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018 第三天位は甘くない

というわけで、私は第三天位の昇格試験を受けるとコナツさんに伝えることにした。


「私、受けたいです」

「おおっ! 本当ですか!」


コナツさんが自分のことのように喜んでいる。

……なんで?


「はい。せっかくなら、行けるところまでいってみたいです」

「分かりました。それでは──」


コナツさんはこほん、と一つ咳払いをして、姿勢を正す。


「これより、サキさんの第三天位昇格試験を実施します」


コナツさんは、隅っこの方で見ていたトルキルドさんとハケミさんにも聞こえるように大きな声で言った。


「えっ……どういうこと?」

「試験のやり直しか?」

「でも、第三天位って聞こえたけど……」


戸惑ってる二人をおいて、コナツさんは早速、昇格試験の説明を始める。


「さて、ルールですが殆ど先ほどと同じです。私がガルムリーダーとガルムたちを召喚するので、戦ってもらいます。制限時間も同じく三十分です。──説明は以上ですが、質問はありますか?」

「大丈夫です!」

「分かりました。それでは、準備ができましたら位置についてください」


準備と言っても、もうジョンソンとブルースは召喚済みなので特にやることはないんだけど。

一応、ジョンソンとブルースに「頑張って!」と伝えると、二人とも黙って頷いた。

二人とも喋らないから感情があまり読めないけど、なんだかさっきよりも気合が入っている気がするな。


私とコナツさんは距離を取って、闘技場の中央で向かい合った。


「それでは──始めます」


コナツさんが手を突き出すと、足元に一つの魔法陣が展開される。

さっきのより、明らかに大きい。


次の瞬間。

ぼんっ、ぼんっ──と六体のガルムが立て続けに召喚された。


お、思ったよりも多い……


私が数にビビっていると、最後にどんっとひときわ大きな影が形作られる。


あれが、ガルムリーダー……。


ガルムを一回り──いや、二回り大きくしたような体躯。

ふさふさで毛並みも普通のガルムよりずっといい。

それに、何だか目に知性も感じるな……。


どうやら、ただガルムが大きくなっただけ、って感じでは無さそう……。


「ガルムリーダー、想像より大きいんだけど大丈夫かな……?」


あんなのに噛みつかれたら、ひとたまりもないよ絶対。

みんなの強さを信じてないわけじゃないんだけど、こんな大きな魔物が目の前にいるとめっちゃ怖い……。

それに数がずらっと並んでると威圧感もあるし……。


私が震えているのを察して、アルテミスがすっと前に出た。


「大丈夫ですよ、マスター。あんな犬っころ、うんちです、うんち」

「う、うんち!?」


ほな大丈夫か──とはならないけど、アルテミスの言葉に少し恐怖が薄まる。


「そ、そうだよね! いざってときはお願いね、アルテミス!」

「(臆病なマスターもかわいい……推せる……)」


私はそそくさとアルテミスの後ろに隠れ、そっと様子を見守ることにした。


「それでは、第三天位昇格試験を開始します。──行けっ!!!」

「ジョンソン、ブルース! いつも通りお願い!」


ゴブリンズは私の指示に頷いて返すと、そのまま前に歩き出した。

そのたくましい背中に安心感を覚える。


その瞬間だった。


ガルムリーダーが、ふっと視線を動かした。

ジョンソンとブルースを一度見てから──私を見る。

ぞくり、と背中が冷たくなる。

まるで、狙うべき相手を見つけたと言わんばかりだった。

そして。


「……ッ、アォォォォン!!」


耳がびりびりするような遠吠えが闘技場に響いた。

次の瞬間、ガルムたちの動きが変わり、まるで統率された軍隊のように、一斉に散る。

真正面から突っ込んでくるんじゃなくて、

左右に分かれて、弧を描くように──遠回りに駆ける。


──これって、まさか……!!


「えっ、もしかして完全に私狙い!?」

「そのようですね。どうやら犬並みの知能はあるみたいです」

「まあ、犬だしね……」


それを言うなら人並とかじゃないの、と思いつつ、私は大いに焦っていた。


ジョンソンとブルースもガルムを追おうとするけど──遅い。

ゴブリンズは見た目通りタフで力も強いけど、移動手段が徒歩しかないから、こういう時にはどうしようもない……。


そうか、あのガルムリーダー、ゴブリンズには勝てないと思って「私を狙うように」号令を出したんだ。

ゴブリンズが追いつけないのも計算済み。

自分は距離を取ってやられないようにして、その間にガルムに私を狩らせる気だ。


……何の作戦もなく、ただ「お願い」している私とは大違い。

まあ私、知力1だしね……犬の方が賢いまである……。


──なんてうだうだ考えていても仕方ない。


このままだと、先に私のところに六匹のガルムが到着する。

アルテミスのことはもちろん信頼してるけど……。


殺意のこもった目で私に一直線で走ってくる狼──ビビらない者が居ようか──いや、いない。


どうすれば……!

私は無い頭を懸命に働かせる。


「──!!! ジョンソン、ブルース! ガルムじゃなくてガルムリーダーを狙って! 石を投げるとか、何かで!」


──リーダーにちょっとでも攻撃が届けば、ガルムたちが混乱するかもしれない。

定石とかも知らない、戦略も何もない、単なる思いつき。

単なる悪あがき、子供でも思いつく無理やりな作戦。


だけど、この指示は思わぬ結果を生んだ。


私の指示に、状況を察したジョンソンが、ブルースに視線をやった。

すると、ブルースも見つめ返し、お互い頷く。

次の瞬間。

突然ジョンソンがブルースの脚を掴み、砲丸投げみたいにぐるんぐるんと振り回す。

そして、そのままガルムリーダーに向かって思いきり放り投げた。


あまりに想定外の攻撃で、ガルムリーダーは一瞬反応できなかった。

そのまま弾丸のように飛来したブルースがガルムリーダーに激突。

即座に起き上がったブルースは目を回しているガルムリーダーの尻尾を掴む。

もうこれで逃げられない。

ブルースはそのまま子供がおもちゃで遊ぶように、ガルムリーダーを何度も地面に叩きつけた。


ガルムリーダーの断末魔が上がった途端、ガルムたちは統率を失った。

私狙いだったはずが、怒りで我を忘れたみたいに、ゴブリンズへ次々に突っ込んでいく。

リーダーをやられた復讐なのかな。


その後は、もういつも通り。

近接戦になればゴブリンズは無類の強さを発揮し、そのまま全員薙ぎ倒してしまった。


「……素晴らしい。おめでとうございます、サキさん。第三天位の昇格試験も合格となります」

「──やった! やったよアルテミス!!!」


アルテミスとハイタッチ!

単なる思いつきの作戦だったし、もしかしたらそんなことしなくてもアルテミスが倒してくれたのかもしれない。

でも、なんだか自分の手柄のようでうれしかった。


「素晴らしい戦いだった。感動した!!」

「私たちも負けてられないわね!!!」


──ふと後ろを見ると、何故かトルキルドさんとハケミさんが涙を流しながら拍手していた。


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