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第四話 廃屋でもリノベーションすればドラゴンと住めます➀

 ドラゴン避けの魔法を通過すると、その先からは森が開け、広大な野原が広がっていた。

 今まで、薄暗く狭い森の中にいた所為か、明るさにしばらく目が慣れない。


 だが、この景色が目に映り、見惚れるまで、そう時間はかからなかった。


「……綺麗……ここに住めるんだ……!」


 草原の奥にはドラグ山脈が聳え立ち、その少し手前の丘に村が築かれていた。

 鳥たちが歌い、点々と見える羊たちが雲のようにも見える。


――トナリア村。


 何百年も昔から龍狩りを続け、今日に至るまでその文化と伝統を守ってきた勇ましき一族の村。


 俺があんぐりと口を開けて立ち尽くしていると、ふと後ろから声を掛けられた。


「おぅ、やっと来たかの。手紙を書いてくれた、若い少年――リュウじゃったか」


 慌てて背後を振り向くと、切り株に座った老人がバナナを食べている。

 俺は一応魔法杖を構え、彼に殺気を放つ。


「警戒するでない。ワシが村長のジィジじゃ。証明するものなら――この手紙が見えるか?」


 老人は立ち上がり、その懐から取り出したのは、帝国の蜜蝋で閉じられた一通の手紙だった。


「帝国には言うとらん。ひどい労働環境から逃げてきた龍学者が君。そうじゃろう?――一方のわしは村長、参上!――なんつってなァ!!がはははははははは」


 俺は魔法杖の先端を、無言で老人の頭に向ける。


「すまんすまん……とにかく、ワシは正真正銘、村長のジィジじゃ。ほら、さっさとこれを見ろ」


 ジィジに手渡されたのは、確かに俺がこの村へと出した手紙だった。

 彼が本物であると確認できると、俺は杖を仕舞って頭を下げる。


「すみません。追っ手に警戒していたもので。私がリュウ。この村に住めないかという、先ほどの手紙を書いた、リュウです」


「いいんじゃいいんじゃ。今の物騒な時代、どんな魔法があってもおかしくないからの――ささ、村を案内するぞ」


 老人は食べ終えたバナナの皮を切り株の脇へ放り、村へと歩き出した。


 切り株の傍らには、同じように捨てられたバナナの皮が山のように積まれている。

 どうやら老人は、いつもここで一休みしているらしい。


 だが、その皮が腐臭を放つことも、ハエを呼び寄せることもなかった。

 積み重なった皮は土へと還り、その養分を吸い上げた白い花が、周囲に可憐な花を咲かせていた。


 美しい世界がここにはある。


 神秘的で、神聖な世界が。




 

「さぁ、着いたぞ――やぁやぁやぁ、よく来たね、旅人さん」


 手招きするジィジ村長を前に、俺は村の中心へと足を踏み出す。


「ここが、トナリア村……ですね」


 木々に実る赤い果実、山間を流れる小川に、すそ野に広がる草原に建てられた家屋。

 

 意外にも店や通りのようなものまで見られ、小さな“街”くらいはあるように感じる。

 特に目立つのが、通りのどん詰まりにある、龍の紋章の旗をはためかせているギルドだった。


「ワシらかて下界との繋がりがないと生きて行けん。ギルドで仕事を受け、その褒賞で暮らしておる」


「成る程。この店やギルドは、麓町から出張してきた――みたいな感じですかね」


「そうじゃ。ギルドに集められた素材……それこそドラゴンや高山の薬草が月に一回、町に出される」


 通りを進み、村長と二人で村を見て歩く。


 行きかう人々は俺の姿を見て顔を顰めていた。

 それもそうだろう。


 帝国軍のマントを羽織り、大きな魔法杖を背負っているのだから。


「なんで、村長は俺を受け入れてくれたんですか?だって、俺は帝国の――」


 俺がそう言いかけたとき、彼はそれ以上言う必要はないと、口の前で小さく指を振った。


「それはワシもここの出身じゃないからじゃ」


「え?そうなんですか。てっきり……生まれた時から一番長くここにいるから、村長かと」


「そうではないのじゃ。とにかく、助けを求めている者の声が聴けずして、何が村長じゃ。君を歓迎するぞ」


 暫く道を進むと、村長の家らしきものが見えてきた。

 他の家と違って、ドラゴンの頭蓋骨が屋根に置かれている。

 かつて討伐した大型ドラゴンのものだろうか。


「それと、君は結界の外の家が良いと言っておったな?本当に大丈夫なのか」


「あぁ、それは大丈夫です!龍学者なので、近くで生態を見たいんです。それに、魔法の杖があるので安全です」


――これは嘘じゃない。


 だけど、実際はおこげと一緒に住むためだし、大抵のドラゴンはおこげが追っ払ってくれる。

 心配は無かった。


「仕方ないな。じゃが、外に住むやつは中々おらん。何年もそんな奴はおらんかったからな」


「てことは、家がないってことですか?」

 

「いや、あるんじゃが、廃屋での。それでも良ければ、君にあげられるのだが」


「とんでもない!勝手に村に来て、勝手に住み付こうとしてるのに、廃屋ですら十分すぎます!」


「――そうか、それならよかった!鍵はこれ。村の北東の道を登って行けば、結界の外に出られる。んで、そこから数百メートル歩いた先に家があるぞ」


 彼はそう言うと、錆びついて少し茶色くなった鍵を俺に渡した。

 鍵の中央には小さな花の模様が描かれ、前の持ち主の性格が少しわかった気がする。


「ありがとうございます」


「昔木こりが住んどった家じゃ。森のすぐそばで、川も近く流れとる。じゃが、気を付けなさい」


「はい!」


「じゃぁ、ワシは今から会議があるから。また後日君の家を訪れることにするよ」


 ジィジ村長は“村長ハウス”のドアを開ける。


 部屋の中は会議室に繋がっており、村の面々が集まれるようになっているらしい。

 いつか、いつかこの中で行われる会議に出られたらいいな、と思った。


――それが何か月、何年先になるかは分からないが、それが定住というものだろう。


「ありがとうございました!」


「よいよい……あとの、今度、君の紹介を兼ねた歓迎会があるから、来るように」


「是非!伺わせていただきます」


「それじゃ、大自然を楽しんで――」





――そしてその数分後。


 俺は村()()()にある廃屋へと辿り着いた。


「こりゃぁ、修理のしがいがあるなァ……」


 廃屋の柱は腐り、風が吹くとギシギシと音を鳴らす。

 畑は獣にほじくり返され、納屋に至っては屋根が崩れ落ちていた。


「君にも手伝ってもらわないとね……おこげ」


 上空から戻ったおこげは一人で自分の尻尾と追いかけっこをしている。

 グルグルと円を描いて回る様は見ているだけで目が回った。


「――おこげ!こっち来て!」


 俺が名前を呼ぶと、ひょこひょことこちらに向かってきた。

 当然のように頭をこちらへ向け、撫でられるのを待っている。


「これから、ここで暮らすんだぞ――楽しみだね」


 俺は今まで来た道を振り返り、草原に向かってそう呟いた。

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