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第36章

 私は早速、大公家の荘園の把握と私兵増大に取り掛かることにした。

私には10日の間に考えた腹案があった。


 大公家の荘園を管理する在地の有力者達を大公家の私兵に変質させるのだ。

私が以前に調べた際に分かったことだが、荘園の開発を行ったのは在地の有力者であることが多い。

そして、彼らやその子孫はそのまま荘園で有力者としてにらみを利かせていることが多い。


 これまでは(帝室も含めて)大公家以下の荘園領主の荘園からの収入は、荘園のその年の豊作不作によって変わってきた。

だが、それを完全に確かめる術は無く、あくまでも荘園からの連絡に頼っていたというのが実情だ。

それを私は変える。


 荘園からは基本的に豊作であろうと不作であろうと一定の収入があるようにするのだ。

この場合、荘園の住人からは、基本的に不作を基準としてほしいという要望が強かった。

それで、荘園の領主からは豊作不作で変わる方がマシという考えでこれまでは基本的に行われてきた。


 不作を基準にしてもよい、その代り在地の有力者を荘園の管理人にして、彼らにその収入を保証させて必ず収めさせる。

できなければ、在地の有力者を荘園の管理人から追放して、大公家子飼いの下級貴族を荘園の新たな管理人にする。

それで、大公家の収入を安定化させるというのが大義名分だ。


 だが、実際は違う。

在地の有力者はこれにより、手元の収入が大幅に基本的に増大するはずだ。

なぜかというと、彼らは荘園からの収入を実際に領主に収めている身だったからだ。

これまで通り、領主に収めると言いつつ、自分の懐に公然と入れることが出来るのだ。

不作に備えて自らが保管するという主張もできる。


 だから、これは在地の有力者を大公家びいきに変質させる。

大公家が潰されて、旧来のやり方に戻されたら、自分達の収入が大幅に減ってしまうからだ。

人間一度覚えた旨みは、中々忘れられないものだ。

荘園を管理している在地の有力者を大公家の私兵にしてしまえば、実際に動かせる大公家の私兵は大幅に増える。


 だが、こういったことに私が励んだのはもう一つの理由があった。


「アンは相変わらずですか」

私はため息を吐いた。

「ええ、メアリは私が男の子を産むと分かっていたの。だから、密会を見過ごしたの、と言い張られて」

久しぶりに会ったソフィアは泣きそうな顔をしている。


 アンは完全に狂っているとは言えない。

ある程度、周囲の状況が分かり、それに合わせた行動がとれるからだ。

だが、かつてのアンを知っている私達にはとてもつらい。

表向きは正常なのに、自分をよく知る人間だけになると、そう言ってアンは泣き出すのだ。


 久々にアンに会った父も似たようなことを言っていた。

アンが妊娠している子が男の子だったら、アンは完全に壊れるのではないか。

男の子をアンが産んだら、アンは自分の妄想が真実だったと完全に思い込むだろうと。


 私は原作通りにアンが男の子のエドワードを産むのが良いことなのか、分からなくなった。

大公家の跡取りたる男の子をアンには本当は私は産んでほしい、でも、それがアンを完全に壊すことになるならば、私はそれを望めない。

血を分けた妹の心を完全に壊れさせることが起こることを私には望むことが出来ない。


 でも、時は容赦なく過ぎていき、アンの出産のときは迫ってくる。


 私は、その現実逃避のために大公家の荘園管理の仕事に励んでいた。

ヘンリーはある程度覚悟しつつあるらしい。

全てを受け入れる、もし、アンのような美女にすがられることが起きたなら、男として嬉しいものだ、とまで私の気を少しでも軽くしようと言ってくれた。

私は、せめてアンが完全には壊れませんようにと神に祈ることしかできなかった。


 そして、時が来てアンは出産した。

原作通り、男の子だった。

エドワードとその子はヘンリーに名付けられた。

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