 と、肩を強くたたかれた。


「あ、悪い。どうした卓也」


「どうした、考え事か? 進路、調査希望書どうするって」


「ああ、進路か……」


 ユイトはミコトのことで頭がいっぱいだが、進路のことも考えないといけない時期に来ていた。


「進路なぁ……」


「やりたいこととかないのかよ」


「ないなぁ……」


 そう言う頭の中はミコトのことで頭がいっぱいだった。


「とりあえず、大学って書いとけよ。お前の頭ならそう困りはしないだろ?」


「そうだなぁ……」


「おい、大丈夫か。唯人」


 勉強は《血の記憶》からひねり出せば案外何とかなる。

 頭の中はミコトのことでいっぱいだった。


 ***


 こうして夏休みに入った。

 夏休み期間中は、登校日が二,三日あるだけでそれ以外は休みだ。

 普段であれば、高校最後の夏休み、満喫する以外ないのだが、ミコトがいつ召喚されるのか、

 それだけで頭がいっぱいで、ロクに楽しめなかった。


 ***

 

 夏休みが明け、ちょうど衣替えの季節になろうとしていた。

 このころになるとユイトは、毎日放課後は屋上に行き、ミコトが来るのを待った。

 卓也には図書室に籠ると言って終礼後に分かれて行動している。

 そんなある日だった。


「唯人、ちょっといいか」


 そうクラスメイトに話しかけられる。


「どうした?」


「実はさ、数学でちょっと授業についていけてない箇所があってな、そこを教えてくれないか」


「いいよ、今日の放課後でどう?」


「ありがとう! 助かるよ! 」


 クラスメイトがそう言うと卓也も乗っかってきた。


「俺もせっかくだ、唯人に教えてもらおうかなー」


「卓也、お前もかよ……」


 こうして、放課後に居残り勉強会が決まった。


 ***


「いやー、助かったよ! ありがとう! 」


 クラスメイトにそうお礼を言われる。


「要領さえつかめれば、なんとかなるだろ? 」


「お礼にジュースなんか奢るよ」


「お、俺もー」


「お前は何も教えてないだろうが! 」


 と、クラスメイトにたかるのに失敗する卓也。


「悪い、寄っていく場所があるから今度でいいよ。先帰って」


「なんだよ、もう下校時刻だぞ。今から図書室には籠れないぞー」


「ちょっと行くところがあるんだよ、じゃあまた明日な」


 そう言い残し、二人を置いて、屋上へと向かった。


 ***


 屋上の扉を開くと冷たい風が吹き込んできた。

 向かい風だったので思わず目を細める。

 その細めた視界に一人の影が映った。

 心臓が跳ねた。

 扉を開く音でその人影もこちらを向いた。


(ああ……やっと……)


 その見覚えのある面影に涙が出そうになる。

 その、人影へ向かって歩いていく。

 そして、


「帰ってきました。ユイトさん」


 そうミコトは言った。


「よく、帰ってきたな、ミコト」


 そう言葉を返すと二人は思いっきりハグをした。


「ユイトさん! ユイトさん!」


 ユイトの胸の中でミコトは何度も名前を呼んだ。

 それを噛みしめながら、「ミコト」と名前を呼び返した。

 ハグを解いて二人で見つめあっている状態になったところでユイトが切り出した。


「ミコト、聞いてほしいことがあるんだ」


 その言葉に「はい」と答えるミコト。


「好きだ、俺はミコトのことが好きだ」


 そう言った。

 するとミコトは満面の笑みで


「知ってますよ、私も大好きです! 」


 そう答えた。

 夕日指す屋上で二つの影は近づき、一つとなった。

 しばらくし、くっついていた影はやがて別れた。

 が、また一つにくっつき夕焼けがユイト達を照らした。


 ***


「キス……しちゃいましたね」


「ああ、しちゃったな」


 えへへと照れ臭そうに笑いあう2人。


「下校時刻も近いし今日は帰ろうか。あ、その前にJINE交換するか」


「はい!」


 そう言いながらスマホを操作する二人。

「これでお願いします! 」とバコードを見せてくれるミコト。

 それを読み取り友達IDの交換を済ませる。


「これでいつでもお話しできますね」


「そうだな」


 と、笑いあう二人。


「じゃあ、帰ろうか」


「はい」


 そう言い、自然と手をつなぎ二人は屋上を後にした。

 


【おしまい】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