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ORATORIO・SaGa  作者: しおん
10/17

10 品格

 滞在四日目の朝も、食堂でユーリと居合わせた。

 それが当然であるかのように、オハヨウの応酬が巻き起こってから席に着くと、間もなく朝食が配膳されてくる。

 そして、それが自然であるかのように、ゆっくり座って食する。実家では、お客さんの朝食を配膳した後の、少しの合間に、厨房で立ちながらかき込むから、こんなのは夢のような話だ。

「今日はどうする」

 向かいの席に座ったユーリが、本日の予定を訊いてきた。

 おれはなんにも知らない。

 計画を立てているのはナユタだ。おれは彼にスケジュールを丸投げしている。

「森で剣の稽古をするよ。昨日、ショートソードを受け取ってきたんだ。真剣勝負をやるつもり」

 おれはブレッドを咀嚼して、音を鳴らして嚥下した。

 口の周りにパン屑をくっつけたまんま、

「真剣、勝負?」

 さーーっと血の気が引いていくのが分かった。

 剣の稽古って木刀かなんかでやるんじゃないの? 初心者相手に真剣勝負って有り得なくない?

「だったら、私も同行しよう。剣の稽古をつけてやる」

 ユーリまで乗り気だよ!

「あんたがコテンパンにされるとこ、ばっちり見ててやるわ!」

 真っ赤なイチゴにかぶり付いているセラフィータにも毒を吐かれたけど、そんなの気にしてる余裕がなかった。

「良かったね、ユジュン。ユーリは強いから、いい先生になるよ」

 ナユタの科白が空しく内耳でハウリングしてたよ。

 その朝の食事は砂を噛むようで、味がしなかった。

 で、今現在、ナユタとユーリと三人で連れだって、森を抜け、山に分け入っている最中ってワケ。

「スクールで女子に告られるじゃん。で、興味ないとか、好きじゃないとか、率直に答えると泣かれるじゃん。あれ、すげーめんどくさい」

「そうか、ユジュンはモテるのか」

 ユーリが含み笑いをしている。

「顔も知らないやつに好きだって言われても、気味悪いだけだよ」

 おれにはイリヤっていう、心に決めたひとがいるんだし。

「まぁ! デリカシーの欠片もない! 乙女心をもてあそんで、なんだと思ってるのかしら」

 セラフィータがふらっとおれの側に飛んできて、ぷりぷり(いか)ってからまたナユタの元へ戻っていった。

 女心と秋の空って、こんなときに使うのかな。

「クラスのやつらとは、『大きなイチモツを下さい!』とか歌ったり、バカばっかやってるんだけど」

「なんだ、その不謹慎な歌は。意味を分かっていて歌っているのか」

「うん。生徒の間で流行ってる歌ネタだよ」

「思いっきり下ネタじゃない」

 先頭を歩いているナユタが苦笑しもって、こっちを振り返った。

「私も十代前半あたりの時分は、惚れた腫れたの話もあったがな」

 ユーリが衝撃の発言。

 まさか乗ってくるとは思わなかった。

「へーー」

 おれとナユタの声がシンクロした。

「それで?」

 おれはユーリの恋バナに興味津々だ。

「ただ、歳を重ねるにつれ、男女問わず取り巻きに囲まれていたからな。ほとんど恋愛には発展しなかった」

 ユーリの声がミュートしていく。

「好きなひとが出来なかったわけじゃないんだ」

「まぁな」

 ユーリは言葉少な。あんまり語りたくないみたいだ。

 良い思い出じゃないのかも知れない。

「だが、私が生涯を捧げて愛したのは、ルキさまただひとりだ」

「ルキのこと、語り出すと長いよ」

 そんな注釈を加えて、ナユタは獣道をずんずん歩いて行く。

 結果的に、おれとナユタはユーリに煙に巻かれてしまった。

「それで? ルキの研究は引き継げそうなの?」

 先を行くナユタが、中ほどに続くユーリに話しかけた。

「いや、まぁ……難しいな。方々、手を尽くしてはいるんだが」

「膨大な知恵と知識を無駄にだけはしないでよね」

「おまえたちの成長を見守るのが、いちばんの研究だ」

 おれたちの生態についての情報は、ルキの研究成果の中にしかない。それを読み解けるのはユーリだけだ。

