目覚め
いきなり、数年後に時代が変わります。
カリオスは、神殿に入るとヴァイスが紅茶をいれている。ヴァイスは、カリオス達を横目で見てから視線をティーカップに戻す。カリオスは、ゆっくり歩いてヴァイスに真剣な表情で声をかける。
「ヴァイス、教えてくれないかな。」
「…………何をですか?」
ヴァイスは、首を傾げて困ったように笑う。
「さっき、ユラが言った言葉の意味だよ。何で、生きてるうちに会えたら良いね。なんて、お別れのような言葉を………。ヴァイス、知っているよね?」
「それは………そうですね、知っています。」
ヴァイスは、カリオス達に座るように言うとティーカップを渡す。そして、座ってからため息を吐き出す。そして、カリオスを見てから言う。
「ユラ様が、試練を受ける間は眠りにつくからですよ。あの方は、結晶を使う事を許された者です。なので、いつ目覚めるか私達でも分かりません。」
カリオスは、驚いてから動揺している。
やっと、戻って来ると思っていたユラが………遠くに離れてしまった。やっと、やっと仲直りが出きると思っていたのに………。カリオスは、悲し気な表情でヴァイスを見ている。ヴァイスは、苦し気に呟く。
「ユラ様が、目覚める時まで………私は、生きてられるのでしょうか。そこが、心配ですね………。」
「そんな………」
カリオスは、思わず呟きを溢す。
「最初は、ユラ様も拒絶して抵抗していました。しかし、神王の称号がさっき消えた事で、ユラ様は大きく力を削がれました。つまり、抵抗しても逃げられない立場になったのです。ユラ様は、クリュセト様が迎えに来た時点で抵抗を諦めました。」
「クリュセトは、いったい何者なの?」
カリオスは、真剣な表情でヴァイスを見ている。
「世界の8柱、第1の柱……運命を司る神様です。」
「そう言えば、ユラも世界の結晶なんだよね?」
カリオスは、真剣な表情でヴァイスに聞く。
「はい、試練が終わった時点でですが。」
「そっか。僕は、待ち続けるよ……命有る限りね。」
カリオスは、ゆっくり立ち上がり外へ向かう。
「ユラに、会わなくても良いのか?」
主神が、優しい表情でカリオスに言う。
「………会いません。」
カリオスは、真剣な表情で主神を見てから去った。
ユラは、目を開けてボーッとしていた。すると、数人の足音がしてそちらに視線を向ける。
「やぁ、さっきぶりだね。」
クリュセトは、優しく笑っている。
「あら、貴方が愛し子なのね。お久しぶり!」
「ソフィー?えっと、日向って呼べば良いの?」
すると、妖精女王は嬉しげに笑ってから言う。
「ソフィーで、そう呼んでね☆」
「でっ、こいつが選ばれた者か………。確か、神王だったんだろ?本当に、大丈夫なのかよ?」
いやいや、別に好きで神王をやってた訳では無いんだけどな。余り、勘違いされるのは嫌だけど………言った所で無駄だろうなぁ。ここは、無言で通そう。
「君って、本当に………まぁ、君らしいね。」
「え?」
まって、僕は何も言ってないよね?まさか、心を読まれてるとか?まぁ、別に隠す事は無いから良いけどさ………。これで、戦闘しろとか言われたら不利だよね。………うーん、考えても意味がないかな。
「君って人は、本当に良い性格をしてるよね。」
「これは、疑うのが馬鹿馬鹿しいな。」
うん、やっぱり心を読まれてる。クリュセトは、暢気に笑ってて隣の男も苦笑している。ユラは、立ち上がりクリュセトに困ったように言う。
「それで、僕は何をすれば…………ぐっ!?」
「そうだね。まず、結晶を使いこなして。」
運命の結晶、それを渡された瞬間に息苦しさに思わず呻く。ユラは、深呼吸をして結晶に魔力を流す。
すると、濁った白い結晶は水晶のような輝きを放っている。ユラは、疲れたように床に座り込む。
「まさか、1回で成功とは………」
精霊王が、少しだけ驚いて呟く。
「ごめん、ちょっとこれは……………」
ユラの顔色は、少しだけ青白く体調が悪そうだ。
「あと、7つだね。無理せず、少しずつ使いこなして。君には、その資格があるからね。」
