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ORATORIO・SaGa  作者: しおん
13/17

13 レベル上げ

「ユジュンも剣の使い方を覚えたことだし、レベル上げに行こう」

 滞在五日目の朝、朝食の席で、ナユタが高らかに宣言した。

「レベル上げ!」

 おれはその言葉の響きに、心がうきうきと浮き足だった。

「初心者のレベル上げにおあつらえ向きなのは、ハーラル平原あたりだな」

 ユーリが新聞から顔を上げた。

「うん、そこに連れて行くつもり」

「街の外だ。いちおう警戒を怠らず、くれぐれも油断しないことだ」

「はーい、分かってまーす」

 ナユタの口調は軽々しい。

 ハーラル平原ってどんなとこかなぁ。おれはなんとなく、だだっ広い野っ原をイメージした。

 馬車に乗り込み、街の最果てまで行く。

「ねぇ、ナユタ」

「うん?」

「ユーリがおれたち子供にも、同じ目の高さで対等に接してくれるのって、やっぱり、ルキ…さま? の、遺したホムンクルスだから?」

 おれはルキについてはよく知らない。知っていることといえば、故人であること。『ゼラ』の称号を与えれた高名な魔導師であったこと。五十年前、アースシアに魔人を封印したこと。おれたちホムンクルスを器として転生しようとしたこと。それくらい。

「んーん。もともと、そういう視座の持ち主なんだと思う。頭が固くて誤解されやすいけど、根っこは良いヤツなんだよ」

「ふーん」

 馬車の中で、そんな他愛もない会話をナユタとした。

 目的地にたどり着き、馬車を降りたおれたちは、城壁の門の外に出た。

 目の前に広がる景色は、おれの想像通りの平原だった。途中に森が点在し、金色の街道が伸びている。

「見渡す限りの平原だぁ」

「ここにはスライムの生息地なんだ。レベルゼロにはうってつけ。あ、いた」

 近くの草むらから、ぴょーんと青色の軟体生物が飛び出して来た。

 身体は透き通っていて、向こう側の景色が透けている。

 初心者が初めて通るべき関門としては、スライム退治がお約束だよね。

「えい」

 ナユタは右の短剣を抜くと、スライムを一刀両断した。

 スライムが黄色い光になって大気に消えていく。 

「モンスターは魔素の塊。だからやっつけると光になって消滅する。で、スライムの中に核みたいなものが見えたでしょ?」

「うん。種みたいなやつが見えた」

「エクスペリエンティア・シードって言って、それを壊すと、モンスターは死ぬワケ。同時に、経験値が変換されて、オビイト・ジェムに蓄積される。そういう仕組み」

「へーえ。よく出来たシステムだね」

 ナユタの説明によると、エクスペリエンティア・シードは略して、EXPシードって呼ぶらしい。

「モンスターを倒すと、アイテムをドロップすることがある。ま、まだ今は先の話だね。とにかく、最初のノルマは、スライムを十匹倒すこと。そうしたらレベルが一つ上がるよ。じゃ、がんばってね。あ、銃はなしで。剣を使って倒すことが条件だよ」

 ナユタは草原におれを放り出して、自分は木陰に腰を下ろし、『ヘヴンス・サガ』の第二巻を読み始めた。

「ま、がんばんなさいな」

 セラフィータにまで、そんなあしらいを受ける始末。

「ムム」

 そんなナユタをあっと言わせてやろうと思って、おれは平原にスライムの姿を探した。

 と、呑気に平原をうろつく一匹のスライムをみっけた。

 おれはショートソードを抜いて、そっと近寄った。

 背後から、不意打ち。

 一撃が、決まった。

 スライムがこちらを振り返り、おれを敵として認識した。

 おれの脳内で、勇猛果敢なBGMが再生される。

 スライムは、にゅっと軟体を生かして、触手を伸ばし、攻撃してくる。

「おっと」

 それを、おれはすんでの所でかわす。

 その隙に、二太刀目を叩き込む。

 返す刀で三太刀目を決める。

「きゅーー」

 スライムが鳴いて、その身体が分解され、黄色い光になって消えていった。

 勝利のファンファーレが頭の中で鳴る。

 EXPシードを壊した手応えもあった。

「『グロウ』」

 指輪をジェムに変化させて、その変容を確認する。

 卵形の瓶の底から、ちょうど十分の一くらいの辺りまで、金色の液体で満たされている。

 経験値を獲得した証だ。

「やったね!」

 初めてのモンスター退治に、おれは有頂天になった。

 スライムはおれの三太刀でやっつけられることが分かったので、リズム良く、野っ原を駆けずり回ってショートソードでスライムをボコった。

 十匹倒して、おれは無傷。

 なかなかやるじゃん? おれ。

 急いでジェムを確認すると、金色の液体が満杯になって、また空になるところだった。容器の表面には『1』という数字が浮かび上がっていた。レベルアップした証拠!

