第25章
ヘンリーの下を辞去して、馬車で帰宅したところ、アンの乳母ソフィアが私を訪ねてきた。
私が会うと、ソフィアはアンが私の父の別荘に行くのを許可してほしいと頼んできた。
「別にアンが勝手に行けばいいじゃない」
私はそっけない態度を取った。
何で絶縁宣言を受けた側の私に、アンが父の別荘を訪ねる許可を取りに来るのだ。
それにはっきり言って、ヘンリーとのやり取りで私は疲れている。
父の別荘くらい、アンが勝手に行けばいいではないか。
「いえ、警備に当たる騎士の方々がメアリ様の許可がないとアン様の外出を許可できないと言われるので」
「そういえば、そういった指示を出していたわね」
私は慌ただしさに取り紛れて自分が出した指示をすっかり忘れていた。
アンが荒んできたので、アンの警備を厳重にするように、警備に当たっている騎士達に自分は指示を出していたのだ。
そして、私は前世の漫画の中の一節を更に思い出した。
確か父の別荘への行き帰りの際に、アンは。
「一晩、考えさせてくれる」
「分かりました」
私は一旦、ソフィアを追い払った。
さて、どうしよう。
私は考え込んだ。
妻としての立場をとるべきか、大公家の一員としての立場をとるべきか。
妻としての立場をとるならば、アンの外出の際にジュリエットから信頼のおける騎士を数名出してもらうべきだ。
だが、大公家の一員の立場をとるのなら、放っておくのが相当だ。
待てよ、チャールズはどうするつもりなのだ。
「チャールズ、宰相の仕事は忙しいの?」
私はそれとなくチャールズに尋ねた。
「ああ、忙しくて失敗をしてしまって、ヘンリーからも休養するように言われてしまった。ちょっと数日、帝都の外でのんびりして頭を冷やしてきたいけど、ダメかな」
チャールズは私に尋ね返してきた。
私がそれとなく観察すると、チャールズの目が泳いでいる。
全くチャールズとアンの2人は、私は腹が立ってくるのを覚えたが、表向きは可愛い妻の振りに徹することにした。
「それは大変ね。しばらく休んだ方がいいわ」
私はチャールズに表向きは賛成した後、それとなく付け加えた。
「ちょっとアンの結婚式の準備に忙しくて、疲れちゃったの。今夜は1人で寝ていいかしら?」
「いいよ。ゆっくり休んで」
チャールズはすぐに賛成した。
私は内心でため息を吐いた。
全く2人共、どうしようもない。
私の苦労の半分でも負担しろ。
私は一晩、まんじりともせずに考えて夜明かしした。
どう考えても原作通り、アンとチャールズは密会するつもりだ。
結婚式が終わったら、2人は絶対に逢えなくなる。
それに今なら、アンが万が一妊娠しても、ヘンリーの子だと偽ることが出来る。
何しろ気が付けば、ヘンリーとアンの結婚式まで1月を切っている。
妻としての立場をとるなら、絶対にアンとチャールズの密会を阻止すべきだ。
だが、大公家の人間としての立場をとるなら見過ごさざるを得ない。
原作通りなら、この密会によって運命の子、エドワードが産まれるのだから。
エドワードが産まれないと大公家が断絶の危機に見舞われる。
私に健康な子が産めるならば、と自分の身体を恨めしくさえ思った。
私は一晩、悶々として考え込んでしまった。
「ソフィア、アンが父の別荘に行くのを許可するわ。護衛の騎士を付けた方がいい?」
「いえ、大丈夫です。アン様が気を遣わないように古参の者だけで行きます」
ソフィアはほっとしたように私の返答を受けて退出していく。
これはどう見ても、アンとチャールズの密会は確定的だ。
「よろしいのですか」
ジュリエットが私に尋ねてきた。
ジュリエットは、アンとチャールズの秘密の関係をいつの間にか察しているようだが、侍女の務めとして沈黙を保っている。
「いいのよ。アンが結婚前に羽を伸ばせる最後の機会だから」
私は思わず鬼女の笑みを浮かべてしまい、ジュリエットにドン引きされた。
そう、これが2人きりで2人が会う最後だ。
もう2度とチャールズとアンを2人きりでは逢わせてやるものか。
私は堅く決意した。




