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Alex:2032  作者: 果糖
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第三話

遅くなってしまい、真に申し訳ありませんでした。

 


 アレックスは一瞬呆然としていた。それもそのはずだろう。突如扉が開いたと思ったら黒ローブ姿の不審者が高笑いしていたのだ。呆けない方がおかしい。

 しかし、そのまま呆けていても何も始まらないと思ったアレックスはその黒ローブに話しかけることにした。


「あー……すまんな。扉を開けてもらって。正直助かった」

「ハハハハハァッ!ヒャァッハハハハハッァ!!」


 だが黒ローブは笑い続けている。


「…おーい?」

「ハハハッ!ハハハハハァッ!ヒャァッハァアァハハハハハハハッハァァッ!!」


 笑い続けている。


「……もしもーし?」

「クァッハアァアァァハハハハハハハハハァッ!!ハハハハハッ!クァッ八ァハハハハハッハハハッハッハハハァッ!!」


 笑い続けていr―――


「―――五月蠅いぞこのダボがァ!!」

「ゴファッ!??」


 ……とうとう黒ローブの笑い声に耐えきれなくなったのか、アレックスは目の前にいた黒ローブの脛に手刀を食らわせる。その速度は正に一瞬。そして恐ろしいほどの正確性で黒ローブの脛に叩きつけられた。黒ローブはその一撃を受けて転倒。痛覚が無いはずなのに何故か悶絶している。

 そしてそんな黒ローブに対し、冷たい態度で再び話しかけるアレックス。


「……で?そろそろこちらと会話してもらおうか不審者。いや変態」

「ちょっ!?ちょっと待て、待ってくれ!出来心だったんだ弁解を……って誰が変態だお前!」

 情け容赦一切無し。そんな雰囲気を言葉の端々から出しているアレックスに対して、流石にマズいと思ったのか、黒ローブが慌てた様子で返した。

 アレックスは、どうやら黒ローブは自分を知っているようだと思いつつ、警戒を強めながら問いかける。


「兎に角、お前はこちらを知っているようだが……何だお前は、早くそのウザったらしいローブを脱げ変態」

「だから変態じゃねぇよ!?というか実はもう気づいてるだろオイ!」


 正直、友人など知り合いも一緒に数えて両手で事足りるアレックスは気づきかけていたが、何か足りないといった様子で再び黒ローブに問いかける。


「悪いが私の周りにお前の様な変態は…ん?……まさか―――


 ―――ああ、お前だったか。テオ」


 そして問いかける間に気づいたアレックスは、安心した様子で黒ローブ―――テオに話しかける。 


「何で“変態”で気づくんだよ!」

「知るか。逆に何故お前はあのような奇行をしていたんだ」


 その問いかけに少しギクッとなった後、テオは話し始めた。


「いや……ただ、どうせ神殿内部でじたばたしてるだろうから思いっきり笑ってやろうと思って……」


 少しばつが悪そうに訳を話すテオの姿に、怒りを通り越して色々とどうでもよくなったアレックスは、再度テオに話しかける。


「それで、何故お前が此処にいる?」

「お前がまだ説明終わってないってのに、いきなりログインし始めるから慌てて来てやったんだろうが…」


 なにか疲れた様子で呟くテオ。そんなテオに構わず、アレックスは神殿から這いずり出ようとしている。


「フッ!……で?結局何の用があってここまで来た?」

「当然のように匍匐前進しながら言うなって……さっき言っただろ?まだ説明終わってないって」

「そう言えばッ!……ふぅ。そんなことをほざいていたような」


 完全に平常運転のアレックスに呆れながら、先程自分がいた場所、門の外へと歩くことにした。


「まあ、取り敢えず外に出ようぜ。此処で説明しても時間が勿体ないし」

「ハッ!…そうだな。取り敢えずアエラとかいう国だか場所だかに行かねばならん。案内されながらついでに説明も受けておこう」

「お、おう。なんだ?嫌に素直だな」


 思いがけない態度に怪訝な顔をするテオ。その顔を見て不思議そうにしながらアレックスが返した。


「ハッ!…正直なところ、このOMNISについてお前に聞かねばならんことが多すぎる。……この両脚のこともな」

「あぁ……。なるほど、流石のお前も未知の体験には弱いってことか……」

「不本意だがな……クッ!」

「まあ、その両脚については単純なところで……ん、外か」


 二人が門を抜けたその先。石畳の床に這いつくばっていたアレックスはズルズルと門の外に身体を投げ出した。

 その時、アレックスは妙な感触を体に受けていた。先程までの無機質な石畳とは異なる、どこか温かみを感じる地面。

 土で柔らかく固められた地面には、緑、黄緑といった色合いの草草が無造作に生えていた。その長さは立っているテオの足首程、地面に近いアレックスには視界を遮るほどの高さだった。


