061 やっぱりギルドルームは落ち着くよね……
第四章、開幕です。
マギド・ゼブラスを思いっきり吹きとばした私たちは、半ば逃げるように黒塔を後にした。
別れ際、イッシキさんが「後は私の方で何とかしておきます。何とかなりませんが」とか言ってて、かなり不安だったけど……。
とはいえ、パンさんも言ってたけど敵の領地に長いこと居ていい状況じゃなかった。
黒ギルドの偉い人をぶっ飛ばしちゃったんだから当たり前だよね。
──ついに、五大ギルドの一つと敵対しちゃったんだ……。
それでも、イッシキさんが味方でいてくれそうなのは、少しだけ救いだった。
ギルドルームに戻ると、そこにはペールルージュさんとザラ、ゴブリンズの姿があった。
しかもゴブリンズの全身には、例の【歪空袋】が大量にぶら下げてある。
「おかえりなさい」
「マスタ~! どこ行ってたんですか~! ほら、タマゴいっぱい取ってきましたよ~!」
ペールルージュさんもザラも、いつもの調子で迎えてくれる。
ゴブリンズも、いつもの無表情のまま私をジッと見つめてくれた。
……何だか嬉しそう。自惚れ過ぎ?
そう、今日は久しぶりにザラたちに指名依頼が入ってなかったので、あのあっつい灰焔の地下溶岩洞に行ってもらい、
例のレストランに納品するためのタマゴをたくさん取ってきてもらっていたのだ。
ストックは結構あるんだけど、あのレストラン、何やら”激レアタマゴ料理がたくさん食べられる店”として人気急上昇らしく、次々と納品の依頼が来てるんだとか。
市場に流すわけじゃないから値崩れの心配もないし、だったらたくさん確保しておこう──という話になっていたんだよね。
「ただいまー! ザラとゴブリンズもダンジョンおつかれさま、タマゴありがとうね!」
「いえいえ~! ちゃんとこの杖でぶん殴ってきましたよ~!」
そう言うザラの手には、あの【鉄の杖】が握られている。
そうそう、私の杖の熟練度上げのために、最近はザラにも杖で戦ってもらってるんだったね。
ゴブリンズが弓でワイバーンを叩き落として、地上に落ちてきたところをザラが杖でボコボコにしてるらしい。
……想像してみると、なかなか凄い光景だよね。
他の冒険者たち、ザラのことどう思ってるんだろう……。
「パンたちはどこに行ってたの?……何だか難しい顔してるけど」
見ると、パンさんはさっきからずっと、眉間にしわを寄せていた。
……そうだった、こんなふうに和気あいあいとしてる場合じゃなかったよね。
「どこ行ってたか、言うたら、黒塔行っとったわ」
「黒塔? 何のために?」
「ガラスラがなんやよう分からん塊を生み出してな。なんやろ思って、調べてもらいに行っとったんや。……で、その帰りに黒冥府のマギド・ゼブラスと会うたわ」
「マギド・ゼブラスと……それはまた、とんでもない大物と出くわしたのね。失礼のないようにした?」
「いや、アルテミスはんが空の彼方までぶっ飛ばしたわ」
「どうしてそうなるの……」
それは、そう……。
どうしてこうなったのか、というと、マギド・ゼブラスが精神干渉まで使って私を黒冥府へ連れていこうとしたから。
だから、私たちだけが一方的に悪いわけじゃない。
……けど、結果だけ見たら、黒ギルドの大物をアルテミスがぶっ飛ばした、ってことなんだよね。
「まあ、細かいことはええんや。今大事なんは、これからどうなるか、や。ルル、どうなる思う?」
「とんでもないことになるわね」
「せや。今後、色んな影響は出るやろうけど、まず一番デカいんは──”黒ギルドが力を大きく落とす”っちゅうことやな」
「そうね。マギドの一角を落とされたんだもの。戦力的にもかなりの痛手だわ。それに──ギルドポイントも奪ったってことでしょ?」
「えっ──あ、そっか!!!」
そういえば、ギルドポイントって冒険者を倒したら奪えるんだったね。
てことは、マギド・ゼブラスの持ってたギルドポイントが、私に入ってるってことになる。
私は慌てて、受付嬢さんからもらったブレスレットへ視線を落とした。
すると……
「うわっ!? 15万ギルドポイントくらい増えてる!?」
「えっ、錬金設備があと二つ買えますわね!」
「買うかアホ!!」
「……凄いわね。もうギルドポイントの価値が分からなくなるわ。……とはいえ、マギドにしては思ったより少ないわね」
「まあ第五局は諜報担当やからな。ギルドポイント稼ぐより、裏で動くんが本分やし。……せやけど15万も吹き飛んだら、おそらく二位──下手したらもっと落ちるんとちゃうか」
「えっ、そんなに!?」
「最近、感覚がおかしなっとるけど、スライム一匹倒して1ギルドポイントやで? そら強い魔物倒せば、その分入るギルドポイントも増えるやろうけど、それでも15万っちゅうんは、普通なら気が遠くなるような数字や」
……確かに、最近はタマゴ一個で100ギルドポイントとかいう話ばかり聞いてたから、だいぶ感覚が麻痺してたかも……。
「えっ、じゃあ黒ギルド、今ごろとんでもなく怒ってるんじゃ……」
「そりゃな。やけど、黒ギルドがいきなりギルドバトル仕掛けてくるようなことは無いと思うわ」
「そうね。マギドが倒されたのなら、その対応で大忙しになるだろうし」
「それもある。やけど一番デカいんは、他の五大ギルドの存在やな。今、黒ギルドがウチら相手にギルドバトルなんか仕掛けてきよったら、他の五大ギルドがうちらと同盟組む可能性が高いやろ」
「えっ、どうしてですか……?」
「そりゃ、黒ギルドを潰せる絶好の機会やからな。特に一位の座を奪われとった白ギルドなんかは一番乗ってくるやろ。下手したら、勝手に自分らからギルドバトル吹っかけるかもわからんで?」
「五大ギルドの力の均衡が、ここにきて一気に揺らいだ……というわけですのね……」
「せや。ちゅうわけで、少なくとも今すぐ正面からギルドバトルを仕掛けてくる可能性は低いと思うわ。……せやけど、何してくるか分からん以上、このギルドルームの防備は今まで以上に固めとかなアカンやろな」
そう、そもそも”魔力の結晶体”をギルドルームで保管すると決めたときから、防備は強化しようって話になってたんだよね。
その後のマギド・ゼブラスとの一件で状況は大きく変わったけど、やることは一緒。
──ゴーレムの召喚だ。
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