第十四話
およそ一ヶ月ぶりの更新。
今回は本編です。前の回から数日後ですね。
混沌を極めた初ログインから数日後の日曜日。
当初は慣れない仮想空間上での作業に戸惑っていたアレックスだったが、
意外にも丁寧な指導をしてきたジョージの教えもあってか、
修業初日に初心者用回復薬を作成することに成功していた。
ジョージ曰く「こんなもの素人でも作れる」らしいが、
今までこの手の作業を体験したことがなかったアレックスにとってはこれでも難問だった。
――そして次の課題。いよいよ市販品の回復薬を調合することになったアレックスだったが……
「――指導通りに作ったのに何故こうなるんじゃ」
「……し、知らん」
珍しくはっきりしない口調で、答えるアレックス。
「目を逸らすな馬鹿弟子。お前に作れと言ったのは何だ?」
「――回復薬だが?」
目を逸らしながら、それでもハッキリと師の質問に返す馬鹿に、
ジョージの頭からブツッ!と何かが切れる音が聞こえた。
「――何処に黄色に光った回復薬があるかこの馬鹿弟子がァァアア!!」
――彼らの目の前にあるのは、アレックスが先程までかき回していた鉄鍋。
中には明らかに回復薬ではない液体が何故か黄色く染まり、これまた何故か微光を放っている。
言うまでもなく、普通の回復薬の色は緑色。つまりこの液体は――
「――また失敗か。ふむ、しかし何でこうなるかね」
「それはこちらのセリフじゃこの馬鹿弟子が……」
百歩、いや千歩譲って、色が変わるのは分かる。
良くはないが、その辺りは何か他の薬草でも混ぜればできる現象だ。
「――何故光る?
もう怒りを通り越して逆にどう調合したらこうなるのか教えてほしいくらいじゃよコレ」
「知らん。私も特別何かしたわけではない。ただ――」
「……ただ?」
「――人形に対する、限りない愛を考えていただけだ」
……キリッ!と擬音が聞こえそうなほどのキメ顔で告げる彼を見て、
呆れすぎて怒りも出なくなったのか、大きなため息をついたジョージ。
「……もういい。今日はここまでにしよう」
「ん?もういいのか?」
「ああ、作った薬品の処分と片づけは前教えた通りにしておけ。
それと今日の分の回復薬を届けておけ。メモも入っておるから、指定の場所に届ければいいぞ」
「了解した」
「儂はもう休むわい……じゃあの」
そう言って、何処か疲れた様子のジョージは研究室を後にする。
アレックスはそんな彼の様子を不思議そうに眺めた後、研究室の後片付けと掃除を始めるのだった……。
◇◇◇◇
「しかし……暇だな」
研究室の後片付けを終えて、もう日課になってしまった回復薬の出荷を終わらせた後。
アレックスは暇になってしまった時間をどうするか考えていた。
役所で依頼でも探すか、それとも市場でも物色するか……。
そう考えていたアレックスだったが、結局かねてよりの目的を果たすことにした。
「――丁度昼時だ。今度こそあの人形を調べねばならん……!」
――アレックスが向かっているのは、OMNISを始めるファクターとなった画像の人形の元。
正確には人形を置いている物件――後で調べたところ少し高めの食事処だった模様――に向かっていた。
――何だよお前。あれだけ人形人形言っておきながら行ってなかったのかよ――などと言われてしまうかもしれないが、
これには特に深くもないがちゃんとした理由があるのだ。
まず第一に、この食事処。昼時しか開店していない。
それを知らずにログイン二日目からGダッシュで店まで直行したアレックスは、
思わずその場で地面に頭を叩きつけながら泣き叫ぶという奇行を見せていたが……これはどうでもいいか。
そして第二の理由は、単純にメディスの修業が忙しかったのだ。
先程の件など、アレックスの自業自得である面が多いが、まあこれもどうでもいいことである。
「――此処を右ッ!」
――そんなことを言っている間に、アレックスは曲がり角を器用に高速でカサカサと走り続けている。
もう移動手段として定着してしまったこのゴキブリスタイルも、数日経てばNPCの間でも慣れた者も多い。
街中を走っていると衛兵が追いかけてくるのが難点だが、アレックス自身は意外とこのスタイルがお気に入りになっていた。
「――よし。間に合った」
曲がったその先。遂に目当ての店――【銀両亭】――に辿り着いたアレックス。
意外にも師匠の工房がある東南区の近く。南西区の端に位置していた。
十字構造の大通りからちょっと裏道に入った辺りにある食事処で、
石造りの構造は他の建物と変わらないが店舗が周りと比べて一回り大きく、人の出入りが激しい。
そういえば昼時だったな……と思い出し、店の迷惑も考慮しようとした矢先。