 頑張ってもらわないと。

「ユーリ、ファイト!」

 おれはユーリの背中に向かって気合いを入れた。

「うん、まぁ、気持ち程度に受け取っておこう」

 と、再びセラフィータが登場した。ナユタの肩から、おれの方まで飛んできて、

「ユーリやナユタにあって、あんたにないものがなんだか分かる? 品よ。品格ってもんがあんたには足りてないのよ」

 と、偉そうに言い切った。

「ぷっ……言い得て妙。セラフィータの言うことにも一理ある」

 ユーリが吹き出した。

「なんだよー、ユーリ。あ、ナユタまで!」

 先頭でナユタが声を上げて笑ってる。

「いい? 品格ってぇのは、一朝一夕で身につくもんじゃないのよ」

「ほんっとウルサイ」

 おれはうんざりして、セラフィータを睨み付けた。

 セラフィータはしてやったりってカオだ。

 そんな調子で、べらべらだべってたら、目的地に着いた。一昨日も、その前も来た、ナユタお気に入りの山にあって開けた場所だ。

「ここに来ると、気分がいいなぁ。空気が美味しい。魔素も充実してる」

 ナユタが両手を広げて、深呼吸した。

「ナユタの剣の師匠は、やっぱり、ユーリなの?」

「ううん、違うよ。僕のは完全な我流。強いて言うなら指南書が先生」

「へぇ~」

 おれは笑おうとして、頬が引き攣り、痙攣させてしまった。

「私もおまえたちぐらいの頃は、この山で剣の鍛錬に明け暮れたものだ」

 ユーリは昔を懐かしんでいる。

 まずは、本物の銃を使っての、言の葉光線の実証実験をすることになった。

 ユーリを交えてのデモンストレーションだ。

 前と同じように、切り株の上に、持参した中身の入った缶を五つ並べる。

 七メートル離れた位置に立ち、右脚に装備していた『ベレッタ』を抜いて構える。

 精神を統一して、一度、深呼吸をした。

起動(イグニツシヨン)、シュート!」

 同時に、引き金を引く。

 弾も込めてないのに、砲身から、光の塊が射出され、線になって缶に命中した。

 五発、五命中。

 パーフェクトだ。

「やったね!」

 おれはガッツポーズをして、その場で跳ねた。

「ほほぅ。面白い使い方だな」

 腕を組んで成り行きを見つめていたユーリが、感心している。

「実際に銃を握ると、イメージしやすいみたいだね」

「うん。次は威力のコントロールをしてみる」

 おれは切り株まで走って、再び缶を立てて並べた。

 火力の調整は、頭に思い描けばいいだけなので、思ったより簡単だった。

 一つは軽く当てるだけ、一つは吹き飛ばすくらい、一つは貫通させるくらい、一つは破裂させて中身を吹き出させるくらい、といった風に。威力もおれのさじ加減次第だ。

「すごいじゃない、ユジュン。カンペキ!」

「なかなかどうして、やるものだ」

 ナユタとユーリから、拍手された。

「えへへ」

 手放しで褒められると、ちょっと照れる。

 お次は、魔法を込めた弾を詰めた、『グロック』に持ち替えて、構えた。昨日の晩に、せっせと空の薬莢に言の葉を込めたんだ。

「起動、シュート!」

 切り株に向かって放ったそれは、氷結系の言の葉だった。

 見る見る間に切り株が凍り付いて、氷の塊になった。

 実際に言の葉として使うより、威力は落ちるけど、イメージして言葉を紡ぐ必要がない分、お手軽だ。

 他にも属性の違う弾を幾つか放って、その有用性を確かめた。排出された空の薬莢は再利用する為に、拾って集め、ポーチに仕舞う。

「順調そうだね。僕も弾に言の葉詰めるの、手伝った甲斐があるよ」

 ちなみに弾の属性は底面の色で見分けられるようにしてある。

 おれは弾倉に弾を補填してから、ホルスターに戻した。

「野蛮だわ」

 セラフィータだけが、おれに否定的だ。

 別にいいけど。


トルキア・コソコソ話。

ユジュンはクラスの人気者で中心的存在なんだ。筆者はどぶろっくは好きじゃないけど、小学生の間で流行ってるって聞いて、安易に取り入れたらしいよ。

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