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 薄暗い洞窟の中を、閃光と轟音が満たす。

 時折熱風が渦を巻き、歪みのような何かがそれを上から押しつぶす。


 炎とともに打ち出される拳を阻むように展開された不可視の壁が、轟音と爆炎によって吹き散らされていく。

 不可視の弾丸が炎に襲いかかるが、消滅させられた次の瞬間には元に戻っている。そんな打ち合いが何回も、何十回も繰り広げられてまだ終わらない。


「こんなことになるなら、あの時殺しておけばよかったかな?」

「……お前にとってはそうかもな」


 幾度もの攻防を経て、ぼろぼろになった洞窟内部を黒煙と魔力が舐め尽くす。


「ふふ。でも、今からでも遅くはないと思わないかい?」

「何を言っーー!?」


 話のさなか、ネロの存在感が一気に膨れ上がった。爆発的に膨張したそれはネロを中心とし、レオンを包み、ミラたちの前で停止した。そこで、これがただの存在感などではないことに気付く。

 正面を向くと、勝利を確信したような余裕さで唇の端をつり上げるネロの姿があった。


 逃げる事は、出来そうも無い。ならば、全力をもってして叩き潰す。そう決意してありったけの魔力を集めようとしたときだった。その声が聞こえたのは。




 時は少々巻き戻り、レオンとネロが打ち合っている頃。

 二人の少女が、企みを実行せんと動いていた。


「ミラ、魔力増幅系の魔法作れるか?」

「……お安い御用」


 そう言って、落ちていた石ころを一つ拾う。作り出すのは言われた通りの魔力増幅系。注ぎ込まれた魔力を十倍にして放出するタイプ。規格外の高威力すぎて普通の魔法使いでは手の出せないようなそれを、アインは片手で無造作に受け取った。


「さて、それじゃあいつの企み、成就するまえに潰してやりますか」


 憔悴した顔に獰猛な笑みを張り付けて、アインは石ころに魔力を込めた。



「レオン、炎消せっ!」


 絞り出すような叫び声。振り向かなくても分かる。

 全方位から迫る圧力を前に、レオンは最後の力を手放した。


「う、そだ……」


 ネロが呆然とした声を上げる。レオンを押しつぶすために絞り出した最後の力。それが、目の前で、異なる魔力に押し流されていく。ネロの魔力をも食らい尽くした圧倒的な力がネロに襲いかかる。


「うそ、だぁぁぁぁぁぁ!!!」


 絶叫を上げながらも、ネロの体は宙に舞っていた。



 静けさを取り戻した洞窟内。魔力の濁流は洞窟の壁をぶち破ってさらにその奥まで抉っていた。

 二つの足音が近づいてくるのに気付いて振り向く。


「なんか、いいとこ取りされちゃったな」

「お、お前が不甲斐ないからだ」


 まさかこれほど威力が出るとは思っていなかったのか、気まずげに目をそらすアイン。

 すると、苦笑いするレオンの体をミラがぺたぺたと触り始める。


「い、いたっ!? ちょっ、まっ、がっ!?」


 所々触られるたびに痛みに声を上げるレオン。気が済むまで触診(?)したミラはうむ、と頷くと、


「……シルクに診てもらおう」

「魔力切れか」

「……そうとも言う」


 目をそらしながら答えるミラの頭を軽く撫でる。


「帰ろうか、みんなの所に」

「そうだな」

「……うん」




 よろよろと歩くレオンを、二人が両脇から支えて洞窟を出る。外はもう夕方だった。周囲は赤く照らされて、三人の後ろに一つながりの影が伸びる。


「みんなー!!」

「ん? あれはシルクか?」


 アインが目を細めて言う。見ると、確かにシルクがいた。おばさんもいる。宙に浮くボードに乗ってかなりの速度で近づいてくる。


「え? 何あれ? 来るときもあれ使えばよかったんじゃね……?」

「あれはラインおばさんの魔法だ。魔具じゃない」

「あ、そう……」


 おばさんの魔法がどんなものなのか気になるレオンだった。



「大丈夫!?」


 ボロボロのレオンたちを見るなりボードから飛び降りて駆け寄る。そのさい転びそうになったのは秘密だ。


「みんなこんなに怪我して! 範囲回復エリアヒール!」


 みるみるうちに怪我が治り、体が軽くなる。……レオン以外の。


「あれ? 俺の怪我は無視?」

「ん? なぁんだ、レオンくんいたんだー。お腹が痛くて・・・・・・気がつかなかったよー」

「うっ……」

 

 やけに一部分を強調した言い方にレオンがたじろぐ。後ろでアインが「自業自得だな」と呟いていた。


「とりあえず、帰ったらいーっぱいお話しようね?」

「あ、あはは……」


 苦笑いしかでないレオンだった。




 みんなでボードに乗ってサイラムに帰る道すがら、ラインがいい事を思いついたような表情で口を開いた。


「ねぇ、あなたたちでギルド開く気はない?」

「……ギルド?」

「いきなりどうしたのおばあさま?」


 首を傾げる四人に、ラインは微笑みながら説明する。


「だって、町の人からの依頼をあなたたちが全部引き受けてくれたら、私の時間が増えるじゃない?」

「そんな理由!?」

「それに、私はそろそろ隠居しようかと思って、ね?」


 すこし寂しそうにそう言うライン。その表情を前にして、全員が押し黙ってしまう。


「というわけで、町の事を任せられるようになるまで、びしばししごいていきますからね! 覚悟しなさい!」


 その言葉に四人は顔を見合わせる。お互いの表情を見て、頷き合う。


「「「「お願いします!!!」」」」


 この日、所属四人の小さなちいさな、ギルドが誕生した。











 レオンたちが洞窟を後にしてからいくらか経った頃、洞窟の奥でもぞりと動く陰があった。陰はあたりを見回すと、誰もいないことを確認する。


「まったく、ひどい目にあったね」


 もはや生きていると言っていいのかわからない程に存在の希薄になったそれは、おもむろに周囲の瓦礫をかき分けていく。


「……あった」


 転がされた巨漢の死体を見下ろす。右腕は肘から先が無く、左手も瓦礫に押しつぶされて形を保っていない。だが、むしろそちらの方がいい。よけいな手間が省ける。


「それじゃあ、いただきます・・・・・・


 そうして、薄暗い光の中で陰は消滅した。

 短かったですが、最後までお読みいただきありがとうございました。


 後日談など読みたいという方がいらっしゃれば書きたいと思います。

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