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第27章

 チャールズがアンの後を追って(?)、休暇に出かけてから数日後に、まずアンが昼前に父の別荘から帰宅してきた。

その後、チャールズが夕方に帰宅してきた。

あくまでも2人は別々に行動していたと装いたいらしい。


 私はアンに付いては知らん顔をした。

向こうから絶縁されたのだ。

こちらは意地を張り過ぎだと言われるだろうが、いない者として私はアンを扱ってやる。


 一方、チャールズはやつれた顔で帰宅してきた。

私は慌ててチャールズに滋養があり消化の良い夕食を取らせて、侍女を指揮して、チャールズを寝室に運んで寝かせた。

私は何かチャールズの身に起こったのかと心配で、不寝番でチャールズに付き添うことにした。

深夜になり、私がうとうとしていると、チャールズが寝言を言った。

「アン、もう勘弁してくれ」


 私はチャールズの休暇の間に何がアンとチャールズの間に起こっていたのか、ピンと来た。

私がチャールズの身を心配して、不寝番で付き添っているのに、チャールズは何て夢を見ているのだ。


 私はかっとなった余り、チャールズの首を絞めたくなったが、最大限の自制心を発揮して、チャールズの左頬を張り倒すことで勘弁した。

さすがにどんなにやつれて疲れていてもそんなことをされては、チャールズと言えど目を覚ましてしまう。

頬をさすりながら、チャールズは寝ぼけ眼で起き上がり、私がベッドの横で魔王のような顔をして自分を睨みつけているのに気づいた。


 チャールズは寝ぼけていて、ぼーっとした状態で私に尋ねた。

「何があったの」

私は怒りを秘めた声で答えた。

「アン、もう勘弁してくれって、あなたは言ったのだけど、何が夢の中であったのか教えてくれる」

チャールズは真っ青な顔になって言った。

「いや、酷い夢を見たようだ」


 チャールズは寝具を引っ被って、私に自分の表情が分からないようにした。

私は不寝番をする気が一度に失せてしまい、自分も寝ることにした。

全くチャールズもアンも、私は怒りで中々寝付けなかった。


 ちなみに翌朝、チャールズは左頬を真っ赤に張らしたままで出勤した。

ジュリエット以下の侍女たちは、チャールズの左頬が真っ赤になっているのに気づいた。

だが、私が怒りを秘めた表情をしているので何がチャールズの身に起こったのか推察したらしく、気づかなかったふりをしてチャールズをやり過ごした。

私は夕方までチャールズへの怒りが収まらなかった。


 数日後、私はアンとヘンリーの結婚式前の最後の打ち合わせのために、ヘンリーの下へ赴いた。

ヘンリーの下に赴く直前に私は心の中で悪女の仮面を自分に被せた。

そうしないとヘンリーに対してどうも気後れしてしまう。

原作と違い、ヘンリーは単なる人の好い小父様ではない。

帝国大宰相にして大公家当主、清濁併せ呑める存在だ。


 幾つかヘンリーと私がやり取りをした後、ヘンリーはさらっと言った。

「アンが私に托卵行為を働いたようですが、気づいていますか」

托卵行為、それは夫以外の男性の子を妻が孕む行為の隠語だ。

やはり、ヘンリーは、アンとチャールズの密会を把握していた。


 私は心の動揺を押し隠して答えた。

「アンが傷物なのは言ったはずです」

「はは、確かにそう言われましたな」

ヘンリーは笑いながら続けた。

「あなたは気づいて見過ごしたのですか」


「余り2人を追い詰めては寝覚めが悪いので。2人を死なせるわけには行きません」

「酷い話だ」

ヘンリーは首を横に振った。


「夫と妹を死なせずに生き地獄に追い落とすとは。もし、この話が公表されたら、帝国史上きっての悪女としてあなたは語り継がれそうですな」

「称賛と受け取ります」

私は悪女の仮面を被ったまま答えた。

全くエドワードの件が無ければ、私は絶対に阻止に動いていたのだが。


「いいでしょう。アンが産むのは大公家の一族なのは間違いない」

ヘンリーは鷹揚に答えた。

だが、ヘンリーの本心はどうなのだろう。

私にはどうにも読めなかった。

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