 周りの風景は、一言で言えば「草原」。目の前に見える月らしき物の光は優しく草草を照らし、その神聖さを感じることができる。


「これは……」


 そして何よりもアレックスを驚かせたのは、見上げた先。


 空,そら、ソラ。それも見る者を魅了する満天の星空が広がっていたのだ。


「…まさか、ここまで現実に酷似しているとはな……」

「凄いだろ?もっとも今はOMNIS内時間で一時(・・)。深夜もいいところだ」


 夜なのは分かるが、一時?とアレックスが疑問に思っていると、その顔を見たテオがその疑問に答えるように続く。


「ああ、このOMNISはな?グリニッジ標準時を基準に時間設定されているんだよ」

「ほう」

「俺たちがログインしたのが午前二時頃、グリニッジ標準時は-二時間だから……」

「午前一時…か。ん?ちょっと待て、先程お前一時(・・)と言っていたな?」


 普通なら午前〇時などと言うはずだろう……とアレックスが思っていると、少し驚いた様子でテオがまた説明を行う。


「…お前良く気づいたな。基本的にOMNIS内の時間は現実世界の二分の一。つまり一日が十二時間なんだよ。ってことは」

「午前,午後の表記をする必要性が無い…ということか。確かに理屈は分かるが地味に面倒だな」


 アレックスが嘆息していると、テオが付け加えるように説明してきた。


「因みにゲーム内の言語は基本日本語ベースだから。俺以外のPCやNPCと話す時は翻訳アプリ立ち上げとけよ?」

「何故に日本語……」

「さあ?解析してる連中の話では“OMNISは日本人が作ったから基本言語も日本語なんだ”とか言ってるけどな」

「それなら仕方ない…のか?」

「まあOMNISだからな。しょうかないさ!」


 アレックスは元々会話があまり好きではない。家業の関係もあり見知らぬ人と話すことはできるが、それなら一人で黙々と作業していた方がずっと楽だと感じてしまう人種なのだ。

 しかしここはゲーム。テオの言い方では人と話すことが前提でプレイしていかねばならぬだろうこのゲームで、言語も翻訳無しでは通じない状況下で、アレックスは非常に面倒臭さを感じていた。


 その後、空を埋め尽くすような星々の下、歩いているテオの横で黙々と草原を匍匐前進していたアレックスだが、ふと思った疑問を口に出した。


「しかし現実での一日が此方での二日、という訳か。日数が増える分、日は短そうだな」


 アレックスが言った通り、一日が十二時間というのは結構なレベルだ。だが、そんなアレックスの懸念に対して、テオが訂正を行う。


「いや、実はそれが違うのさ」

「は?どういうことだ」

「…なあ、このOMNIS内で過ごしてる俺たちの体感時間、どれくらいだと思う?」

「……おい、まさかお前」


 予想外のテオの言葉に無意識のうちに額から冷や汗が出てくるアレックス。そのリアクションを見ながら、テオが話の続きを説明する。


「……多分予想してる通り。このOMNIS内の体感時間は、きっちり現実の二倍になってるんだよ」

「おいおい。大丈夫なのか?確か先月発表された作業補助用アプリが体感時間の延長で酷いことになっていなかったか?」

「確か『一時間の作業で効率五倍!』なんて胡散臭い謳い文句掲げて、被験者が病院送りになったっていうアレか?……まあ多分大丈夫だと思うぜ?」


 人間の体感時間を延ばす行為は二〇三二年現在不可能なことではない。そもそも、体感時間を延ばす方法は知られているもので、大きく分けて二つほどある。

 一つは人間の構造を利用する方法。もう一つは人間の思考を加速させる方法だ。


 前者は至ってシンプル。インターフェイスを経由して脳から心臓に電気信号を送り、心拍数を高めさせる。そうすることで心拍数の上昇に比例して体感時間は延びるという法則だ。

 この法則は原理が単純なことから初期の研究時に活用されたが、そもそも心拍数を上げる行為は心臓に負担をかける行為で、また事故の可能性も大きかったこともあり、割とすぐに研究はされなくなっていた。


 そこで考えられたのが後者の方法だ。この方法はインターフェイスを装着した人間の脳波をスキャン、波長を同期させ、あたかも「もう一つの脳」であるかのように動かし、脳内で電気信号を発し続けている神経細胞の負担を肩代わりし、その状態で伝達速度を上昇させて体感時間の増加を図ろうとする方法である。

 この方法も欠点が存在する。難しい話ではなく、単純に脳の疲労が凄まじいことになる、ということだ。負担を肩代わりしているとはいえ、加速された電気信号が飛び交っているのは使用者の脳。

 つまり、改造されたミニ四駆を走らせるためにレールを補強しても、その改造したミニ四駆がレールの上を超スピードで走り続けているという事実は変わらないのと同じで、脳にかかる負担は変わらない、それどころか増している可能性さえあるのだ。

 しかしこの問題をOMNISは解決、というよりかは軽減できる、とテオは言った。なんでもこのOMNIS、神経細胞の負担を肩代わりする際にスカイネットの演算処理能力を使用しているらしく、ほとんどの割合をインターフェイス上で処理出来る為、脳の負担を最小限に留めているのだとか。何とも不気味なことだが、その結果快適な環境が手に入るならどうでもいいか、とアレックスは結論付けている。


「でもまぁ、脳には一定の負担がかかるから、長時間プレイすることはできないらしいな。ゲーム内時間で一二時間経過すると警告音が鳴るらしいし、実際そこまでプレイしてるとかなりの疲労感を感じるらしいぞ」

「……まあ長時間プレイしようとする馬鹿を抑制できるならそれも良いのかもしれんな」


 その言葉を聞いたテオは、チラチラと匍匐前進しているアレックスを見ながら言いたいことを言えないような妙な感覚を覚えていた。


(いや、両足が動かないからって匍匐前進で進もうとする奴も大概だと思うんだけどな……)


 幸いその思考が外に漏れることは無く、二人はアエラに向けて進んでいくのだった。






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