試練へ
さて、王室は………。ヴァイスは、無言でユラの後ろについて行く。ユラは、王室にルピア陛下が居ないのに気付いてパーティー会場に向かう。
すると、騎士達が笑顔で敬礼する。
ユラは、軽く挨拶してから頼む事にしたのだが。
「それは、ハイリヒ様がお渡しするのが良いかと申し上げます。では、自分は失礼します。」
「待って、いつ頃パーティーは終るの?あれだったら、1度帰ってから出直………す?」
すると、騎士数名が全力で走っていった。ヴァイスは、思わず笑って顔を逸らしている。
「コホン……。ハイリヒ様、少々お待ちください。」
「もしかして、一足早いクリスマスパーティーでしょ?それなら、お邪魔するのは迷惑だしね。」
ユラは、優しく笑ってから歩こうとする。しかし、それはラメルによって止められる。
「ユラ、こんにちは。」
「ラメル………。うん、こんにちは。」
ユラは、挨拶をしてから出直そうと思い歩き出そうとして止められる。そう、このタイミングでカリオス達が来たのだ。ユラは、嫌な予感がしてヴァイスを見る。ヴァイスは、笑顔で頷いている。
「ユラ、クリスマスパーティーに来たの?」
「いいや、書類を届けに来たんだけど出直すよ。」
少しだけ、逃げるように行こうとする。
「折角だし、パーティーに行ったら?」
やっぱり………。主神様、仕組んだね………。
「ごめん、悪い予感がするから帰るよ。」
「悪い予感?」
すると、ヴァイスがキリッとした雰囲気になる。そして、ユラは苦笑して頷いている。
「最悪、暫くは会えない。それでも、良いかな?」
主神が現れ、それが嘘では無いとカリオス達が気づく。次の瞬間に、ユラはカリオス達から離れる。すると、神々に囲まれるユラ。
「ユラ!」
カリオスの、悲鳴のような声が響く。ユラは、カリオス達が巻き込まれ無いように距離を取ったのだ。
「俺達は、あんたが王だって認めない………。」
ユラは、悲し気に目を閉ざして深呼吸。そして、目を開き鋭い視線を若神に向けて堂々た笑う。
「まったく、煩いガキどもだ………。」
ユラからは、まったく想像が出来ない低い声音。
それと、殺伐した雰囲気に瞳は感情を感じない。表情は、笑ってるのに凄い威圧である。その姿に、若神達は悪寒を感じて急いで距離を取る。
更に、ユラは神威を発動させて神器を呼ぶ。足元の魔法陣から、神秘的な光がユラを優しく包み、白く美しい神衣正装の姿で現れる。
「さて、青き者よ………。我が、王なのが不服か?」
「俺達は、作り物に従いたくない。」
ユラ………竜神ハイリヒは、ゆっくり頷いている。
「では、我に不服を感じる者共を集めよ。才ある物に、神王の称号を与えようではないか。」
すると、若神は驚いて目を丸くする。すると、大勢の若い神々が現れる。主神は、ユラが何をしようとしているのか理解する。思わず、苦笑してしまう。
「では、死ぬ覚悟で王位に立ちたい者は名乗れ。それ以外は、直ぐに立ち去るがいい。」
「俺達に、何をさせる気だ!」
竜神ハイリヒは、雰囲気を嬉しげに変えて言う。神器を消し、道化のようにケラケラとしながら。
「今から、お前達全員に継承紋をやる。そして、その力に耐えられた者が王だ。簡単だろ?」
「ハイリヒ、本当にやるのか。」
主神は、困った表情でハイリヒに問う。
「うん。だって、彼らが死んでも自己責任だし。」
その言葉に、全員がハイリヒをみている。
「お前ら、勘違いしてないか?神王は、世界を安定させる為のいわば生け贄だ。それに、自分からなるだなんて自殺行為だぞ。分かっているのか?」
「ですが、作り物でも出来た事です!」
すると、主神は悲し気な表情をする。
「それは彼が、世界にとって特殊で特別な存在だから死ねない………死なないだけだよ。君達に、世界の祝福はないよね?だから、全員が死ぬ運命だよ。」
クリュセトは、そう言って満面の笑顔でユラを見ている。ユラは、俯いて小さく頷いている。
「じゃあ、神王の縛りが無い君を連れ去るよ。」
ユラは、悲し気な表情でカリオス達を見て言う。
「また、生きてるうちに会えたら良いね。」
クリュセトは、苦笑して視線を逸らした。主神も、複雑な表情をしている。ヴァイスも、苦し気な表情である。試練に行けば、いつ目覚めるかは誰にも分からない。ユラは、無言でクリュセトを追いかけるように歩き出す。もう、振り返る様子はない。
カリオスは、思わず止めようとするが………ヴァイスは、槍を構えて天使になり主神も人化を解除して通さないように立ち塞がる。
「どう言うことですか!」
「すまない、カリオス………。」
主神は、そう呟くと姿を消しヴァイスも続いて消えたのだった。カリオス達は、戸惑いに混乱する。
まずは、ヴァイスに会わないと……話を聞かないと後悔すると思う。だから、神殿に行けば何か分かるはず。そうと決まれば、後は行動あるのみだよ。
カリオスは、魔法で服を着替えて走り出した。皆も、慌てたように動き出したのだった。
ユラは、部屋について机に向かおうとする。
グラッ……
クラクラして、思わず呻いて壁に背中を預ける。クリュセトは、少しだけ驚いてからユラに近づく。
ユラは、何とかベッドに入った。しかし、激しい眠気に意識を持って行かれてしまう。クリュセトは、真剣な表情でユラを見てから姿を消す。主神は、ユラに毛布をかけて心配そうに近くの椅子に座っている。ヴァイスは、無言で部屋から去った。




