死にたがりのユラ
ユラは、深く眠っているのか全く起きない。カリオスは、疲れた様子でユラの寝顔を見つめる。
「竜王、弱ってるユラに強すぎる魔法は禁止だ。」
「すっ、すまない。それにしても、起きないな?」
ユラは、小さく呻くと目を覚ます。そして、誰に膝枕をされているか気付いて慌てて座る。
「主神様!?えっ?えっ?えっと、何で此処に?」
「お前が、自分の命を大切にしないからカリオスに協力を求めに来た。正直、俺はお前を死なせるつもりはない。お前は、俺の子でもあるからな。」
すると、ユラは苦笑してから真剣に言う。
「人の身で、軽く1000年も生きてるだよ?僕だって、かなり辛いしそれでもなの?」
「そうだ。確かに、お前の意思関係なしに転生させたのはあの馬鹿トカゲ神のせいだ。けどな、お前は既に神々が存在を認めてるし俺と馬鹿トカゲ神の子だ。親より、先に死ぬなんて許せる訳がない。」
ユラは、悲しげに目を伏せる。前世では、親を置き去りにして先に死んだのだから心に刺さったのだ。
「それに、お前を大切に思うのは我らだけでは無いぞ。カリオスも、お前を死なせたく無い。」
竜王は、ユラを優しく見ながら言う。
「ユラ、話は聞かせて貰ったよ。」
カリオスは、真剣にユラを見る。ユラは、悲しげに笑うと疲れたよう小さく呟く。
「怖いんだ。とても、何もかもが。」
「………ユラ、その気持ちは分かる。けど……」
主神は、言葉につまってしまう。
ユラは、この世界に来てやっと1年がたつ。だが、ユラはこの世界の事を余りに知らなさすぎる。知識は、確かにあるが見て感じて体験する事がなかったのだ。主神は、それに気が付いて青ざめた。
怖いのは、当たり前の話しで明らかに此方の落ち度でもある。ユラは、この世界ではまだ13歳で子供なのだ。それに、ユラには保護者がいない。カリオスは、お城から出てこないし竜王も忙しい。
基本は、ユラは一人なのである。さぞかし、心細かっただろう。頼れる人も、近くに居ないし命が軽い環境なので気を抜ける事もない。主神は、ユラが死のうと思うのも頷けてしまった。
だが、認める訳にはいかない………。
「主神様。僕は、疲れたんだ。いまだに、この世界の事を何も知らない。全てが、怖くて気が抜けないし心を保つために笑顔を張り付ける事も嫌になったんだ。それでも、貴方は僕を人生を縛るの?」
ユラは、無表情に主神を見る。
「……そうだな、せっかく転生した命だ。だから、出来れば自由に生かせたかった。でも、お前が本当の意味で自由になれた事は1度もない。そこは、俺達の落ち度でもある。けど、諦めないでくれ。」
ユラは、苦笑するとため息を吐き出して言う。
「全く、話しにならない。」
カリオスは、困った表情でユラを見ている。
「頭が、何か混乱してきた。」
「カリオス、深く考えない方が良いよ?人間、死ぬ時はあっさり死んじゃうんだしさ。さて、話は以上ですよね?なら、この話はここまで。」
ユラは、冷たくなった紅茶を飲む。すると、クルトが静かな口調でユラに言う。
「あのさ、ユラは僕達を置いて死ぬの?僕達は、やっとユラと仲良くなれると思ってたのに。」
ユラは、答えない。苦笑して、再び紅茶を飲む。
そもそも、此処にいるのは貴族の子供なのだ。学園でも、声は掛けづらく必要最低限の会話しかした事がない。それに、彼らは公欠(※公認欠席)で学園を良く休んでいたので余り話した事もない。
彼らが、ユラに好意を持ってたのは知っていた。けれど、親友に殺された過去を持つユラは冷静に内心は1線引いた場所からでしか彼らを見れなかった。
周りは、ユラを優しくて笑顔が素敵な多才優等生だと思っている。だが、ユラは自分の事を醒めていて可愛いげのない冷たい奴だと自覚していた。
なので、苦笑するしかなかった。
「皆は、知らないだろうけどさ。僕って、冷たく奴なんだよ?だって、本音を言えば君らを友達として認識した事がない。どこか、距離を置いていたし。それに、君らを知り合いとしか感じてない。」
彼らが、傷つくのは理解している。けど、自分は善人では無いことは教えていた方が良いと思った。
「別に、それで充分だぜ。でも、出来れば友達になりたいと俺らは思ってる。これでも、俺らは諦めが悪いからな。今から、言っておくぜ。」
オズは、ニコッと笑うとユラにハッキリ言う。
「君らは、本当に変わり者だね。こんな、特殊な性格な僕を友達にしたいだなんて。相当、おかしいと思うよ?でも、後2年はよろしくね。」
すると、全員が黙ってしまった。
「いっそう、お城に閉じ込めて諦めるまで説得すべきかな?ねぇ、カリオスはどう思う?」
ユリスは、ニコッと笑ってカリオスにふる。
「そうだね、でもユラを押さえられないでしょ?」
すると、主神が暢気に発言する。
「俺なら、一時的なら力を封じれるぞ!」
「それなら、ユラ様専用のお部屋の準備を。」
ベイルも、ノリノリで参加している。ユラは、そんな大人達を見て青ざめている。
「まさか、監禁ルートに話が進むなんて。」
「でも、少しだけ良いと思えた。」
クルトとオズが、そう言ってユラを見る。
「でも、城には僕を殺したい人がたくさん居る。だから、もしかしたら意外と短期で死ぬかもね。」
そう言って、小さく欠伸をする。
「ユラ、少しお仕置きが必要かな?」
「え?あっ、口か滑った。」
ユラは、笑って誤魔化す。
「ユラの説得は、取り敢えず後回しだね。」
「さて、俺も帰る。ユラ、また来るからな。」
真剣に、そう言うと主神は姿を消した。
「今までの様に、放って置けば良いのに。何で、今更なのさ。今まで、ずっと放置だったくせに。」
ため息をついて、小さく愚痴を漏らす。
「ユラ、お菓子を食べて機嫌を直して?」
「わーい、お菓子だぁー。って、なる訳ないでしょうが!確かに、お菓子は美味しそうだけどさ。」
ノリツッコミを、暢気に返して苦笑する。
「でも、何でユラは僕らを助けるの?」
「へ?ただ単に、放って置けないからだよ。」
カリオスは、それを聞いて思わず笑う。
「うん、やっぱりユラは冷たくないよ。」
ユラは、気づいているだろうか?自分で、冷たいと良いながら優しい事をしている矛盾を。他人が、困ってると放って置けないと言う自分の優しさを。周りも、気付いたらしく僕も含め優しく笑った。
ユラは、自分の事を大切にしない。
それは、ユラが今まで自己犠牲の環境で生きていたからだ。なら、僕らはどうすべきか?カリオスは、笑みを消して真剣に悩むのだった。
ユラは、キョトンとしていた。
暫くして、全員で夕食会場に移動するのだった。




