055 気になる鑑定結果は……!
ランキング2位……! ありがとうございます!
私たちはイッシキさんに案内されるまま、箱型の魔導設備に乗ることに。
見た目も使い方も、ほとんどエレベーターそのものだよね。
この前みんなで行ったレストランにも似たような設備があったし、
こういう昇降用の魔導設備ってこの世界では思ったより一般的なのかも。
……そういえば、黒塔って何階まであるんだろう?
エレベーターなら行先階ボタンがあるから、それで分かりそう。
そう思って壁に視線を走らせる──けど、どこにも見当たらない。
「行先階ボタンがないのが気になりますか?」
私がきょろきょろしてたのがバレて、イッシキさんがそう言う。
私は少し気まずく思いつつも、もう素直に聞いてしまうことにした。
「はい、黒塔が何階まであるのか気になって探したんですが……無いって不思議です……」
「黒塔の階数も秘匿されてるので、ボタンがないんですよ。ちなみに黒塔は27階建てです」
「そこまでして隠してるのに言っちゃった!? いいんですか!?」
「まあ外から数えればわかりますから」
「じゃあそこまでする意味って!?」
思わずツッコんでしまう。
イッシキさん、ずっと無表情だからボケてるのか本気なのか分からないんだよね……。
「では、どうやって目的の階へ向かうのです?」
「黒塔関係者にのみ共有されている魔法を用います。理論上は何も発現しない魔法なのですが、黒塔ではそれを逆手にとって暗号のように利用しているんです」
「ほー、なるほどなぁ。何も意味ない魔法を鍵代わりにしとるっちゅうわけか。そら部外者が勝手に変なとこ行くのは無理やわ」
「そういうことです。ちなみに今のも超秘密中の秘密です」
「じゃあ何で言っちゃってるんですか!?」
「癖で」
「悪癖すぎる!!」
そんなやり取りをしている間に、イッシキさんは小さく何かを呟き、壁に埋め込まれた金属板へ手をかざした。
すると、ぐぅんと低く唸るような音が足元から響いて、魔導設備が静かに上昇を始める。
これが鍵代わりの魔法……確かにこれなら見よう見まねじゃできないし、セキュリティ高いね。
「それで、今はどちらに向かっていますの?」
「17階にある、私の個室です」
「個室……?」
「はい。そこなら何しても大丈夫なので」
「不穏な言い方しないでください!?」
「すみません、癖で」
魔導設備が止まり、扉が開く。
その先に広がっていたのは、白を基調とした無機質な空間。
一階の受付ホールとは打って変わった、研究施設としての顔を隠す気もない感じ。
「なんや、急に研究施設っぽくなったな……」
「もうカモフラージュする必要はありませんから」
すたすたと廊下を進むイッシキさんについていくと、廊下の一番奥の扉の前で立ち止まる。
扉の横にあるプレートには、きっちりとした文字でこう刻まれていた。
『主任研究員 イッシキ』
「しゅ、主任研究員……!?」
思わず声が出てしまった。
だって、ただの受付役かと思ってたのに、主任研究員って!