「――あったァ……!」
――目当ての代物を見つけるとその考えも塵と消えていった。
「これが例のドール!なんという完成度だァ……!」
ハアハア言いながら店先に置かれた人形ににじり寄る変態。
興奮で目は血走り、動悸も激しい。その姿はまごうことなき不審者であった。
「……なんだあいつ」
「新手の変態か?」
「服装から見て初心者のメイジか。なんでこんな所に……」
周りのプレイヤー達の痛い視線もなんのその。
アレックスは人形に近寄ると注意深く観察を開始した。
「――見たところかなりの年代物だな。毎日此処に置いているからか、日焼けも酷い」
昼時だけの開店とはいえ、一日で一番日光に当たる時間だ。
陶磁器製らしき素体の顔には年月を感じさせる汚れや傷が散見された。
「丁寧な作りだ……手入れも怠っていないみたいだし。
大切にされているのだろうな」
だがその状態とは裏腹に、ゴシック調のドレスにはどこもほつれは無く、
傷や汚れに関してもあちこちに修理痕を確認できる。
人形の持ち主はこの人形をとても大事に扱っているのだと分かったアレックスは、
身勝手ながら少し安心した様子で、今度は店の中を覗いてみる。
「落ち着いた雰囲気……良いな。私好みだ」
内装はシックに纏まっており、正に質実剛健と言えるものだった。
プレイヤー,NPC問わず沢山の人々で賑わっていて、
活気に溢れている店内では制服を着た店員が忙しそうにフロアを歩き回っている。
「意外と混んでいるのだな……」
昼時であることを加味しても、銀両亭はかなりの人気店の様で、
現にアレックスがニヤニヤ人形鑑賞している間にも結構な数の客が出入りしている。
ついでに寄っていこうか。
そう楽観視していたアレックスはその考えが如何に甘かったのか実感することとなった。
「……店に入るのはまた次の機会にしよう」
ひとまず例の人形を見ることは出来たのだ。
目的は達成している。ならばそれで良いではないかと納得したアレックスは、
――再び例のスタイルでカサカサと移動を開始した。
「ヒッ!?」
「うぉッ!なんだありゃァ!?」
「ゴキ…ブリ……?」
「……本当にプレイヤーなのかアレ……?」
……まあ、周りのプレイヤー達は困惑の一文字を浮かべていたが。
◇◇◇◇
「――ふむ。いつもながら、此処は騒がしい」
人形の元から移動してきたアレックスは、北東区の【マルクス三兄弟の何でも屋】に来ていた。
今回用があるのは、前回来た時と同じ三階。
何時も賑わっている一階をスルーして、三階まで階段を昇り続ける。
「あのボロ杖を折ったまま買い替えていなかったからな……」
以前この店で購入した杖を、ログイン初日にへし折っていたアレックス。
メディスの修業にかかりきりで数日経った今も彼の手元には折れた杖しかない。
正直もうこれでいいかと考えていたアレックスだったが、
せっかく休みが取れたのだから何か適当な物でも見繕おうという算段であった。
「……む。着いたか」
できればまた安く済めばいいが……と試行している内、目的の三階に着いた。
以前と変わらず壁に立てかけてある無数の武器防具達がどことなく威圧感を与えている店内は、
その威圧感からか、静かな雰囲気が漂っているようにも感じた。
「――お?いらっしゃい!」
「ん?」
何を買おうか。
そう考えながら周りの武器を見回していたアレックスに、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
声の方向を向くと、店主であるクラウスが何本か片手剣を抱えた状態でこっちを向いていた。
恐らく在庫整理だろうか。持っていた剣の束を傍らに置いていた木箱に入れると、笑顔でこちらに近づいてくる。
「よぉ兄ちゃん!久しぶりだな。買い物かい?」
「……まあ、そんなところだ」
「そうかそうか!……それなら話が早ぇや」
話?と疑問符を浮かべていると、クラウスは理由を話し始める。
「いやぁ。前来たときはあのボロ杖を買ってもらっただろう?」
「――ああ、あの杖ならネズミに叩きつけた時に折れたぞ」
「……え?」
「そんなことより話を続けろ」
「お、おう。それでな?その時に一緒に人形を渡しただろ?」
あの土産物のドールか。アレックスはその姿を思い浮かべ、
最近は銀両亭の人形にかまけて、彼女を愛でていなかったな……と異次元の方向に思考を飛躍させていた。
「――返さんぞ?」
「へ?」
「人形は既に私の物だ。誰にも渡さん」
「ああ!そういうわけじゃねぇんだ。
……それを作ったテーラーがいるのは知ってるだろ?」
「ん。お前にタダで渡したという奴か?」
「そうそう。そのテーラーにお前のことを話したら酷く喜んでてな?
