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第29章

 私がチャールズと共にヘンリーとアンの結婚式が執り行われる帝都の大聖堂にたどり着いたのは、私がぐずぐずしていたため、参列者の中では一番遅かった。

自分で参列者が大聖堂に参列する時刻を決めていたのに、時刻にきちんと間に合ったとはいえ、自分が一番遅いという醜態を晒した。

私は自分に言い訳をした。

ちゃんと時刻には間に合った、他が皆、早すぎるのだ。


 父は異母兄弟の教皇トマスと歓談している。

新郎のヘンリーは、義姉になるチャールズの母と歓談していた。

新婦のアンは、新しく養女となるマーガレットと話をしているようだ。

私とチャールズはまずは新郎に挨拶しようとヘンリーの下に赴いた。


「このたびは本当におめでとうございます」

チャールズは一応はそつのない挨拶をした。

だが、表情がそれを裏切っている。

全く、と私は内心で呆れた。

もう少し表情を隠せないと政治家失格よ。


「いやいや」

ヘンリーは人の好い笑顔を浮かべている。

横にいるチャールズの母、先代大公妃は私の顔を見ると早速、言ってきた。


「チャールズの子をいつ見せてくれるの」

私は笑顔を浮かべて答えた。

「その内にお見せしますわ」

「その内ね。ある伯爵家からチャールズの第2夫人に私の次女をと打診があるのだけど。どう思う」

「お義母さま、私はまだ24歳ですわ。それにちゃんと子どもも産んでおります」

「そう言われればそうね」


 私はそれ以上は笑顔でのみ答えたが、内心でぼやいた。

この世界の出産プレッシャーは本当にきつい。

チャールズの愛人が子供を産んだことから、チャールズに問題はないと周囲は思っている。

大公家の男子が今は2人しかいない以上、仕方ないけど、将来的にはエドワードが産まれて成長するから、少なくとも1代は大公家は安泰なのだ。

私はそう声を大にして叫びたい気になった。


 だが、私の周囲はそうは思っていない。

私が2人続けて、流産、早産となったせいで、大公家断絶の危機が焦眉に迫ったと危機感に捕らわれている。

チャールズに第2夫人を迎えさせて、大公家を存続させようとする動きも少しずつ表面化しつつある。


 私は内心で思った。

アン、ちゃんと漫画通りにエドワードを産んでよ。

そうでないと断腸の思いでアンとチャールズの密会を見逃したのが無駄になる。


 それと共に思った。

原作のメアリが狂乱したのは、この出産プレッシャーもあるのだろう。

私の場合、エドワードが産まれるのが分かっていたから、まだ耐えられた。

更に言うと私は原作のエドワードが大好きだった。

だが、原作のメアリ通りに、エドワードが産まれることを私が知らなかったら、私はこのプレッシャーに耐えられた自信が無い。


 私はチャールズを促して、ヘンリー達の下を離れて、父と教皇トマスの下に赴いた。

「この度は、教皇猊下自ら結婚式を執り行っていただきありがとうございます」

チャールズが挨拶をする。

「この大聖堂で結婚式を挙げられるとは、あなたの義妹は果報者だ」

トマスは笑顔で答えた。


 私は思った。

確かにこの大聖堂で教皇猊下が結婚式を執り行ってくれるというのは、私の前世で言ったら、サン・ピエトロ大聖堂でローマ教皇自らが結婚式を執り行うのに匹敵する行為ではないだろうか。

アンが教皇の姪であり、大公家当主と結婚して大公妃となる大式典ということで、教皇猊下自身がこの大聖堂を結婚式場として使用することを認めてくれ、自ら結婚式を執り行ってくれることになったのだ。


 本当に外見上は素晴らしい結婚式だ。

私がそう思っていると、トマスはさらっとチャールズに言った。

「アンが叔母になるのはつらくないですかな」

「いいえ、そんなことは」

チャールズは言ったが、表情が急変している。

私も驚愕した。

 

 まさかトマスまでアンの不倫を知っているのでは。

「はは、これは失礼しました」

トマスは笑っている。

だが、私は胃に穴が開く思いがした。


 本当にどこまでトマスは知っているのだろう。

本当にトマスといい、ヘンリーといい、私が渡り合うのには荷が重い。

今のチャールズでは論外だ。


 結婚式前なのに異常に疲れてしまい、私はチャールズと2人で休んだ。

本当は新婦のアンにも挨拶に行くべきなのだが、どんな顔をして私は会えばいいのだ。

疲れていることを言い訳にして、私は会いに行かなかった。

チャールズも疲れたというか、やつれた表情をしている。


 本当に結婚式と披露宴の間、私とチャールズは耐えられるのだろうか。

私は心配になった。

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