役目
皆が、此方を見る。ユラは、暢気に笑う。
「どうせ、戦争が避けられないなら利用してやれば良いんです。クルト王子が、戦死した事にすれば良いだけの話ですよ。目撃者も、多くてなおかつ誤魔化しやすい。カリオスなら、それくらい容易いでしょ?君は、幻影魔法を使えるし。」
「簡単に、言ってくれるね。」
ユラは、にこっと笑うと外を見る。
「けど、それだと吸血鬼の国は?」
「大丈夫です。僕が、伝えとくので。」
戦争は、激しくクルト王子の戦死の作戦もあっさり成功してしまった。だが、予想外な事が起こった。
カリオスが、兵士に紛れた異世界人の攻撃を受けて負傷。シアンが、着いたときには呪いで昏睡していたのだ。しかも、強力な呪いで解呪は難しい。
それを聞いて、ユラはカリオスが眠る部屋を訪れていた。カリオスの記憶から、異世界人は召喚されて暫くたっており真名を教えてしまっている事が分かった。うーん、面倒だな……。
さて、そろそろ起こして行くかな。
「起きて、カリオス!寝坊だよ!」
すると、パキンッと音をたてて何かが壊れる。
「むぅ……。えっ、ユラ?」
ガバッと、勢いよく起き上がり此方を見る。うん、おはよう。さて、もう1つのお仕事に行くかな。
「皆が、心配してるよ。早く、皆のもとへ帰ってやりなよ。それと、僕は仕事の都合で戦場に出る事にしたよ。だけど、僕が戦うのは異世界人だけ。」
すると、カリオスは驚いてから暫く考える。
「けど、異世界人が一人とは限らないよ?確か、神聖国アダマスは勇者召喚をする国で有名だし。」
「大丈夫、奴らは神の誓いを破った大罪人達だ。結構、面倒なんだけどね。何とかするよ……。」
苦笑して、伸びをして部屋から出ていく。
「さて、僕も動かないとな。」
「そうだな、動いてくれると嬉しい。」
苦笑して、レオが入って来る。
ユラは、王城を出ながらポツリと呟く。
「そろそろ、距離を置かないとな……。」
「それは、賢者としてですか?」
ハッとして、振り向くとベイルが居る。
「ベイルさん。」
「見ていれば、随分と悩まれているようでしたので。それで、何から距離を置かれるのですか?私で良ければ、お話をお聞かせ頂けませんか?」
ユラは苦笑して、首を横に振ると歩き出す。
「まったく、放って置けない方ですね。」
「あの、私にどうぞ構わずに……」
ユラは、困ったように笑うと外へ向かう。
「まったく、秘密主義は貴方の悪い癖です。」
ユラは、足を止める事は無い。
「誰しも、人には言えない秘密は有りますけど。やはり貴方は、独りで背負い過ぎてるのでは?」
ユラは、足を止めて振り返り言う。
「僕にも、どうしていいか分からないんです。」
「なら、話せば少しは楽になるはずですが。」
ユラは、少し考える仕草をする。
「元魔王オズ様も、貴方の事は気にしておられましたよ。あの、冷酷で無慈悲とうたわれた彼が。」
ユラは、一瞬だけ思考停止して目を丸くする。
「へっ……?ええぇーっ!?」
「おや、初知りでしたか。でも、珍しい貴方の表情を見れたので良しとします。ふふっ、貴方でも年齢相応……いいえ、肉体年齢相応のリアクションをするのですね。少し安心しましたよ……。」
うん、心臓に悪い話だったからつい叫んでしまったよ。それにしても、元魔王とか……まぁ、元だし良いかな。うん、忘れよう。僕は、何も聞かなかった!
「あの、すみません。いきなり、大きな声を出してしまって。まぁ、オズはオズだし忘れます。」
「ふむっ……。それで、話をもどしますが。」
ユラは、ニコッと笑うと暢気に言う。
「戦争が終わり次第、王城に通うのを止めて一旦ですがクルト様から離れる予定です。」
すると、ベイルは少し驚いてから言う。
「ちなみに、理由を聞くのは良いですか?」
「クルト様は、基本的な戦闘技術は全て身につかれました。護衛として、そろそろ本格的な知識や技術を本職の人から教わるべきです。しかし、私が居れば妨げになりますから。なので、せっかく冒険者になったので依頼を受けてみようと思いまして。」
ベイルは、納得してから少し考える。
「なるほど。ユラ様に一言、この国から出る際はカリオスに一言でも伝えてくださいね。」
「え?えっと、どうしてですか?」
すると、満面の笑みでベイルが言う。
「でないと、国が総出で探すやも知れません。」
「は?えっと、意味が分かりません……」
「こらこら、現実逃避はいかんぞ坊主。」
シアンが、面白げに笑って言う。
「それほどまで、国は貴方の存在に期待し認めているのですよ。何せ貴方は、神の代理人である神聖賢者ですからね。最も、神に近き者なんですから。」
「そのお役目も、今回の仕事で終わりですけど。」
すると、二人は驚いて此方を見る。
「僕でも、複数の異世界人が相手では只では済みません。なので、このお役目も今回で終わりです。これで、自由気ままに冒険者が出来る。まぁ、この戦場を生き延びられたらの話なんですけどね。」
そう言うと、姿を消すのであった。
さて、異世界人とバトル!




