困り事……
今日は、学園が休みの日だ。何だろう、目を開きたく無い。体が、凄く怠くて辛い………。
『……ユラ、無理に起きようとするな。』
でも、起きないと………
竜王は、人化して影から出てくる。そして、冷たい水を絞ったタオルをユラの目を隠すように置く。
「やはり、そろそろ来るかと思っていた。」
「えっと、どう言う事なの?」
ユラは、戸惑うように言う。すると、青年が苦笑しながら入って来る。竜王は、紳士な一礼をする。
「お前が、無茶するから神眼酷使の副作用だよ。」
「あの、失礼ですが。何で、主神様が此処へ?」
すると、主神はため息を吐き出す。
「そうだな、その前に起き上がれるか?」
「はい、何とか……」
主神は、メガネをユラに渡す。
「それは、神眼の力を封印するものだ。」
「なるほど、ありがとうございます。」
メガネを掛けて、主神を見る。主神は、真剣な表情で壁に寄り掛かりユラを見る。ユラは、キョトンとして主神の言葉を待つ。
「まずは、神聖賢者の勤めを良く果たした。これで竜神を、殺さずに済むしありがとう。」
竜王は、ホッとしてユラに笑いかける。
「ユラ、ありがとう……。」
「どういたしまして。」
主神は、苦笑してから言う。
「言い訳だが。俺だって、罪の無いお前にあんな危険な仕事をさせたかった訳じゃない。だが俺は、主神だからな。勝手は出来ないし、建前が無いと竜神を救えなかったんだ。さて、本題に入るぞ。」
「ん?本題、ですか?」
まだ、何かあるの?とばかりに主神を見るユラ。
「その神眼の、副作用だけど………。目が、痛くなったりしたら竜神にでも言ってくれ。まぁ、お前が人間をやめるのならすぐにでも助けられるんだが。」
「いっ、嫌ですからね!?」
思わず、顔を青ざめ身構えて言う。
「それか、異世界にお前が帰るか………だな。」
「へ?ですが、僕は異世界では死んだ事に………」
「お前の死を、無かった事にも出来るぞ?」
ユラは、驚いて固まる。主神は、優しく笑う。
「………考えさせてください。」
「わかった。それじゃ、俺は仕事に戻るよ。それとなんだが、カタム帝国にお前の知り合いが召喚されたんだけど。帰るなら、出来ればそいつらと帰ってほしいかな。二度手間は、凄く疲れるからな。」
ユラは、ゆっくり頷くと無言で外を見る。
「竜王。もし、ユラが帰ると言ったら止めるな。」
「………わかった。さて、私も影に戻ろう。」
主神は、竜王に言い竜王は頷く。二人は、姿を消してしまう。ユラは、メガネを外して机に置く。
「おーい、おはよう。起きてるか?」
オズが、心配そうにドアの前で言う。竜王は、影から出て部屋を開ける。オズは、驚いてから入る。
「おはよう、どうかしたの?」
「それは、俺の台詞だよ。ユラ、顔色が悪いぞ。」
ユラは、苦笑してから言う。
「大丈夫、少し体調が悪いだけだよ。」
ユラが躊躇いがちに、体調が悪いと言った瞬間にオズは心配そうな表情をする。ユラは、慌てて言う。
「大丈夫だよ。明日には、治ってるだろうし。」
「お前な、自分の脆さを分かってんのか?人間は俺達、言わば長命種族より脆くて壊れやすい。」
「うっ……、分かってるよ。」
ユラは、苦々しく呟くと目を逸らす。
「はぁ……、取り敢えず絶対安静だからな。竜王、ユラから目を放すと何かと無茶をするから。」
「分かった、ちゃんと見ておこう。」
「この事は、カリオス様にも言っておくから。」
「ストップ!なっ、何でカリオスに?」
ユラは、オドオドしながら言う。
「だって、この国ではカリオス様がお前の後ろ楯だろ?つまりは、親も同然だしな。」
オズは、ユラがカリオスに迷惑をかけたくない事を知っていた。だけど、ユラに何かあれば保証は出来ないのだから仕方ない。ユラは、少しため息を吐き出してベッドに横になる。オズは、部屋から去る。
知り合いが、この世界に来ているか……。
もしや、あいつも居るんだろうか?
殺された、あの日の記憶を思い出しながら。心が、思い出すのを拒絶する。
あの日、僕を殺した大沢 圭吾。
「……知りたいか?」
「知りたい……。」
布団の中で、小さく呟く。
「調べたら、召喚されたのは男女7名だ。そして、ユラの前世を奪った男も中に居るらしい。」
「そっか、ありがとう。」
そっか、あいつは居るのか。暫く、カタム帝国には行かないようにしないとな。うん、そうしよう。
「ユラ?ユラ!」
クルトの声で、ハッとして起き上がり苦笑する。
「……ごめん、考え事をしていたんだ。」
「私達に、気付かないほどか?」
ルピア王子は、心配そうにユラを見ている。ユラはそこで、一瞬だけ固まって周りを見る。
ユリスは、壁に寄り掛かっている。ベイルは、椅子に座っており他もそれぞれいる。そして、ユラはどれだけ自分が深く考え事をしていたのかに気付く。
「明日は、学園を休んだ方が良いかも。」
「うん、そうするよ。」
ユラは、カリオスにそう答えると苦笑する。
「心が、とても不安定で……苦しい?辛い?そして、心が泣いてる。ユラ、何があったの?」
クルトは、魔法でユラの感情を感じ取る。ユラは、少し驚き心を読めないようにする。しかし、クルトが言った言葉が消える事は無いわけで……。
「ユラ………。」
カリオスは、真剣に嘘は許さないと名前を呼ぶ。
「すみません、今は僕も混乱してていろいろと呑み込めなくて。それと、体調が悪いのは偶然です。」
ユラは、思わず苦笑しながら言う。カリオスは、これ以上は無理矢理に聞くのは酷だと感じる。
「分かった。」
「それより、皆さん忙しいのでは?なんか、僕の為にすみません。こっちは、大丈夫なので。」
全員が、思った。絶対、大丈夫じゃない!っと。
「さてさて、シアンはどう思う。」
「心の傷は、俺では治せない。」
「そう言うのは、大抵だが時間が解決する。」
「ええ、だから尚更に質が悪い。」
4人は、カリオスを見る。
「心の傷か……。」
カリオスは、1つだけ心当たりがあった。だが、ユラを殺した人間は異世界人なのだから………。そう考えて、最近だがカタム帝国で異世界人が召喚されたのを思い出す。そして、思わずユラを見てしまう。
「ユラ、間違ってたらごめん。もしかして、彼が召喚された異世界人の中に居たの?」
「………っ!?」
「そうなんだね?」
ユラは、隠していた辛そうな表情で声もなく頷く。
「うーん、そうなると困った。」
カリオスは、苦々しくユラを見る。
「何カ月後だけど。実は、彼らを預かる事になってね。君を殺した、そいつが城に留まる事になる。」
その言葉に、全員が驚きユラは青ざめるのだった。




