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Alex:2032  作者: 果糖
16/22

第十六話

三ヶ月以上お待たせして申し訳ございません…

 


「――――潰れろ鉄屑がァッッ!!」


 アレックスら一行は南門を抜け、目的の【イェルサレン大遺跡群】に向かう一本道を歩いている。

 道中何度か偵察用と思わしき鉄屑――正式には『偵察用ゴーレム』だが――に遭遇したが、最前線クラスのテオにとってはさして脅威ではないらしく、リリィの援護やアレックスが魔法を打つ前に速攻で叩き潰していた。


 偵察に用いることを前提として創られたからか通常の戦闘用よりかは小柄で装甲も薄いらしいが、

 テオの振るう大剣はまるで紙でも裂くかのようにあっさりとゴーレムを引き裂いていく。


「――こうして見ると、ゴーレムが脆く感じるな……」

「……師匠を基準に考えないで下さいね?」

「違うのか?てっきり最前線のプレイヤーは皆あんなものだと思っていたが……」


 フルフルと首を横に振りながら、リリィは強く否定した。


「――偵察用とはいえ、ゴーレムを両断できるのはほんの一部ですよ!?


 

 ……それに、STR重視の師匠と違って、SPD&DEX両振り型の私じゃ傷付けるのも一苦労ですし」


 STR?SPD?……と。聞き慣れない単語を聞いたアレックスはその場で首を傾げた。

 一仕事終えた、とばかりに大剣を背負い肩を回しているテオは、

 頭の上に疑問符を浮かべているアレックスに、何のこともなさそうに話しかけてくる。


「ああ、ステータスだよ。魔物ぶっ殺したり依頼達成していくとLV(レベル)が上がるだろ?

