逃げる者と追う者
ユラは、久し振りに竜の姿で眠っていた。人化するには、微々たるものだが魔力を使う。常に人化していると、やはり無意識に疲れるものらしい。
うーん、凄く眠い………。
ヴァイスは、書類を持って神殿から離れた。
カリオスは、神殿の広間に竜がいる光景に驚く。普通なら、絶叫または発狂ものなのだか。シアンは、カリオスの隣で苦笑してからユラに声をかけた。
「えーと……、ユラ?」
「おや?うーん、おはよう………」
ユラは、身体を起こし伸びをする。その時、たたまれていた翼がバサッと開き迫力がある光景が……
「ユラ、取り敢えず人化してくれる?」
カリオスは、苦笑して振り返れば恐怖に怖がる騎士やメイド達。ユラは、事情を理解して小さくなる。
それこそ、中型犬サイズになって。
「えっと、怖がらせてごめん。」
発した声が、子供の声だったため雰囲気か緩む。ユラは、大丈夫だろうと判断して、チビ竜のままでテトテト急ぎ足で歩き出す。まぁ、チビだから歩幅は短いのだが……。そして、飛べば速いのだが。
まぁ、まだ寝惚けてるのだろう。
くわぁー………。
ユラは、あくびをしている。結局、カリオスに抱えられるはめになるのだが。ヴァイスは、帰って来てユラを見て思わず笑う。久々に、主が深く眠っていたのだと理解して。それこそ、寝惚けるほどに。
「うーん、眠い……」
ユラは、人化して机に突っ伏して呻く。
「今回は、油断なさるほど深く眠っておりましたからね。カリオス様達も、驚いたですよね?」
「「うん、驚いた。」」
カリオスとシアンは、苦笑して頷いている。
「本当に、その件はごめん。」
ユラは、苦笑して小さくため息を吐き出す。
「さて、紅茶ですよ。いい加減、しっかり起きてください。今日も、お仕事が待ってますよ。」
「最近、ヴァイスが僕に容赦がない………。」
ユラは、椅子に深く座ってから暢気に言う。
「これは、私なりの優しさですよ。」
ヴァイスは、満面の笑顔でにっこり笑ってから、カリオス達や騎士達にも紅茶を渡す。ちなみに、ネヒトとリューもお手伝いしている。ユラは、少しだけ苦笑してから暢気に頷いて言う。
「うん、そういう事にしとく。」
その時点で、書類に手を伸ばして書き出す。ふと、カリオス達が来た理由が気になって聞いてみる。
「それで、カリオス達は何をしに来たの?」
「神殿の掃除は、私達がやるので大丈夫ですよ?」
2人は首を傾げ、カリオス達を見ているがその手は止まっていない。本当に、器用である………。
「えっと、供物を捧げに。それと、そろそろ12月だし。こっちでも、クリスマスは祝うんだよ。」
「あー、うん。微妙………、確約は出来ないかな。」
ユラは、困ったように呟いて気まずそうに言う。
「そっか、招待状だけでも送るね。」
「まぁ、行けたら来てくれ。」
2人は、暢気に笑って供物を供え帰ってしまった。
「………良かったのですか?」
「…………………。」
ユラは、少しだけ困った表情で笑う。
「ユラ?」
リューは、心配そうにユラを見ている。
「残念だけど、暫く彼らには近づけないな。近付けば、傷つけてしまうだろうから。彼らを、巻き込む訳にはいかない。現状、主神様とクリュセトに迷惑をかけてる訳だし。まぁ、所詮……僕は、まがい物だからね。偽物の王は、若者にとって邪魔らしい。」
ユラは、書類を書きながら本音を溢す。
「ハイリヒ様、少しだけ休みましょうか。」
「いいや、もう少しだけ終わらせるよ。」
ユラは、素っ気なく言うと無言で筆を動かす。全員が、自分の仕事に戻って行く。ユラは、筆を止めて小さくため息に吐き出す。そして、窓の外を見てから疲れたように目を閉じる。とても、眠いのだ。
「ユラ、疲れてるなら寝てても良いんだぞ?」
「君が倒れたら、皆に迷惑がかかるんだしね。」
ユラは、主神の声にハッとする。主神は、心配するように此方を見ている。クリュセトも、真剣な表情で少しだけ動揺したようにユラを見て頷いている。
「……ユラ様、その眠気は本当に………」
「違うよ。」
ヴァイスの声を、クリュセトの短い言葉が遮る。そして、主神も同意するように頷いている。
「やっぱり、長くは拒絶が出来ないかな。しかも、このタイミングは完全に………狙って来てるよね。」
ユラは、ペンを置いて苦し気に呟く。それを見て、主神とクリュセトは苦笑して困った感じで言う。
「まあ、君が試練を受ける気が無いからね。」
「おそらく、強引に連行する気だろうな。何せ、肉体は試練に必要が無いし。本当に、大丈夫か。」
その言葉に、ユラは苦々しい声音で言う。
「最近、大人しいと思ってたのになぁ……。」
そんな、ユラを見てヴァイスは思わず心配な表情である。ユラは、書類をヴァイスに渡す。
現在、若い神々に神王に相応しくない。作られた、紛い物ふぜいが王を気取るな。などの理由で、暴れており他の神々が動いてるのだ。
しかし、ユラにとっては押し付けられた仕事。やりたければ、好きにすれば良いんじゃない?
しかし、神々にとっては居ないと困る。と言うか、居ないと神々の信仰に亀裂が入る。
そして、世界にとっては困るから何とかして。と言うか、ユラ君はもう暇だよね?試練をしようよー。
軽いノリで、簡単に説明するとこんな感じである。
「それは、世界にとって君が神王であるのは都合が良いからね。だから、暇になるのを待ってたんじゃないかな。まぁ、暇では無いけど余裕はあるし。」
「僕はもう、自由になっても良いじゃない。神王の称号から、やっと逃げられると思ってたのに。」
ユラは、思わず机に突っ伏して呻く。
「異世界に帰れば、確実に回避できた運命だが………もう、逃げられないと思った方が良いぞ。」
「それに、君が有能なのも理由なんだけど。」
そっ、それは……その………ああー!もう!
別に、僕より有能な人材なら絶対にいるはず!
それに、知りたいと思うと調べたくなるんだよ!仕事があると、なるべく直ぐに終わらせたくなるの!性格なんだから、仕方ないじゃんかぁー!
「えっと、ユラ様……心の声が漏れてます。」
ヴァイスが、苦笑しながら突っ込む。けど、知るもんか。もう、自暴自棄になってやる………。
そう、思いながら起き上がって書類を手に取る。
「あはは、自暴自棄になっても仕事はするんだ。」
「……クリュセト、黙ろうか。それとも、物理的に黙らせてあげようか?今なら、出来る気がする。」
ユラは、満面の笑顔でクリュセトを見る。
暫くして、眠気が引いた事に気付いて思わずため息を吐き出す。主神も、それを見て気付き苦笑する。
「ユラ、時間の問題だと思うぞ……。」
「分かってる………。」
主神は、頷いたユラを見てから書類を渡す。
「これ、王城に持って行ってくれ。たまには、散歩がてらに城に行って大丈夫だろ。」
「わかった。」
そう言って、書類を受け取り主神達を見送った。




