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Alex:2032  作者: 果糖
18/22

第十八話

遅くなってしまい大変申し訳ありません。

今回は短めになっております。

 


 ジョージ翁の依頼でイェルサレン大遺跡群の調査を任された一行は、

 色々と疑惑を浮かべつつも、順調に遺跡調査を続けていた。

 道中ゴーレム達の襲撃がありつつも、テオやリリィの活躍で何事もなく終了。

 そして彼らは現在、ダンジョンの第三層に潜っていた。


「――此処は異常なし、か」

「マラム草の群生地でしたっけ。こんな暗い場所に良く生えてますね……」

「マラム草は魔力と少量の水さえあれば何処にでも生える。

 そのおかげと言っていいのか、回復ポーションが値上げすることも無いがな」

「でも……」


 不安げに此方を見上げるリリィに頷きながら手元の資料を見やり、嘆息する。

 そこには簡略化された遺跡内の地図。そして薬草等、採取系アイテムの採取ポイントが記されている。


 だが――




「――ああ。此方は些か深刻だな……」


 そう言ってアレックスはリスト内の箇条書きにされている文章を見ながら、

 メモ用紙になにやらスラスラとドイツ語で書き連ねる。


 メモには箇条書きで


『アコニム草 群生地:× 

 パパウル草 群生地:×』


 と記されていた。

 書いた後、アレックスは苦々し気に呟く。


「……これは正直予想外だ」


 深刻そうに考えているアレックスの前からメモの内容を覗き込んだテオが尋ねる。


「んー?なんだこれ?」

「……ああ、これは師に頼まれた案件の一つでな?

 師曰く、それぞれの植生地の状況を調べてこい。だそうだ」

「隣にバツが書かれているってのは……そういうことか?」

「……そういうことだ」


 男二人の嫌そうな顔。

 それもそのはず。アレックスが今まで調べてきた群生地の内、

 幾つかの群生地の薬草が全滅(・・)していたのだ。


 本来は根ごと引き抜いても、再構築によって採取系アイテムは復活する。

 だが、起きるべき再構築が起きない所為で、所々の群生地で壊滅的な被害になっていた。


 再構築の影響は何も薬草だけではない。


「しっかし、ここまで魔物の影が見えないと逆に不安になってくるなぁ」

「何処に行っても出て来るのがゴーレムだけって……不気味ですね」


 再構築は採取系アイテムだけでなく、ダンジョン内に生息する魔物にも影響する。

 それが無い今、魔物も狩り尽くされてしまい、

 迷路内をゴーレムだけが闊歩するなんとも不思議な空間になっていた。


「これも再構築の影響か……」

「本当なら蛇とか蝙蝠が出て厄介極まりないから、

 私としては結構楽ですけど……アレックスさんは何か気がかりなことが?」


 ん?とリリィの声に振り向いたアレックスは、億劫そうに答える。


「……群生地が全滅しているのは予想の範疇だったんだ。

 問題はどの群生地が全滅しているか、なんだが……」

「何か問題でも?」

「問題というかは微妙なのだがな。

 アコニム草にパパウル草……他にもあるが、これらに共通する点が一つある」


 一つと言うと同時に人指し指を上に掲げる。そして若干声のトーンを下げて。


「――これら全て、毒草なんだ」

「どく、そう?」

「ああ、それも厄介な部類の、な。

 アコニム草はそのまま食せば即効性の猛毒となり、パパウル草は強い幻覚作用を使用者に及ぼす」


 どちらも劇薬。

 揮発性は無い為、取り扱いは比較的楽な部類だが、

 見習いのアレックスでは未だ触れることが出来ない代物。

 師に聞いたところ、正しく使うと強心剤や麻酔薬の原料として活用できるらしいが……


「……でもよぉ。そんなもの、一体何で全滅するようなことが起きるんだよ」


 少し面倒臭そうに尋ねるテオ。

 元々頭を使うのが苦手な彼の気質をよく知っているアレックスは、

 気にもせず淡々と告げた。


「考えられるとすれば、再構築が行われないことによる弊害だ。

 お前が昔言っていた『山菜を採る時は少し残さないと~』云々とは異なり、

 OMNISの採取系アイテムは根こそぎ採取しても再構築によって再び採取が可能となる」


 因みにダンジョンの外でもこの法則は成り立つ。

 ただしダンジョンとは再構築のスパンが異なり、その周期はOMNIS内時間で二週間。


 現実の時間でも一週間、しかも採取ポイントはランダムで発生するという厄介ぶり。

 その仕様の所為か、希少な採取アイテムは高値で取引されている。


「本来の再構築が行われない為、この状態が保たれている……ですか」

「魔物の鳴き声が一向に聴こえねぇのもそのせいだろうな。

 普段は蛇の這いずる音や蝙蝠の羽ばたきに注意して歩く必要があるんだが……」


 そう言われて周りを見渡すアレックス。

 暗い洞窟内にはランタンの灯りと、それに照らされた三人の影のみで妙な気配は微塵も感じない。

 時折何処からか水の滴る音が聴こえるが、それはより静寂を強調させるだけだった。


「なんだか不気味ですね……」

「ああ……」


 本来、何時現れるか分からない程に魔物の気配で満ちていたであろう迷宮は、

 代わりに無機質な、どことなく不気味な雰囲気が立ち込めているようにも感じる。


 それを一番に感じ取っていたのであろうリリィの不安げな呟きに同意しながら、

 リストを確認するアレックス。


「兎に角、確認しなければいけない箇所はまだ残っている。先を急ごう」

「はいよー」

「了解です!」


 一行は更なる調査の為、より深層へと歩みを進めていく。

 静寂の中。三人の足音だけが、迷宮の中に響いて行った……。





読了ありがとうございました。

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