 んで上がった時にステータスの振り分け用ウインドウが表示されんだわ。

 後は自分が上げたいと思ったステータスを適宜振り分けるだけ。



 ……まあ経験上、極振りは碌なことにならないから止めた方がいいけどな」


 ほうほう。と理解した様に頷くアレックス。


「ステータスの種類は?」

「全部で六つ。STR,DEF,SPD,POW,INT,DEXの六種類だ。

 順に攻撃力,防御力,速力,耐久値,魔法効果,器用度って所だな」


 他にも、STRとDEFは装備品を装備する際に必要な筋力にも補正を掛け、

 SPDは反射神経、POWはスタミナ。INTは魔力量、DEXはクリティカル率にそれぞれ補正を掛ける。


 自分が上げるならどうなるのだろうか……と思案するアレックス。


 だが、横で見ていたテオは親友が考え得る限り最悪の状態だったことに気が気ではなかった。


「……まさかとは思ってたけど、本当にLV初期値のままなのか?」

「そんなウインドウ今まで表示されたことも無かったからな」

「今まで受けた依頼とかは……」

「薬草集めとネズミ狩りをそれぞれ一度だけ。

 後はジジイのパシリだが……どう考えても依頼ではないな。うん」


 糞ジジイは度々配送だの納品だの言ってきたが、現在に至るまでLVが上がる様子は一度もない。

 恐らくパシリは依頼に含まれないのだろう。

 うむうむと一人首肯するアレックスに、呆れた様子のテオがこう提案する。


「――時間も無いし、こうなったらパワーレベリングするしかねぇな」

「そうですね。それが一番早いですし」


 リリィも同意見だったのか、頷きながら賛同する。


「パワーレベリング……まあ良く分からんが、早いに越したことは無いか」

「ぶっちゃけ、初心者には向かねぇっていうか勧められないレベリングだけどな」


『パワーレベリング』は、複数のプレイヤーが戦闘を行う際に使用する

『パーティ結成システム』を用いるレベリング方法の一つである。


『パーティ結成システム』を使用すると、

 魔物を倒した際、得られる経験値をパーティに加入しているプレイヤー全員へ均等に割り当てることができる。


 他にも常にお互いが何処にいるかを確認することも、

 パーティ専用チャットを使って即時に連絡を取り合うことも可能になるが、

『パワーレベリング』においては経験値のシステムを利用する方法である。


 まあ、方法など言ってみれば簡単な話だ。

 初心者が強いプレイヤー達のパーティに加入して、強い魔物を倒し続ければいい。

 魔物が強ければ強いほど、多くの経験値が手に入る。

 初心者は魔物など倒さなくてもいい。何故ならパーティに加入しているだけで経験値が入ってくるのだ。



 ……この方法は文字通り寄生(・・)と呼ばれるレベリングの一つであり、多くのプレイヤーが嫌悪する方法である。

 確かにコバンザメの如く強者に張り付きながら経験値のおこぼれにあずかる様は、かなり見苦しい。



 ――だがそれだけではなく、テオが忌避するのは、OMNISならではの理由もある。


 知っての通り、OMNISは没入型のVRMMORPGだ。

 当然、プレイヤーはOMNIS内での肉体を扱う感覚に慣れなければいけない。

 パワーレベリングはそれを行わずにLVを上げることが出来る為、

 上がったステータスに肉体が振り回され、戦闘では役立たず扱いを受ける可能性が高くなる。


 仮に例えるとすれば……『力だけ強い赤ん坊』だろうか。





 まあそんな危険性もあることを一通り理解したアレックスは、

 生産職志望であることもあってか、特に気にする様子もなくパワーレベリングに賛同する。


「――取り敢えずパーティ組んで遺跡に突入だな。アレックス!」

「……ん?」

「ああ、今パーティ申請出すから、適当にYes選択してくれ」

「了解した」


 平常通り何事もなく歩きながらパーティ登録を行う二人の後を、リリィはぎこちなく追いかける。

 リリィの焦りや不安をよそに、淡々と話し続ける二人。


 二人が歩き続ける中、空回りしていたリリィは歩きながら不意に一言。





「――ハァ……まあ、いっか。師匠だし」


 日頃テオの破天荒ぶりに晒され続けていることもあってか、

 案外早く回復したリリィは平常心を取り戻していた。





 ◇◇◇◇





「――しかし、殺風景過ぎやしないか……?」


 それからそれから……。

 三人は横並びに砂原をテクテク歩きながら、時折雑談を挟みつつ魔物の討伐に勤しんでいる。

 一応アレックスも魔法を放ったりしてはいたものの、ゴーレムには効く様子もなく、徒労に終わっていた。


 テオやリリィに言わせると、ゴーレム自体は魔法攻撃に弱い性質を持っているが、

 流石にLV1が放つ魔法でどうにかなるものではないらしい。


「――っても、この辺りは何処もッ!……こんな感じだぜ?」


 会話を続けながらも大剣を振るい、ゴーレムを鉄屑に変えるテオ。

 金属製の人形を大剣で潰し斬る様は正に圧巻。伊達に最前線クラスではないらしい。


「そんなことよりアレックス。今、何LVになった?」

「ん?11……いや、今12になった」


 テオがゴーレムの息の根……息の根?を止めた瞬間、

 目の前に本日十二回目となるウインドウによる通知が登場した。

 アレックスはそれを確認すると、特に躊躇することもなくDEXに振り分ける。


「あっさり振り分けるんですね……」

「生産職志望だからな。

 一応INTにも振り分けてはいるが……DEX重視になってしまうのはしょうがない」


 ステータスウインドウには今まで手に入れた経験値の総数と、

 振り分けの割合を表した棒グラフが表示されている。


 アレックスはDEXを優先して次点にINT、それ以外は平均的に伸びた形にしている。

 始めはINT優先で伸ばそうと考えていたが、

 リリィから生産作業にはDEXが重要だと聞かされてからはこの形を守るように伸ばしていた。


「私はメイジのロールを取っているものの、些か戦闘には不向きだからな。

 今は色々と物入り故に戦闘にも参加しているが、生活が安定したら完全に生産職へと切り替える予定だ」


 元々アレックスは戦闘の資質が乏しい。

 テオの様に感覚的に動くことも出来なければ、リリィの様に器用に立ち回ることも出来ない。


 それに加えて左足が自由に動かないという大きな欠陥もある。

 とてもではないが、最前線で二人と肩を並べるなどということはできないだろう。


「……まぁその辺りは自分次第だからなぁ。

 俺はSTR優先して後適当に振ってるだけだけど、めっちゃ考えて振ってる奴もいるらしいし」

「私も結構考え込むタイプなんですよ。

 そのせいで考えてる間に魔物の一撃喰らうことも時々あったり……戦闘中に出てくると邪魔だし」


 確かに。アレックスは今まで出ていたウインドウのことを考えていた。


 このウインドウ、LVが上がる度に目の前に現れる形式になっているのだが、

 手が空いている時ならまだしも、戦闘中にも出てくるのだ。正直邪魔臭いらしい。


「……設定で変えられないのか?」

「無理無理。今まで何度も方法探したけど未だに解決してないんだよ」

「このゲームGMコールも無いので解決しようもないですし……」


 二人は苦い表情を浮かべながら首を横に振る。

 初期からプレイしているテオでも分からないとなると、アレックスも特に出来ることは無い。


「――まあいいか。先を急ごう」

「おう。……と言っても、あと少しなんだけどな」

「テラから結構歩きましたからね。周りの景色も段々と遺跡っぽくなってますし」


 気が付けば結構な距離を話しながら歩いていたのか、

 周りを見渡せば砂原の中にちらほらと遺跡らしき柱の跡や石造りの壊れた彫刻などが散見される。


 何となく神秘的な雰囲気を醸し出す風景に感嘆を覚えるアレックスだったが――


「……ん?」


 眺めていた風景の中。首を右に曲げて眺めていると、

 開けた視界のちょうど真ん中に何やら大きな影が見えたのだ。


「――おお。丁度近くまで来てたのか」

「この辺り景色が殺風景だからか地味に分かり辛いんですよね……」


 アレックスが影を眺めていると、前と横にいた二人が反応を示す。


 ということは、アレが今回の目的地である――




「【イェルサレン大遺跡群】。……その入り口か」





 石造りの歴史を感じさせる門。というより洞窟の入り口と言った方が適切だろうそれは、

 入る者を呑み込んでしまうかのような深い深淵を三人に見せていた。



読了ありがとうございました。

次回から遺跡探索編になります。

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