そいつから渡しといて下さいって言われてたブツがあるんだよ」
まあ兎に角こっちに来てくれ。と言ってクラウスはカウンターの方へ歩いていった。
アレックスも元々人形の製作者には興味があった為、特に異論もなくついていく。
「確かこの辺に……お、あったあった」
クラウスがカウンターの裏から取り出したのは、以前アレックスが譲り受けた物と同じ。
ただ、素体は同じでも服装が大きく違った。
以前のシンプルなワンピースではなく、
レースとフリルをふんだんに使った、可憐なゴシック調のドレスに身を包んでいた。
「おお……!」
感嘆。その一言に尽きる出来の人形を手にして、アレックスは満面の笑みを浮かべる。
普段の無表情からは想像もつかないような笑顔は、見る者に安らぎを与えるはずもなく、
むしろ「こいつ何企んでるんだ……?」と人に余計な疑問を与える程胡散臭いものだった。
まあクラウスが普段のアレックスを知っているはずもないので。
「――はっはっは!喜んでもらえて良かったぜ!」
という感じで笑顔の秘密には気づく様子もなかった。
その後しばらく人形を眺めていたアレックスだったが、
当初の目的――武器の買い替えに来たことを思い出した。
「――そういえば、折れた杖の買い替えをしたいのだが」
「ああ、折っちまってたんだったか」
「うむ。あのボロ杖は脆かったからな」
「……本来なかなか折れるもんじゃあないんだがなぁ」
クラウスの言葉に首を傾げるアレックス。
だがそもそもメイジは遠距離専門。杖もそれを想定して作られている為、
耐久値よりも魔法攻撃強化に念頭を置いている。
よって、金属製でも杖類は刀剣、鈍器に比べ脆くなっているのだが……。
「――ネズミ三匹を殴り殺しただけで折れたぞ。なんだアレは」
「……いや、普通そんな扱い方したら折れるだろうよ」
そんなの関係ねぇとばかりに杖の脆弱さにご立腹な彼へ呆れた様な視線を向けながら、
クラウスは本題を口にする。
「……まあいいか。で?杖の予算はどれくらいを希望してるんだ?」
「二〇〇~三〇〇ロスの範囲で見繕ってくれ」
「その予算だと初心者用の長杖しか買えねぇぞ?」
「構わん。どうせまだ数える程しか戦闘もこなしていないしな。
……それに、あまり金に余裕がないのだ」
自らの寂しい懐事情に渋い表情を浮かべるアレックス。
「何か買うものでもあるのかい?」
「ああ、メディスの修業に使う器具を、な」
「……そりゃあ値が張るわなぁ。
というか兄ちゃんはメディスに弟子入りしたのかい。なんだか意外だねぇ」
無表情のアレックスに意外そうな顔で返す。
まあ、杖を鈍器代わりに使うなど、
如何にも狂人染みた行為をしていた者が生産職志望など言われても意外としか思えないだろう。
アレックスもそれを自覚しているのか、声には出さない。
「――っと。じゃあこの〈青銅の長杖〉なんてどうだ?値段はきっちり三〇〇ロスだ」
「予算内ならそれでいい。買おう。
……だが、青銅とは。その値段にしては素材が良すぎはしないか?」
青銅は紀元前三〇〇〇年頃に発明された合金である。
一般的には銅(Cu),錫(Sn),鉛(Pb),亜鉛(Zn)の四元素を主体とした合金を指し、
これら四元素の割合によって性質を大きく変えることが可能であり、多くの多様性を持つ。
鉄と比べ加工が容易で錆びにくく、剣や鎧、江戸時代には大砲の材料にもなっていた合金である。
『青銅』の名の由来は大気に触れて酸化する際に、
その色を緑青色、つまり青銅色へと変化させることから名づけられたとされている。
因みに英語では「bronze」。A bronze medal(銅メダル)などが有名な使用例である。
……と、並べてみたが、簡単に言えば「低コストで汎用性の高い合金」ということだ。
現代においても青銅以上の機械的性質を持った合金は多々開発されているが、