 テケテケッテッテテテーン。

 今度はレベルアップ祝福のファンファーレが鳴った。頭の中で、だけど。

「『リストア』」

 ジェムを指輪に戻して、ステータス画面を確かめてみる。

「『システムコール・ステータス』」

 力と素早さと体力が上がってる。最大HPも微動ながら増えてる。

 おれがステータスの数字に一喜一憂していると、どこから湧いたのか、スライムが集まってきた。

 一匹、二匹、三匹と積み上がって、最終的には十匹が合体した、巨大なスライムへと進化した。

 こんなのってアリ?

「ナユターー!」

 おれは踵を返すと、三十六計逃げるにしかずの言葉通り、逃げをうった。

「スライムが、デカくなったぁーー!」

「あー。キングスライムだよ。工夫次第で倒せるよ。ガンバッテー」

 ナユタはちらっとこっちを見ただけだった。

「あはは! ユジュンったら、おっかしー」

 セラフィータが指をさして笑ってる。

 ええい、なにくそ。

 キングスライム。

 キングというだけあって、王冠なんか被ってるよ。

「ちぇーすとーー!」

 おれは振り返ると、キングスライムを迎撃した。でも、ぶよぶよの巨体に阻まれて、刃が通らない。

 ダメージは与えてるはずなんだけど。

 このまま、ちまちま削るしか出来ないんだろうか。

 そんなの待ってたら日が暮れちゃうよ。

 ナユタは工夫次第で、って言ったよね。

 だったら、こうだ。

 おれはキングスライムと距離を取って、左脚の『グロック』を抜いて氷魔法の薬莢を装填してから構えた。

「起動、シュート!」

 引き金を引くと、氷魔法の元素が銃口から吐き出され、真っ直ぐキングスライムに命中した。そこから、氷結魔法の効果が全体に行き渡り、スライムをカチンコチンに凍らせた。

「えいやっ!」

 おれは飛び上がって、キングスライムの脳天にショートソードを振り下ろした。

 氷の塊と化していたスライムはひとたまりもなく、砕け散った。その際、光り輝く何かを落としたように見えた。

 分解されて光と化して消えたので、無事、退治出来たはずだ。

 オビイト・ジェムを確かめると、容器が金色の液体で満たされて、空になり、また満たされて空になった。つまりは、一気に二つレベルが上がったってこと。

 ジェムの表面に、『3』と刻まれているのがその証拠。

 ステータス画面を確かめてみても、力と素早さと体力と魔力の数値が上がってた。

 キングスライムが落っことしたものを拾いに行く。それは分かり易くキラキラと輝きに包まれていた。液体の入った細い小瓶を拾い上げる。

「それがドロップアイテムだよ。ポーションみたいだね。HPをちょっとだけ回復してくれる、初心者向けのアイテムだ」

 いつのまにやら背後にナユタがいた。

「うっわ!」

 おれは驚いて、飛び退いてしまった。

「なんだよ、不意打ちかよ!」

 音もなく忍び寄って来て、なにもんだよ、一体。

「レベルが3に上がったんなら、今度は森へ一角ウサギ退治だ」

 ナユタが次の指令を出した。

 近くの森に移動する。

「ユジュンって、人間はダメでも、モンスターならいいなんて、意外と白状だね」

「別に博愛主義者じゃないし……」

 完全にゲーム感覚でした。

「一角ウサギは臆病な上、夜行性なんだ。今は巣穴で眠ってる。そこを一網打尽にするよ」

「寝込みを襲うの? それって卑怯じゃない?」

「心外だな。戦略的と言ってほしいな」

 森の中で、おれはナユタに言われた通り、一角ウサギの巣穴の出入り口を探した。

 しばらく地面を舐めるように見つめて観察していたおれは、不自然に隆起した場所に空いた穴を見つけた。

「ナユタ! これじゃない?」

 近くにいたナユタがゆっくりした足取りでこっちにやって来た。

「ああ、そう。これだよ。炎系の言の葉で蒸し焼きにしちゃって」

 えー。蒸し焼き?

 おれは気が進まなかったけど、言われた通りにした。

「炎よ舞え、交声曲(カンタータ)

