068 ギルドルーム大改造……!②
「それにしても、立派なギルドルームですな!」
そう言って、クランクさんが感心したようにぐるりと見回した。
「せやろ? これで月々五千ギルドポイントやで」
「おおっ! それは良いですな! 大扉もありますし、搬入もしやすくて助かりますな」
クランクさんは満足そうに何度も頷く。
確かに当たり前になってきてたけど、改めて考えるとうちのギルドルームってかなりの当たり物件だよね……?
広いし、庭もあるし、暖炉まである。
何よりゴブリンズがそのまま出入りできる大扉に、中は吹き抜け。
ジョンソンとブルースがいても窮屈じゃないのはかなりありがたい。
「ほんと、いいギルドルームね。……この門と像はパンさんの趣味かしら?」
ヴィオラさんの視線の先にあるのは──モーリーの門と像。
白亜の像は、門を背もたれにして、本を片手に、今にもページをめくりそうな読書のポーズで固まっている。
……その本どこから持ってきたの?
「いや、これはサキはんの趣味や」
「えっ」
「へぇ、サキさん意外ね。貴女、ゴルデラン正教の方だったのね」
「なにそれ!?」
「おおっ、そう言えばこの雰囲気は白ギルドのものですな」
「……すみません、何を言ってるのか……」
私が完全に置いていかれていると……
「『やあ、こんにちは。工匠と射手のみなさん。君たちは客人だからね。今日はなるべく威圧感のないポーズを彼には心がけてもらっているんだ。あ、本はありがとう:)』……だって」
通訳のペールルージュさんが、モーリーの門の文字を読み上げた。
「──って、その本ウチのやないか!? まあええけど……」
「『この本、面白いね:) 正直、かなり気に入ったよ。もし他にもこの作者のものがあるなら、近くに置いておいてもらえると嬉しいよ。実のところ、かなりヒマだからね:)』」
「おっ! イザベラの面白さが分かるとは、モーリーはんも分かっとるやないか」
そう言ってパンさんは上機嫌にモーリーの門をバシバシと叩いた。
そういえばパンさん、イザベラって小説家のファンって言ってたっけ。
今度、私も読ませてもらおうかな。
──なんて、こっちでわいわいやってると……。
「……貴女たち、さっきから何の話をしているの?」
「ああ、この門と像、サキはんが召喚したゴーレムやねん」
「はあ!? これが!?」
ヴィオラさんが、珍しく素っ頓狂な声を上げた。
そんなに普通のゴーレムと見た目が違うのかな……。
「だってこれ……どう見ても白ギルドの像みたいじゃない。いや、百歩譲って像の方がゴーレムだとしても、門は何なの……?」
「いや、門が本体のゴーレムなんです。その中から出てきたこの像は……誰なんだろう……」
「貴女が召喚したのに分からないの!?」
「『彼は、言わば僕の手足みたいなものだよ。まあ、あまり細かいことは気にしないで:)』」
「気にした方がいいんじゃない!? そしてさっきからペールルージュさんのその口調は何なの!?」
「あ、これはモーリーの口調なんです」
「モーリーって誰!?」
「このゴーレムです。門に浮かび上がった文字で喋れるんです。ペールルージュさんが通訳です」
「……あの、もういいわ。サキさんを私の常識で考えるべきじゃなかったわね……」
ヴィオラさんはため息をつくと、今度はゴブリンズの方へ視線を移す。
「剛体種ゴブリンを召喚できるんだもの。今さら驚く方が間違いなのかもしれないわね」
その隣では、クランクさんが白亜の門と像をしげしげと見上げていた。
「それにしても、実に見事なものですな。……少々、このギルドルームの雰囲気からは浮いておりますが」
それはそうなんだよね。
モーリーって、礼拝堂とか神殿とか、そういう場所にあった方がしっくりくる感じだし。
「てか、立ち話もなんやし中に入ってや! ルル、大扉開けたってくれ!」
そんなパンさんの一声で、私たちはぞろぞろとギルドルームの中へ移動することに。
ゴブリンズにも手伝ってもらいながら、クランクさんたちが持ってきた荷物を運び入れると、
みんなで一階の大テーブルを囲むように腰を落ち着け、ようやく本題に入る。
「では、まずは中身を見てもらいましょうか」
クランクさんがそう言って、一番大きな箱の留め金を外した。
分厚い緩衝材をどけると、中から現れたのは、黒と銀の大きな装置。
腰の高さほどある円柱型で、表面にはびっしりと術式が刻まれている。
中央には大きな窪みがあって、あそこに魔石とかを嵌めるのかな。
見た目からしてもう高級感が凄い。
「こちらが魔法障壁の中核部分ですな。なんとミスリル製ですぞ!」
ミスリルって、ゲームでよく出てくる最強クラスの金属素材……だよね。
”ミスリルの剣”とか、終盤差し掛かったくらいの装備のイメージ。
やっぱりこの世界にもあるんだ……。
でも、ミスリルって超レア鉱石なんじゃないのかな?
この大きな装置まるごとミスリル製って……一体いくらなんだろう?