製造コストを考えると採算が取れないものが殆どである。
勿論鉄に比べれば安価で脆い。
だが、三〇〇ロスで売られるにはあまりにも良すぎる素材であると言えた。
「少なくとも五〇〇ロスはすると思うのだが……」
「まあ一人前のスミスならそれくらいはするんだがな……ほれ」
「む。これは……」
クラウスから渡された青銅の長杖は手に渡った瞬間ずっしりとした重さを伝えてくる。
丁度上の方に小さく「Lange Rohr aus Bronze(青銅の長杖)」とウインドウが出ており、
特に虚偽は無いように見え、一瞬不思議に思ったが、
アレックスはその色を見て何故その値段なのか得心した様子だった。
「――成程、白銀色か」
青銅は錫の含有量によってその色と性質を大きく変化させる。
少なければ赤銅色、そこから順に黄金色へ変わっていき、一定量を超えると白銀色になるが、
硬度は含有量が増すごとに上がっていくが、その分脆くなるので、
大昔に銅剣を作成する際は錫を入れ過ぎないように黄金色を目安にした青銅を使用していたらしい。
打撃に使用することを想定されていない長杖でも、武器は武器。
必要ならば防御に用いることも考えなくてはならず、必然的に黄金色をしていなくてはならない。
であるにも関わらずこの長杖は白銀色。
当然これでは並の青銅製より耐久値が下であることは間違いない。
となれば、考えられる可能性は一つだけ。
「――初心者のスミスが錫の配分を間違えたのか。道理でこの値段で買えるわけだ」
「……一応補足しておくが、結構人気なんだぜ?
安価だし、見栄えはいいからな。初心者のメイジは結構な割合で買っていくしな」
「見栄えは良くても、脆いのはあまりいただけないが……是非もない。
これを貰おう。確か三〇〇ロスだったな」
「おう!毎度ありぃ!」
ウィンドウから三〇〇ロスを取り出し、クラウスに渡す。
始めは違和感しかなかった行動も、ここ数日で慣れたものだ。
「――三〇〇ロス丁度。お買い上げありがとうございました。ってな!」
「ああ、じゃあな。色々と世話になった」
「いいってことよ!又のお越しを!」
一応の目的を果たしたアレックスは店を出る為に階段へと足を向けた。
時刻は昼をとうに過ぎて、現在は七時半。現実では午前八時といったところ。
修業の合間にあらかじめ現実で飯を摂ってきたので、まだ時間には余裕がある。
「――役所で軽めの依頼でも探すか……」
そうと決まればまずは行動。幸いにも役所までは程近い。
アレックスは小走りで階段を駆け下りていった……。
◇◇◇◇
「――マラム草の採取依頼と……あとは生産職向けの依頼しかないな」
移動して、役所一階の掲示板前。
意気揚々と依頼を探していたアレックスだったが、
そこにあったのは以前受けた初心者用の依頼と今のアレックスでは受けられない生産職用の依頼だけだった。
「……碌なものが無い。というか皆無だな」
なんでも職員の話では朝早くに来なければ好きな依頼など受けられる訳がないそうで、
特に討伐系や配達系などの依頼は戦闘職が直ぐに持って行ってしまうのだとか。
「……仕方がない。ひとまず草原まで行ってネズミ狩りでもするか」
こうなればひたすら魔物を狩って、資金稼ぎでもしよう。
そう思ったアレックスは再び役所を後にしようと出口へと向かった。
だがその時――――
「――おお!アレックスじゃねぇか!」
「――アレックスさん、お久しぶりです!」
――――元気のいい、溌溂とした声が二つ。アレックスの耳に飛び込んできた。
振り返ると、そこには親友と、その弟子である少女が並んでこちらに近づいてくる。
能天気な声に嘆息した後、アレックスは役所の階段から来た二人に近づきながら口を開く。
「――テオにリリィか。相も変わらず騒がしいなお前らは」
「折角の日曜なんだ。テンション上げねぇと勿体ないだろ?」
「訳が分からん……しかしリリィは何故この時間に?
