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Alex:2032  作者: 果糖
11/22

第十一話

今回も短めです。どうぞご覧ください。

 唯一の武器である長杖を折ってしまったアレックス。

 魔力も空の状態で、正直言って九割詰んでいる彼だったが、意外でもなんでもないことに全く動じる様子はなかった。


「簡単な話だ。魔物に遭遇しても……当たらなければいい」


 そう言ったアレックスは残った素材や杖の残骸をウインドウにしまい、四つん這いの体勢に入る。


「確かテオも前言っていたな…“当たらなければどうということはない”と」


 熱心なアニメオタクである友人の顔を思い出しつつ、アレックスはそのままの体制で進み始めた。

 周りで狩りをしていたプレイヤー達も急に四つん這いになつて進み始めたアレックスを見て、最初はインターフェイスの故障か何かかと思っていたが、彼が次第に加速するにつれてその考えが誤りであったことに気づく。


「…ハハ、ハハハッ、フゥハハハハハハハハァッ!!」


 アレックスの高笑いと共に速度はどんどんと上昇していき、ついには手足の動きが視認できなくなるほどまでになった。

 若干の起伏を乗り越えながらなおも加速し続けるその姿は……まさに“韋駄天”。


 雑草を踏み散らし、蹴られた草が宙を舞う。その速さに周囲の魔物たちはただただ立ち尽くすばかりであった。

 それはプレイヤー達も同じ。猛スピードでアレックスが去っていくのを呆然と見送っていた。



 ……アレックスの姿が見えなくなった後、一人のプレイヤーが唖然とした様子で呟いた。


「あ、あれが、ジャパニーズ“ニンジャ”……!」

「違うからな?」

「ゴキブリだろ?」

「ああ、あれは間違いなくゴキブリだ」


 混乱と誤解を周囲にまき散らしつつ、それでもゴキ…アレックスは走り続ける。まだ見ぬ明日へ向かって…!





 ◇◇◇◇





 その後、ゴキブリスタイルでスマート(西門の衛兵は軽く涙目だった)にテラ入りしたアレックスは、

 役所で依頼の清算を行っていた。


「依頼達成に当たって、証拠となる物品を提示してください」

「……証拠?すまない、今回が初の依頼達成なのだ」

「ああ、初心者の方でしたか。では達成条件に付いての説明を致しましょうか?」

「よろしく頼む」

「はい。今回の場合アレックス様は三つの依頼を受けましたので、それぞれ三種類の証拠品を提出する必要があります。

 今回は赤ネズミを一〇体討伐。回復薬の材料となる『マラム草』を一〇本納品。そしてN級魔石を一〇個納品という依頼でしたので、証拠品としてN級魔石を一〇個とマラム草一〇本の確認をさせて頂きます」


 受付嬢の言葉に従って、アレックスはウインドウから先程手に入れた魔石とマラム草を既定の数取り出した。

 そのまま証拠品をカウンターに置くと、受付嬢は証拠品を個別の麻袋に入れた後、後ろの扉から出てきた職員に手渡す。


「今職員が精査しておりますので、少々お待ちください」

「ああ……ところで、マラム草はいいとして、何故魔石だけなんだ?

 一応赤ネズミの素材もあったのだが」


 二つの納品依頼については特に疑問は無かった。そもそも証拠品がそのまま納品アイテムなのだから。

 だが討伐依頼に関して、魔石が証拠品になるのか甚だ疑問になっていた。


「アレックス様は魔物と魔石の関連性について知ってらっしゃいますか?」

「関連性……魔物が死んだ時に排出されることと、魔物の強さに応じて魔石の大きさが変わるくらい、か?」

「そうですね。ですが、その他に魔石の色も魔物の種類によって違ってくるのです」

「…色?」


 アレックスが頭の上に疑問符を浮かべていると、受付嬢は机の引き出しを開け、何かを二つ取り出した。


「…今からお見せするのはどちらもN級魔石ですが、両者の違いがお分かりですか?」


 そう言いながら受付嬢は二つの魔石をアレックスに見せてきた。

 二つの魔石を見た瞬間。アレックスは即座にその違いに気づく。それはあまりにも大きな違いであった。


「……そうか、魔物によって…色が全く違うのか」


 アレックスの眼前。二つの魔石は全く異なる色を見せていた。


 二つの魔石はそれぞれ朱色と紫色に染まっていて、

 形や大きさこそ全く同じだが、素人であるアレックスにも違いが分かるようになっていた。


「…朱色の魔石は赤ネズミか。もう片方は分からんが……」

「紫色の魔石は『プティーツィ』という鳥類型の魔物から出る物です。

 森の辺りに生息している魔物なので、見覚えが無いのはしょうがないかと」


 魔石の色は主に魔物の体色で決まることが多いらしく、

 突然変異でない限り、種族によってそれぞれ色が明確に分かれているのだとか。


「役所では魔物と同じく、それぞれの魔石の色を細かく分類して、見分けがつくようにしています。

 素材ではドロップのばらつきもあるので、これが一番確実な検査方法で……っと。ありがとうございます」


 詳しく話している途中、裏の扉から出てきた職員が何やら一枚の羊皮紙らしきものと、

 先程証拠品を持っていった袋とは違う、小袋を受付嬢に手渡す。

 あれに精査の結果が書いてあるのだろう。紙を受け取った受付嬢は少し申し訳なさそうにアレックスの方を向いた。


「…申し訳ありません。説明の途中なのですが、精査が終わりましたので作業に移らせていただきたいのですが…」

「いや。後は自分でも調べられるし、ここまでの説明も分かりやすいものだった。ありがとう」

「そう言っていただけると幸いです。……精査の結果、問題無しとなりましたので報酬の方をお支払いいたします」


 若干の喜色を浮かべ、受付嬢は小袋を木製のトレイに乗せてアレックスの目の前に置いた。


「ではこちらが今回の報酬となります。

 赤毛ネズミ討伐の報酬が一〇〇〇ロス。魔石及びマラム草納品の報酬が二つで一六〇〇ロス。

 計二六〇〇ロスになります。小袋にまとめておきましたので、どうぞご確認ください」


 アレックスはロスが入った小袋をウインドウに収納する。

 素材をしまった時とは違い、袋がウインドウに収納されると同時に収納しているアイテムが表示されているその上。

『0』と表示されていた部分が『2600』となっていることに気づいた。


「依頼達成。おめでとうございます!」

「…ああ、ありがとう」


 意外だ。アレックスは自身が感じていた達成感に驚いていた。

 現実なら職業学校の時代、課題の出来を講師に褒められたこともあるし、社会人として仕事をこなすことなど日常茶飯事だ。


 だがこれがゲームであることが分かっていても、

 この達成感は現実のそれに勝るとも劣らないだろうと、アレックスは感じていた。


読了ありがとうございました。

今回本編とは別に番外編も投稿していますので、もしよろしければご覧ください。

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