ユラは、辛そうにため息を吐き出す。
「これは、しんどいなぁ~。」
「まぁ、ゆっくりで良いから頑張れ。」
「ちなみに、使いこなすまでここから出れない。」
ユラは、ガーンとしてベッドに座るのだった。
10年後…………
カリオスは、空を見てため息を吐き出す。ユラは、いまだに目覚めの兆しが無い。ヴァイスは、城の手伝いに来ている。ユラが、眠り暇になったからだそうだ。会議室にて、紅茶をいれている。
「思うのですが、フリーデン侯爵は貴族としての役目を果たしてない。階級を、剥奪すべきでは?」
「駄目だ………。ユラは、この国に必要な人材だ。」
男の声に、ルピア陛下は素っ気なく却下する。
「陛下は、フリーデン侯爵に甘いのでは?」
「いいや、寧ろ酷いと思うぞ。事実、ユラの自由を奪っているのは私なのだからな。」
すると、ヴァイスが驚いた表情をして窓の外を見ている。そして、嬉しげな雰囲気で笑う。
「ヴァイス?」
「ユラ様が、お目覚めになりました。」
カリオスは、目を丸くしている。ルピア陛下は、安堵にため息を吐き出す。男達も、黙り込む。
「では、私は主のもとへ戻ります。」
ヴァイスは、慌てるように姿を消した。
ユラは、ゆっくり目を開き眩しさに目を閉じる。
「おはよう、お寝坊さん………」
「主神………様?」
主神は、優しく笑ってベッドに近づく。
「えっと、仕事は大丈夫なの?」
「おう、ちょくちょく帰ってるからな。」
ユラは、眠そうに目を擦り起き上がる。すると、ヴァイスが入って来て嬉しげに挨拶をする。
「貴方様の目覚めを、我ら配下は心からお待ちしておりました。おはようございます、ユラ様。」
「おはよう、ヴァイス。」
ユラは、髪を結びため息を吐き出す。
「それにしても、あれから何年経過したの?」
「あれから、約10年が経過しております。」
ユラは、眼鏡をかけてからヴァイスを見る。
「それで、ここは神殿じゃないね?」
「はい、8年前に若神達が襲って来たので………」
なるほど、それなら仕方がないよね。
「それに、神殿は寒いから移動させた。」
ヴァイスは、紅茶をユラに渡している。ユラは、少しだけ嬉しげに受け取る。ユラは、寒いのが苦手だからだ。竜になれば、そんなに苦手ではないが。
「ユラ様、………お久しぶりです。」
ネヒトが、軽い食事を持ってきて笑う。
「ネヒト、少年はやめたの?」
「力が戻って、少しだけ成長したんです!」
へぇー、だいたい15歳前後かな?
「10年も経てば、そんな事もあるよね。」
ユラは、ティーカップを置いて扉を見る。
「お久しぶり、ユラ。」
「ユラ、10年ぶりだな!」
カリオスとシアンが、入って来て挨拶する。
「目覚めたばかりで、本当に申し訳ないんだけど、今すぐ王宮に来てもらえるかな?」
「階級なら、好きにすれば良いと思うよ。貴族の役目を、怠った事は本当の事だし罰なら受けるよ。」
ユラは、小さく笑って言う。ヴァイスは、驚いてからユラを見ている。ヴァイスは、落ち着いてからユラに話すつもりだった。だから、話していない。
カリオスは、真剣な表情でユラを見ている。
「それは、僕達が困るんだけどな。王宮医療班副団長………ユラ・フリーデン侯爵…………。」
「まって、10年も副団長を不在にしてたの!?」
ユラは、少しだけ驚いて青ざめている。
「あー、うん。やっぱり、副団長はお前だよな。」
「シアン、僕は退職の書類を出してたはずでしょ?絶対、迷惑になると思っていたから出してたのに。これじゃあ、陛下に家臣の不満がぶつかる………」
カリオスは、満面の笑顔でユラを見ている。
「理解した?じゃあ、準備してね。ユラが、王宮に戻れば陛下は守られる。少し、強引だけどね。」
「鬼だ。ここに、鬼がおる。まぁ、でも………そう言う事だ。ユラには、本当に申し訳ないけどさ。」
ユラは、疲れた表情で立ち上がり魔法で着替える。ヴァイスは、心配そうに鞄をユラに渡している。
「仕方ない………」
ユラは、カリオス達と王宮に向かった。