確か日本は今月曜の午後四時、だろう?学校とやらは良いのか?」
日本人の学生であろうリリィがこの時間にいるのは少し違和感がある。
その疑問を尋ねられた彼女は、苦笑いで答える。
「今日は学校も早帰りだったんですよ。それでさっきインしてきたのですが、
役所に行ったら師匠とばったり遭遇しまして……」
「これはいいや、と思って俺が連れてきたってわけさ!」
「……年下をあまり振り回さんようにな」
この様子ではどうせ聞かないだろうが、一応忠告したアレックスは、
上機嫌の親友を見ながらもう一度大きくため息をつく。
「――で?何か要件でもあるのか?
無いのならこのまま解散して草原にでも繰り出したいのだが」
関わる時間も惜しい。そう言わんばかりに要件を尋ねてきたアレックスに、
特に気にすることも無くテオが答える。
「――いやぁ。此処であったのも何かの縁だろ?いっそ三人で行かねぇか?」
三人。つまり自分とテオ、リリィの三人ということだろう。
「だが、私とお前たちではレベルが開きすぎているだろう?
それではお前たちに迷惑ではないのか?」
自分は初心者。しかし以前聞いたこともあるがテオやリリィは結構有名な部類のプレイヤーらしい。
足手まといになるのは御免だ。と渋面を浮かべるアレックスに、リリィが横から入ってくる。
「――そんなことはないですよ!それに、私達も草原に用があるんです!」
「用?」
「そうそう。草原でしか達成できない“ユニーククエスト”でな?」
“ユニーククエスト”?と疑問符を浮かべる様子を見たのか、リリィが説明を始める。
「“ユニーククエスト”というのは、特定の条件下のみで発生する一度きりのクエストを指します。
そこの掲示板で受けられる“フリークエスト”とは違って、このアエラの住民から直接受ける形で、
一度きりしか受けられませんがその分報酬が特殊になるケースが多いんですよ!」
「レア物の装備だったり、大きな額のロスだったりとまちまちだがな」
要は難易度は高いがその分リターンが大きい依頼ということか。
それを達成する為というならば仕方ない。どうせ此処で分かれても遭遇するかもしれないし。
そう考えたアレックスは大人しく彼らに同行することを決めた。
「……まあいいか。そういうことなら私も同行しよう」
「おう!……そうだ、ついでにお前も依頼受けて行けよ!
ユニークはフリーに比べて、貰える経験値が多いしな!」
「……私の様な初心者でも受けられる依頼なのか?」
「今回は討伐依頼ではなく採取依頼なのでレベルは関係ありませんし、大丈夫かと!」
「そうか。ならば折角だ。相伴に預かることにしよう」
「はい!」
――偶には騒がしいのも悪くないか。
傍らで笑顔を見せるテオとリリィを見て、そう思ったアレックスは微笑を浮かべた。
「――じゃあ、早速しゅっぱぁつ!」
テオの騒がしい声が響く中、久方ぶりの冒険へと出かけることとなったアレックス。
微笑を浮かべたまま意気揚々と歩いていくその姿は、間違いなく「冒険者」と呼べる姿であった……。
読了ありがとうございました。
因みにアレックスは役所内でも人形を抱えたままです。
周りの人も見慣れてるのか特に気にしてないんですよね……。