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聖女と呼ばれたいので、世界最強の魔王であることを隠して生きていきます  作者: 泣き虫ピエロ
魔王であることは内緒です
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枢機卿

「やめよ!」


 刑場に1人の声が響いた。


「司教! その者を絶対に傷つけてはならん!」


 見るとリヒテンシュタイン侯爵が護衛の一団と表れたところだった。


「我はリヒテンシュタイン侯爵である。司教、今すぐにその剣を手放せ!」


 司教は驚いたように彼を見ると、言われた通り剣を放り投げた。同時にマリアのことも床に突き飛ばす。


 すぐに侯爵と配下の者が駆けつけ、彼女に回復用のポーションを飲ませる。


「何事ですかな? 侯爵閣下。これは魔女裁判ですぞ」


「ああ。そう聞いて駆けつけてきた」


 侯爵は私を見ると安心したようにため息を吐いた。


「私は彼女に命を助けられた縁がありましてね。少しの間、家で預かったこともあるのですが、正直なところ彼女は魔女ではないと考えております」


「ほお」


 リヒテンシュタイン侯爵は教会に協力的な貴族だ。多くの寄付も行い、教会の有力者とも親交がある。司教がないがしろにできる相手ではない。


「しかし、それを決めるのは司教である私の仕事。侯爵閣下には口を出さないでいただきたい」


 けれど司教はきっぱりとそう言った。


 所詮、侯爵は俗世の人間。司教には彼の言うことに従う義務はない。


 しかし「いや、この件は私が預かろう」と誰かが言うのが聞こえた。


 侯爵の後から出てきた人は、随分年を召した老人だった。質素な法衣に身を包んでいるが、胸に下げた勲章はある事実を物語っていた。


「アベル枢機卿!」


 司教がすぐに畏まってその手を取る。


「このようなところまでなぜ?」


 老人は静かに司教を見ると、「私がこの件を直接裁くなら問題はなかろう?」と言った。


 彼の胸に下げられた勲章は、まぎれもない『異端審問官』の証。相手の心によって、善なる者には無害だが、邪なる者には死を与える『神の裁き』を使える数すくない人物だ。


「はっ、アベル様がそのようにおっしゃられるなら」


「うむ」


 老人はマリアの方を向くと、兵士に支えられ起き上がることができない彼女のわきに身をかがめた。


「さぞかしきつかったろう。でもこれで最後じゃ。わしと同じ『神の裁き』を使えるというお主であれば分かると思うが、もしお主が魔女であれば死ぬことになる。そして、永遠の地獄へ行くことにもなる。わしはこれをお主に使うがよいか?」


「も……もちろん……でございます」


「そうか」


 アベル枢機卿は集まった群衆に言った。


「わしは異端審問官じゃ。これよりこの者に『神の裁き』を使う。魔女の嫌疑がかけられているが、これですべては解決じゃ。もしこの裁きに異論を唱える者がいれば、それこそ神に対する冒涜と心得よ」


 静まりかえった群衆を満足そうに眺めると、彼はゆっくりと手をかざし祈りを捧げる。


「神聖にして至高者なる父よ、どうかこの者の心を明らかにし、ふさわしき裁きをお与えください。善なる者には安息を、邪なる者には死を賜りください」


 朗々とした祈りがささげられると、虹に似た光がどこからともなく差し込んできた。ダイヤをちりばめたような輝きが辺りに広がる。


 そして、マリアは穏やかな表情を浮かべたままで、死の気配は微塵もない。


「ふむ」


 老人はマリアの体を支え起すと言った。


「娘よ。もうお主の嫌疑は晴れた。お主が神より力を授かったというならそうなのであろう。これからも人々のためにその力を使いなさい」


 集まっていた人々から歓喜の声が上がる。


「お嬢様!」


「マリア様!」


 涙に交じってマリアを心配していた人々の笑顔が、喜びの声が響く。


「良かった! 本当に良かった!」


 グラスたちが涙ながら手を振っている。


 マリアを囲んでいた神殿警察の男たちすら歓声を上げていた。



 そこへ一人の男が侯爵の兵に拘束されて連れてこられた。ムラーノ商会の現会長だった。前会長の息子である彼は、怯えた様子であたりをうかがっている。


「さて」と老人は驚く司教を見た。「この者との関係を教えてもらおうか? どうして、そなたがこの者と親交がある? どうして、他の教区にまで足を運んできたのか?」


「それは……」


「そなた、欲をかいたな」


 黙り込む司教に彼は静かに言った。


「改めて事情を聞かせてもらうぞ」


 群衆の中に紛れ込んでいたムラーノの息のかかった野次馬も捕らえられていく。彼らの目的は死刑を叫んで、群衆を扇動することだ。


 マリアは兵たちに支えられながら群衆の声援にこたえると、満足そうにそのまま眠りについた。その温かい笑顔に、集まった者たちはいつまでも声をおくり続けたという。


 彼らの声援の中にはこうあった。


「聖女様!」と。


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