054 黒塔の研究者集団②
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やってきたのは、街の外れにある大きな黒い塔──黒塔と呼ばれている場所。
メンバーは、私、パンさん、護衛のアルテミス、そして説明役のリンドールさん。
リンドールさんの手には、鉄のトレイに入ったガラスラくんも一緒だ。
一応、街中では騒ぎにならないように、鉄のトレイには上から布を被せてある。
……とはいえ、その布付きトレイを両手に抱えて歩くリンドールさんの姿は、なかなかに目立っていた。
職質されてもおかしくないよね……。
当の本人は「ちょっとした筋トレですわね」なんて言ってたけど。
私たちが持つって言っても「結構ですわ」って断るあたり、ガラスラくんのことを思ったより気に入ってるのかも。
黒塔にいる人たちは、”黒塔の研究者集団”なんて呼ばれている要注意団体で、
五大ギルドの一角──黒冥府と関わりが深いらしい。
魔法関連やら古代遺物やら、いかにも怪しそうな研究をしているらしいけど、詳しいことは情報通のパンさんでも知らないんだとか。
ちょっと不安だけど、パンさんが紹介してくれたってことはヤバい人たちじゃないってことだよね、うん。
私は自分にそう言い聞かせながら、黒塔を見上げた。
黒塔は、遠くから見たとき以上に威圧感のある建物だった。
それに窓が全然なくて、なんだか見ているだけで息が詰まりそうになる。
人通りの多いグラン=ラフィースの中にあるのに、この一角だけ妙に静かなのも、ちょっと怖かった。
「デカい塔やろ、単なる一ギルドがこんなもんを、しかもただの関連施設で持っとるんやからおかしな話やで」
「確かに……相当お金持ちなギルドなんですね?」
「金持ちなんてレベルちゃうで。五大ギルドは、だいたいどこも国家予算くらいの金は持っとる」
「え、えぇっ!?」
国家予算って……おいくら!?
スケールが大きすぎて、よく分からない……!
「せやから、あちこちに五大ギルドの建物があるんやで? あんま意識せえへんかもしれんけどな」
「そうなんですか?」
「せや。グラン=ラフィースには五大ギルドの本拠地こそないけど、関連施設やら息のかかった連中やら、影響はそこら中にあるっちゅうことや」
そう言いながら、パンさんは入口の重たそうな扉を押し開いた。
私たちもパンさんに続いて、黒塔の中へと足を踏み入れる。
「あれ……?」
中も黒一色の怖い雰囲気……かと思ったら、中は全然違う。
受付ホールは白を基調に整えられていて、どこかの病院の待合室みたいな清潔感すらある。
外から見たときの威圧感に比べると、拍子抜けするくらい整然としていた。
「な、なんか……思ったより……」
私がきょろきょろしながらそう呟くと──
「思ったよりちゃんとしてる、と思いましたか?」
「えっ!?」
声のした方を見ると、入口すぐ横の受付カウンターの奥に、一人の女性が立っていた。
しまった、聞こえてた……!
「ご、ごめんなさい! あの、外観と印象が違い過ぎて、びっくりして思わず……」
「至極もっともな反応ですよ。どう見ても怪しいですからね、この塔」
「……え?」
予想外の反応に、私は思わず固まってしまった。
「だからこそ、受付ホールくらいは印象良くしておかないとってことです。奥では得体のしれない研究ばかりやってるので。カモフラージュですよ」
「じ、自分で言うんですね……」
「自分で言った方が好印象じゃないですか」
「そ、それも言うんですね!?」
思わずツッコんでしまう私。
一方、女性はまるで表情を変えない。
変わった人だ……。
でも威圧的って感じじゃないし、思ったよりずっと話しやすいかもしれない。
「彼女はイッシキはん言うてな。まあ、黒塔の外向きの窓口役みたいなもんや」
「目の前で他人に紹介されるとは」
確かに……。
というかパンさんってこういう細かいところまで知ってるんだ……。
「イッシキと申します。それで、皆さまどういったご用件でしょうか?」
「ああ、これなんやけど……」
パンさんが小さな布袋から、例の塊を取り出した。
「正体不明の品の鑑定を頼みたくてな。もしかしたら危険物かもしれへん」
「……何でしょう。見たことがありませんね」
イッシキさんは興味津々で例の塊に顔を近付けた。
「このガラスラさんが生み出したのですわ」
リンドールさんがそう補足しながら、鉄のトレイに掛けていた布をめくった。
中でぷるんと揺れるガラスラくんの姿が露わになる。
「……透明なスライム?」
イッシキさんは無表情のまま、塊とガラスラくんを交互に見つめた。
「この揺らぎ──魔石?……いや、体内で生成されたということは生体魔石……? しかし、こんなものは見たことが……少し調べたいので、お預かりしてもよろしいですか? というか、奥に行きましょう」
「は、はい……!」
矢継ぎ早にそう言うイッシキさん。
顔は相変わらず無表情のままだけど、もしかしたら興奮してるのかな……?
こうして、私たちは黒塔の奥へと足を踏み入れることになった。