そう思ったのは、パンさんも同じだったみたい。
「マジかいな、そりゃ高いやろ……いくらや?」
「金貨750枚ですな」
「な、ななひゃくごじゅう!? じゃあ、これ一つでリンドールさんの錬金設備くらいの金額ってことですか!?」
「そういうことやな。……ま、それくらいしてもしゃーないわ。ここケチると意味ないし」
「その通りですぞ。何と言ってもこの一品は、魔法障壁の強度や安定性もさることながら、なんと冗長性まで兼ね備えておりますぞ! 術式の一部に不具合が出ても、すぐに全体が止まらぬよう組んでありますのでな」
「ちょっとやそっとじゃ壊れへんっちゅうことか」
パンさんが満足げに頷く横で、クランクさんが続く長細い箱へ手をかけた。
中に入っていたのは、何本もの金属筒を繋いだ奇妙な装置。
透明な管の中は液体で満たされていて、節目ごとに小さな鉱石が埋め込まれている。
「続いて、魔力整流ユニットですな」
「整流……?」
「要するに、魔力のムラをなくす装置ですわね。魔力源から取り出した魔力は、常に一定とは限りませんもの」
リンドールさんは、錬金でも似た理屈があるのか、うんうんと頷きながらそう言った。
「流石ですな、リンドール殿。良くお分かりで。魔力の流れが乱れると、障壁が弱くなるタイミングが発生してしまいますので、それを防ぐための装置ですな。これは金貨100枚ですぞ」
た、高い……んだけど、金貨750枚って言われた後だから、感覚がマヒしちゃってるよ……。
三つ目の箱は、ここまでのものよりひと回り小さかった。
中に入っていたのは、レバーとかボタンとかがついた、操作盤のような装置。
「こちらが制御盤です。魔法障壁の起動や停止、出力調整、そしてログの確認などがこれ一つでできますぞ」
「ログ……って、どういうことなんですか?」
「いつ、どこから、どのような干渉を受けたか──そういった記録ですな」
「へえ、それは便利そう!」
なんだか一気に防犯設備っぽくなってきた。
ちなみに、これは金貨50枚らしい。
もはや安い。
そして最後に、クランクさんは薄い木箱を開いた。
中には銀色の細い棒や、輪っか状の金具、それに羅針盤みたいな円盤が入っていた。
「これは……?」
「我々の道具ですな。これらの装置を設置したり、魔法障壁を張る箇所をちょちょいと弄るのに必要でして。道具代と施工費、合わせて一万ギルドポイントとなりますぞ」
そう言って、クランクさんが確認するようにパンさんへ目をやった。
「あー、分かっとる分かっとる。残りの五千も後でちゃんと払うって。そこは心配せんでええわ」
えーっと、金貨750枚、100枚、50枚……
それに施工費の10,000ギルドポイント……
つまり、合計で十万ギルドポイントってこと!?
マギド・ゼブラスからゲットした分のほとんど、もう使っちゃったってことか……。
でも、仕方ない。
これからも安心してギルドルームでみんなと過ごすための必要経費だし。
私がそんなことを考えていると、クランクさんがひとつ咳払いをした。
「もちろん、その額に見合う仕事はきっちりさせてもらいますぞ」
その言葉には、妙な説得力があった。
クランクさんって、冒険者っていうより、完全に職人さんって感じなんだよね。
「まあ頼むわ。……で、これ、いつ頃終わりそうなん?」
「ふむ……。余裕を見ても三日ですな」
「三日!? はやっ!!」
「普通であれば、設置個所の加工や外周の掘りなどで二週間ってところかと。ですが、我々はそういう面倒を建造魔法で丸ごと飛ばせますのでな」
「へえー、建造魔法ってすごいですね……!」
工事で一番面倒そうなところを、魔法でごっそり省略できるってことか。
やっぱり魔法って便利だなぁ……。
私も普通の魔法、ちょっとくらい使ってみたいよ……。
「なお、本来であれば特級の魔石代が別途必要ですが……今回はそちらで用意いただけるとのことでしたので」
「あー、そこは大丈夫や。うちにはとんでもない魔石があるから。なあ、サキはん?」
パンさんがニヤリと笑ってこっちを見る。
うん、魔力の結晶体のことだよね。
どれくらい持つかも含めて、ちょうどいい実験になる──って話だったね。
その後、パンさんたちで魔法障壁の張り方について、最後の詰めに入った。
結論、建物だけじゃなく、庭も含めた範囲で魔法障壁を張るみたい。
確かに庭で過ごすことも多いから、その方が安心だよね。
その分、魔力消費量も増えるみたいだけど、そこは魔力の結晶体が頑張ってくれる……はず。
「そうだ、他の防備についても今のうちに詰めておきましょうか」
そう切り出したのは、ヴィオラさんだった。
「せやな。クランクはん、前に言うとった監視網の件はいけそうか?」
「ええ。魔狼の眼球を利用した監視網でしたら、問題なく組めると思いますぞ」
魔狼の眼球──確か、リンドールさんが目を輝かせていたガルムのレアドロップだ。
「それって、視覚情報を取れるやつですよね?」
「そうですわ。よく覚えてましたわね!」
前に、天影鏡が作れるかも、って言ってたから印象深かったんだよね。
「リンドール殿に監視用のアイテムへと錬金していただければ、それを各所に配置できます。整流ユニットに繋げば魔力も行き渡るはずですし、常時稼働もいけますな」
「錬金は任せてくださいまし。魔狼の眼球は腐るほどありますので」
「やからって気軽に失敗しすぎや! 一応レアドロップなんやで!?」
「……とりあえず、門、屋根、二階の窓、そのあたりね。死角になりやすい場所を優先したいわ」
流石ヴィオラさん、弓の使い手としての意見を淡々と並べていく。
その意見に何度も頷いていたパンさんが、ふいに「せや!」と手を打った。
「制御盤とも繋げられへんか?」
「……うーむ、やってみましょう。制御盤からそれぞれの映像が見れるようにしてみせましょう!」
「おおー! ほんまに監視網やな!」
そう言って意気込むクランクさんに、パンさんが嬉しそうに手を打った。
なんだか一気に、ギルドルームっていうより基地っぽくなってきた……!