全然ただの人じゃないじゃん。
「イッシキさんって偉い人だったんですか!?」
「一応は」
驚く私をよそに、イッシキさんは扉の横の金属板に軽く指を触れた。
するとカチリと錠が外れる音がして、扉が開かれる。
「どうぞ、入ってください」
中に足を踏み入れると、そこは私が思っていた以上に研究室だった。
壁際にはぎっしりと本棚が並び、机の上には書類だけじゃなく、魔石や見たことのない器具、小瓶に入った何かの欠片みたいなものまで整然と並べられている。
雰囲気としてはリンドールさんの錬金部屋にちょっと近いかも。
「ここであれば、術式の影響で外に話が漏れることはありません。大声で黒冥府の悪口も言えます」
「なんやそれ、仲悪いんか?」
「仲が悪いというより、彼らは国家ごっこが好きなので……もし皆さんが持ち込んでくださったものが私の想像通りだとしたら、話を聞かれると面倒なことになりかねません」
「国家ごっこ?」
「黒冥府は、マギドと呼ばれる中核メンバーが、それぞれ”局”という軍に近い組織を率いています。役割分担もしっかりしていて、まるで国家のように振る舞いたがるんですよ」
「それだけの力を持っとるからな。第零局のマギド・ラールセンなんて、下手な王族よりよっぽど権力持っとるで」
「単なる冒険者ギルドがそれだけの力を持つと、色々とややこしいんです」
「それよりも、イッシキさんは先ほどこの石についてなにか思い当たるものがあるようでしたけれども」
「はい。まだ確信はありませんが……すみません、もう一度見せてもらっても?」
「もちろんですわ」
リンドールさんが、例の透明な塊をそっと手渡す。
イッシキさんはそれを受け取ると、わずかに目を見開き、そのまま食い入るようにじっと見つめた。
「……少しお待ちください」
そう言うや否や、イッシキさんは突然立ち上がり、背後の棚から細長い金属製の器具を取り出した。
それを例の塊にそっとかざすと、ピーっという音が響く。
「……やはり。これは魔力を内包しています」
「魔力をですの?」
「ってことは、魔石なんか!?」
「私も最初はそう考えました。その透明なスライム種が生成したものだと聞きましたから。魔物の中には、体内で魔石を生成する個体もいますので」
「最初は……ってことは、そうじゃないってことですか?」
「……ここが非常に難しいところなのですが、おそらくこれは魔石ではなく、魔力そのものが結晶化したものだと思われます」
「はっ!? マジかいな!?」
パンさんが思わず大声をあげる。
魔力の結晶化……と言われても、魔石との違いが全然分かんないな。
どっちも同じに聞こえるけど。
「何が違うんですか?」
「魔石は、言ってしまえば”魔力を溜め込める鉱物”です。内蔵した魔力を使い切れば、後にはただの鉱物だけが残ります。ですが、これが魔力の結晶なのであれば、魔力を消費すると何も残らないはずです」
「いやいや、ほんまにか? やとしたらエラいことやで?」
「なんでですか?」
「そりゃあ、魔力は結晶化しないと考えられとるからや。あの有名なシナンプー・セトゥリアの「魔力は群れない」っちゅう名言にもあるけど、魔力は意志を持っとって、結晶化を拒んどるっちゅうのが通説や」
「魔力が意志を……?」
「せや。賢い学者さん連中が言うからそうなんやろう、と皆思っとる。やけど、その反例がこれっちゅうたら、ひっくり返るで!」
「それだけではありません。もし魔力の結晶体なのであれば、魔力密度も、そこから引き出せる魔力効率も、通常の魔石とは桁違いのはずです。……もしかすると、神話級──神々の古代魔石に匹敵する可能性すらあります」
「本当ですの!?」
リンドールさんがぐっと身を乗り出す。
パンさんもあんぐりと口を開けて驚愕していた。
みんな興奮してるようだけど、私だけついて行けない……!
「す、すみません、その……神々の古代魔石って何ですか?」
「神代の遺物とされる、新たに産出されることのない国宝級の魔石です。一言で言えば、無尽蔵と称されるほどの魔力を内蔵していると伝えられています」
「その石ころ一つで、国一つ滅ぼせる言われとる代物や」
えっ、こわっ!?
……ん? ちょっと待って?
神々の古代魔石が国を滅ぼせるくらいヤバいもので、
それに匹敵するかもしれないのが──この石?
「えっ、じゃあこれ、めちゃくちゃ危険なアイテムじゃないですか!?」
「危険なのは確かです。……それ以上に、とんでもない価値を持つ可能性がありますが」
イッシキさんはそこで一度、手の中の塊へ視線を落とした。
「まだそうと決まったわけではありません。ただ、魔力の結晶体である可能性は非常に高いと考えています」
「じゃあ、これを預けて、もっと詳しく調べてもらえば──」
「ちょい待ち!」
私の言葉を遮ったのは、パンさんだった。
「……もしほんまにそれだけの代物やったら、黒ギルドの手に渡るんはマズい……やろ」
パンさんがイッシキさんを見つめる。
……確かに、国家みたいなことをしてるんだったら、これで侵略戦争とかしかねないよね……。
「……それはそうですね。私としても、それは望みません。五大ギルドの均衡が崩れると、色々と面倒ですから」
「まあ、そうは言っても信用はできへん。どっか安全な場所に仕舞っとかなアカンな、これは」
「……気を付けてくださいね」
イッシキさんは淡々とそう言った。
でもその声には、さっきまでとは少し違う重みがあった気がした。




