魔王になりました
私はもう今日何度目かのため息を吐き、目の前のウィンドウを消した。
温かな日差しが差し込むサロンで、香りのよい紅茶があるというのに、一向に変わることのないステータスを見て落胆していた。
LV.999
STR.500
VIT.1500
すごい数字だ。習得していたスキル『鑑定』を使って、周囲の人の能力を見てみたが、訓練を受けている貴族の兵士がLV.10もいってない。筋肉ムキムキの親衛隊長でさえSTR.26のVIT.15だった。
つまり、私の攻撃力はマッチョ隊長の約20倍だ。
そして、防御力をさすVITに関しては、考えることが嫌になるほど高い。盗賊を相手に試してみたが、彼らが私に加える攻撃がどのようなものであろうと、服にすら皺一つ付くことは無かった。
とんでもない数字だ。
しかも、びっくりすることに私は戦士や剣士の物理クラスではない。ステータスの欄にはばっちりとこう書かれていた。
『魔王』
要は、魔族の王だよね。
この世界の魔族は人間よりも魔法の扱いに長けているらしい。あったことがないからどのくらいの能力は分からないけれど、人間と戦争をしているらしいからその程度がうかがい知れる。
そして、私のステータスはこうだ。
INT.20000
RES.20000
明らかにおかしい数字だ。こう見てみると、STR.500とVIT.1500が可愛く見える。貴族お抱えの魔法師が20前後だったから、私はその1000倍となる。まさに『魔王』だ。
そして、表示されたスキルには様々なものが並んでいたが、魔法に関するものは恐ろしいものばかりだった。
『広域催眠魔法:指定エリア全域に催眠を掛け、魅了状態にする』
『広域殲滅魔法:四方約20kmを灰に帰す破壊魔法』
『状態異常完全無効:毒、麻痺、睡眠、やけど、病など、すべての状態異常を無効化し、意思による反射を行うパッシブスキル』
『死:対象を即死させる(対象を視認する必要あり)』
『隷属:対象を完全に隷属させ、いかなる命令をも実行させることができる』
・・・・・・などなど。
もう魔王にふさわしいスキルが満載だった。しかも、極めつけには……
『骸帰り:死んだ者の能力を強化して、使役したゾンビ兵として復活させる』
なんてスキルまであった。
「はあ・・・・・・」
外はこれほどに良い天気だというのに私は不幸だった。なぜなら、私は世界を征服できる人外の存在になりたいわけではないから。いくら強くたって、実際に戦わないのならば意味はない。私は平和主義者なのだ。まあ、日本のように安全な世界ではないのだから、多少強いことはいいかもしれないが、それにしても限度がある。
もう見飽きたステータス画面を呼び起こすと、意識するだけで見たい項目が表示されていた。
『ヒール:自然治癒力を高め、対象の生命力を少し回復させる』
『キュア:対象の異常状態をわずかに回復させる』
いわゆる初歩の回復魔法が二つ。
「せっかく異世界に来たのにどうして……」
人間最大の敵である『魔王』になってしまったのか。できれば、みんなから慕われる『聖女』とかになりたかった。
でも、『聖女』というからには回復魔法に秀でていなくてはならないだろう。初級のヒールとキュアしか使えない『聖女』なんて……ありえない。
再び深いため息を吐く。
「おやおや、そんなに深いため息を吐いてどうされたのですか? 何かご不便がありましたか?」
私は立ち上がると、サロンに入ってきたこの家の主であるリヒテンシュタイン侯爵に一礼した。さらりと私の肩から流れる髪は、元の世界とは違うブロンドだ。初めて鏡を見たときには、お人形のようだと自分でも思うほど、整った美しい容姿になっていた。
「いえ、侯爵様には本当に感謝しております。私のようなものを保護してくださって」
「そんなことはお気になさらずにマリアさん。もともとはあなたが私を助けてくださったのではありませんか」
彼はいかにも貴族という感じの中年男性で、しばらく衣食住の面倒を見てくれていた。
「ところで記憶の方はいかがですか?」
そう、突然異世界にやってきた私は、自分を記憶喪失ということにして、常識がないことをごまかしていた。
「いえ、なにも」
「そうですか。ここにいてくだされば不自由をしないようにいたします。思い出すのは少しずつでよろしいですよ」
「ありがとうございます」
温かい笑みを浮かべる侯爵様を騙していることに、少しの胸の痛みを感じながら、初めて彼と出会った日のことを思い出していた。
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