 おれの両手から炎が放たれて、巣穴の中を襲った。

「あー、ちょっと火力が弱すぎたかも」

 ナユタの声は残念そうだった。やれやれ、みたいな感じ。

「え、威力、足んなかった?」

 いまいち力加減が上手くいかないんだよな。今後の課題。

「だらしないわねぇ」

 セラフィータにだけは言われたくない。

「この分だと、別の出入り口から、逃げ出してくるヤツがいるかも」

 巣穴の出入り口は一つじゃなく、複数あって、そこから群れが出入りする仕組みだそうだ。

「えーlそういうの、先に言ってよ」

 おれが顔色を曇らせていると、茂みから次々に額に角の生えた、大型のウサギが顔を出した。一角ウサギのご登場だ。

 眠っているところを焼け出されて、怒り心頭っぽい。

 おれとナユタをターゲットとして定めたらしく、次の瞬間、一斉に襲いかかって来た。その数は十じゃきかない。十五、いや、二十はいる。

「ともかく、開けた場所まで逃げるよ」

「え? ナユタ、やっつけてくんないの?」

「僕が手出ししたら、意味ないじゃない」

「あーまぁー、うん」

 おれは分かったような、だまくらかされたような、複雑な気分で一角ウサギに背を向け、スタコラサッサと逃げ出した。

「いい? ユジュン。ヤツらをまとめて気絶させる方法を考えて」

「え、えー?!」

 おれはナユタから出された課題に、脳みそをフル回転させて、考えた。

 森の出口で後ろを向き直ったおれは、勢いで地面を滑りながら、両手を前に突き出した。足下に土煙が立つ。

 一角ウサギの群れに向かって、言の葉を放つ。

「吹き上げろ、騒乱(タービユランス)!」

 風の渦が一角ウサギの足下をすくい、一匹残らず空高く巻き上げた。風の渦の中で、きりもみ状態になり、風が収まって地面に落ちてきた一角ウサギはどれも気絶していた。

 今度は威力の加減も上々。上手くいった。

 よくよく見てみると、身体の一部が焼けただれているヤツもいる。

「悪いね」

 おれはショートソードで、一匹一匹、トドメをさして回った。

 オビイト・ジェムにどんどん経験値が溜まっていく。

「ほらね。目で見ると、快感でしょ?」

「あーうん。分かり易くていいね」

 容器の表面には『5』の表示。金色の液体も半ばほどまで溜まってる。

「や、やるじゃない」

 ナユタの左肩の上に立ったセラフィータが、ツンと横を向いている。前に、ツンデレって表現したけど、こいつに『デレ』の部分はあるんだろうか。

「次は、キラービーかな」

 ナユタが次のターゲットを設定した。

 少し進んだ先には、ただ、だだっ広い草原が広がるばかりで、敵からもこちらからも、姿が丸分かりだ。

 出たとこ勝負ですか。

 遠目に、女王蜂を巨大化したような、ハチ型のモンスターが空中を徘徊してるのが視認できた。

「あれがキラービーだよ」

「空を飛んでくるってぇーなら、コイツの出番でしょ」

 おれは右脚の『ベレッタ』を抜いた。

 敵の索敵範囲のギリギリ外まで近寄って、狙いを定め、最大火力で打ち抜いた。

「起動、シュート!」

 一発必中。

 地面に落ちたキラービーは分解され、光になって消えた。

「やったね! 一撃必殺だよ」

 喜び勇んで跳ねるおれの背中に向かって、

「まーいっか。ナントカとハサミは使いようだもんね」

 ナユタが何かを呟いていたけど、

「何か言った?」

 おれの耳には届いていなかった。

 その平原で、しばらくキラービーを狩り続けた。

 一日がかりでその辺り一帯のモンスターを狩りまくったおれは、黄昏どきにはレベル十に達していた。

 あるいは、ショートソードで、あるいは、言の葉で、あるいは、銃で。持てる限りの手段を尽くしてモンスター相手に戦いを繰り広げた。

「はぁはぁはぁ」

 さしものおれも、疲労困憊の色が隠せない。

「一日でレベル10か。良くやった方だと思うよ。『駆け出し』から『端くれ』ぐらいにはなったんじゃない」

「それって、レベル上がってんの?」

 微妙な表現すぎる気がする。

「よくやったわ! ユジュン!」

 セラフィータが何故か監督ばりに偉そうだ。

「でもねぇ。大変なのは、ここからだよ。これから相手にするモンスターはそれなりに知能も上がってくる。殺られそうになると、逃げ出すんだ。だから、如何に逃げられないように手を打つのかがポイントになってくる」

「逃走すんの? ムカつくなぁ」

「逆に、手負いのモンスターは、他の冒険者がダメージを与えてくれてるから、ラッキー」

「逃すと、他の冒険者が良い思いするのかぁ。それもシャクだなぁ」

「だから、逃さないように、きちっと対処する!」

 ナユタがおれの背を平手打ちした。

「あのさ」

 おれは言い難かったけど、その質問をナユタにした。

「昨日みたいに、人を殺して、何が手に入るの?」

「うーん。名声?」

 ナユタは顎に指を当てて、首を傾いだ。

「確かに、経験値も手に入らないし、クエストみたいにお金ももらえないけど、ユリシーズ家の土地に無断で押し入って、妖精の隠れ里を襲うっていう悪行を二つも働いたんだ。殺されても文句は言えないと思うよ?」

「そんなもんかなぁ」

「それが世の常だよ」

 なんだか、ナユタに良いように言いくるめられた感はする。でも、納得せざるを得ない。

 城壁の門まで戻る頃には、太陽が山の稜線に半分沈み始めていた。門の中にはナユタが手配してあったらしい、馬車が既に待機していた。

 屋敷までの道のりで、疲れ切ったおれは、自分でも知らないうちに馬車の中で船をこいでいた。

 ん、まぁ、充実した一日だった。

 有意義に時間を使えたと思うし、冒険者の気分もたっぷり味わえたし。

 何より楽しかったから、いいや。

 短い時間のなかで、おれはテンちゃんと、ヒースと、イリヤと四人でパーティーを組んで、ダンジョンに潜って冒険する夢を見た。


トルキア・コソコソ話。

「ヘヴンス・サガ」は筆者の中学時代の友達の作品のタイトルなんだ。残念ながら未完に終わったらしいよ。

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