2. 四天王ヴィナージ
「魔王様直属部隊、四天王が一人 ヴィナージと申します」
「出たな四天王!!俺たちはお前を倒してこの先に進む!!」
蘇りの森で勇者一行を待ち構えていたヴィナージは礼儀正しく一礼する。
彼らを見ていて一つ気になることが頭をよぎりヴィナージは手を顎に添え首を傾げた。
――三人?
「聞いていた人数と違いますね。あと一人はどこかでお亡くなりに?」
ヴィナージの問いかけに勇者一行は痛いところを突かれたような顔をした。
聖剣を持つ勇者、弓を持つエルフ、鎧を纏う騎士、そして聖石の杖を持つ女。以上の四名の情報は得ていた。
しかし今ヴィナージの前にいるのは勇者にエルフ、騎士だけだ。
「くたばっているのは確かだけど……!」
苦い顔をしながらエルフが小声で呟くもヴィナージの耳にはしっかりと届いた。
「もう一人は隠し玉だ!!次の戦に備えさせてもらってるんだ!お前の相手は俺たち三人で十分だからな!」
それは勇者の苦し紛れの言い訳であった。
彼らの反応からしてどうやら最後の仲間は現在戦える状態ではないということがヴィナージには理解できた。
これは魔王軍にとって都合が良い。未だに能力の情報を得られていない唯一の人物の不在。
一つの懸念が消されたことで勝算も高まった。
「ずいぶんと余裕なセリフですね」
「二人とも!援護は任せた!!」
不敵に笑うヴィナージは黒く細い杖を軽く振るう。
地鳴りが響き、ヴィナージの殺気が黒いオーラとなって勇者たちを包み込んだ。
勇者たちは死を覚悟で四天王、ヴィナージとの戦いに挑む。
そして――
彼らの死闘は三日三晩続いた。
お互いに深い傷を負っても尚戦い続けている。
杖を折られたヴィナージは黒い竜の鱗で武装し、鋭い爪で勇者一行と戦っている。
「この四天王強すぎる!!今日こそ決着をつけるぞ!!」
「ええ!!」「ああ!!」
勇者の威勢に負けじと後ろで構えるエルフと騎士が声を張る。
しかし三人は揃って後ろを振り向いた。
「「「………」」」
――まただ。
妙だと思いながらヴィナージは眉を顰める。
勇者一行の様子がおかしいのだ。
三日目の今日は特に周りを気にしている。
「敵を前によそ見とは。ずいぶんと余裕がありますね」
「ぐうっ!!」
不意を突いて仕掛けたヴィナージの攻撃は勇者の鳩尾を抉る。
だが勇者は上手く急所を避けるように動きヴィナージから距離をとった。
ヴィナージは手に付いた勇者の血を振り払う。
「勇者!!」
「やはりこのまま三人で戦うのは限界がある!一時撤退してあの方と合流しよう!」
――あの方?
勇者一行はもう一人いる。騎士が言うあの方とはその人物であろうか。
その一人は後程見つけて殺せばいい。
今勇者たちを追い込んでいるこのチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。
ヴィナージは騎士の一瞬の隙をみてその懐に向かって飛び出した。
「ぐああああ!!」
「あと二人」
騎士の腹を貫通した腕を抜き取り、今度は近くに立っているエルフに長く大きな爪で抉りかかろうとするもヴィナージの攻撃は勇者によって躱された。
「お見事ですね」
「うおおおおおおお!!!!」
勇者は聖剣を大きく振りかぶりそれを地面に突き刺した。
瞬く間に黄金に輝き出した地面を見てヴィナージはできるだけ遠くに身を引いたが間に合わなかった。
聖なる輝きはヴィナージを包み込んだ。
「逃げたか……ぐふっ!」
光が収まったとき、ヴィナージの前に勇者一行の姿はなかった。
ヴィナージが纏う竜の鱗はぼろぼろと剥がれ落ち、口から大量の血を噴出した。
勇者はまた挑んで来るだろう。
聖神力をこの身で受け続けていたヴィナージは自身の魔力がかなり弱まっていることを感じていた。
勇者が再び攻めてくる前に自身も負傷した身体を回復する必要があるため、ヴィナージは踵を返して目的の場所へ足を進めた。
――勇者があれほどの実力者だったとは
確かに勇者は手強い。四天王を二人も消し去っただけはある。
最後の切り札とも言えよう聖神力を放出させるあの業、あれを最初に出されていたら間違いなく自分は死んでいただろう。
だがそうしなかったということは発動には何らかの代償が必要だったか、もしくは発動後には戦力を失ってしまうのか。
三日間の戦闘を振り返っていると何かを感じたヴィナージは歩みを止めた。
――この魔力量は
ただ者ではない。その気配が自分の目指す場所に居るのだ。
ヴィナージは気配を消して再び歩みを進めた。
そして先祖代々守り続けてきた”癒しの湖”にたどり着いた。
ヴィナージは警戒しながら辺りを見回す。そして視界に入った物体を凝視した。
――これは一体…
ヴィナージでさえ理解できない光景が彼の目の前にあった。
うつ伏せで倒れている人間。首から上が水の中に浸かっていた。
かなりの魔力を宿しているのを感じ取れるので死んでないのは確かだがピクリとも動かない。
――あの杖は…!
ヴィナージは倒れている人間の傍に落ちている杖に注目した。
金色の石がはめ込まれた杖を見て確信する。同時にこの人間の魔力量にも納得した。
”聖石の杖を持つ女”間違いなくこの人間は勇者一行の一人だ。
現在ヴィナージは負傷している身。下手に動くよりもまず相手を伺うことにした。
しばらく人間を見ているとブクブクと気泡が盛り上がり、ざばんと勢いよく水の中から頭が出てきた。
銀色に輝く長い髪から水が滴り流れ、口から出ている水を手の甲で拭う。
碧い瞳が揺れる水をじっと見ている。瞳から頬をつたう水滴がまるで泣いているようにも見える。
頭から流れる水滴が光を浴び反射して輝いている。
もし本当に湖の精がいるのならばこのような絵面なのだろう。
ヴィナージの心臓がドクンと大きく跳ねた。
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次回6月27日21:00掲載予定!
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