11-6
「……すごい」
サファイアは感嘆していた。
しかし、心なしか、息苦しくも感じた。
〝宝石眼〟という存在は、自分が就任する前は、どこか別の世界のお伽噺の主人公。
自分が就任した後は、どこにでもあるような学芸会の配役。
ジブンガ、ナレテシマッタノダカラ……。
いつの間にか、勝手に評価を下げてしまっていた。
それは、なんと古人に無礼な想いであったことか。
サファイアは顔色を失っていた。
宝石眼が生涯を賭けて、築き上げてきたもの。
それが、今なお受け継がれているからこそ、その存在は例外なく国から愛され敬われる。
その順番が己に回ってきているのだ。
恐ろしい――。
そんなサファイアをタッキーはちらっと一瞥した。
仕方ないな、というような顔だった。
「気にするな」
「えっ?」
サファイアは顔を上げた。
「そのアクアマリンの宝石眼はこの世に生を受けたその日から、己の役目を理解し、それはそいつ自身の望むところでもあった。だから、一生涯を賭けて公爵家の糧となれた」
――だか、お前は違うだろう。
タッキーは、確かめるように囁いた。
「お前は、この年になって初めて己が宝石眼だと知った。それには、必ず神の意志が絡んでる」
「神の意志?」
「そうだ。大司教だったアメシストの宝石眼とて、生まれたその日は宝石眼ではなかった。もし、あいつがそのまま宝石眼になっていたら、親と生き別れにはならなかったかもしれない。――だが、教会に預けられなければ、あいつは顔も知らぬ親の愛情を信じることも、神へ祈りを捧げ続けることで信仰心を高めることも……お前を見つけ出すこともできなかったかもしれない」
「!」
サファイアはかの人の姿を思い起こしていた。
私を最初に見つけ出してくれた人。
絶対に、また再会しなければならない人。
サファイアは両手を固く握りしめ、瞳を閉じた。
まるで黙想するように。
「お前は、今、宝石眼として覚醒した。それには、意味が必ずある。それがなにかは、これからゆっくり見つければいい。時は無限にあるわけではないが、お前は自分の寿命を一秒も縮めることなく、全うできる時間があるだろう?」
タッキーは、笑った。
そうだ。
あの日、姉の結婚を成功させるために望みを持った自分。
もし、邂逅を果たしたのが彼ではなく、悪呪師だったとしたら、私の望みは叶ったかもしれない。
しかし、きっと私はサファイアの宝石眼として覚醒することはなく、今この瞬間を生きていたかもわからない。
道は何本もあったはずだった。
自分で選んでいるつもりだったけど。
誰かが、こっそり崖への道筋を覆い隠していてくれたのかもしれない。
後ろを振り返ったことはなかったけれど。
その人は、汗水を流し次の舞台を用意するために駆けずり回っていたのかもしれない。
『ツァール国』という大舞台を盛り上げるための。
舞台監督として?
大道具として?
脚本家として?
想像すると笑える。
そして、啼けてくる。
その人は、私を愛してくれているのかもしれない。
だからこそ、きっと私にもなにかあるはずだ。
生まれてきた意味が。
「――そうだね。私、頑張るね」
サファイアはゆっくりと開眼した。
そして、己に誓うように呟いた。
なるほど、とクルスは思った。
見た目を考慮しなければ、彼は師匠としてこれ以上ないほど適任である。
まさに一流といえるだろう。
彼女とはまた別の人間を惹きつけてしまう魅力。
それを、誰よりも人間から遠ざからなければならない呪師が秘めている。
なんと難儀な存在なのだろう。
だからこそ、彼らはお互いが共にあるのだろうか。
見たところ、『契約』しているようには見えないが――。
クルスが、瞬間疑問を声に出そうかと、その唇を動かした刹那。
まるでそれを止めるかのように、彼はそれを遮った。
それは、彼女には知られてはいけない、とでも焦っているかのように。




