11-7
タッキーは両手をパンッと打った。
「よし、相分かった!その望み引き受けよう!」
タッキーは、クルスに満面の笑みで宣言した。
しかし、サファイアはそれに対し、えっ、と非難の声を上げた。
「ちょ、ちょっと、タッキー!まだ、完全な依頼内容も代償がなにかも教えてもらってないんだよ?」
「気にするな。ここまで、困ってるんだ。助けてやらん理由はない」
「……」
「……あの、いいのかな?サフィーがすごく冷めた眼で君を見てるけど?」
クルスが、引きつった声でタッキーに助言した。
「うっ」
タッキーもサファイアの少し蔑みが見え隠れする視線に慄いた。
「……タッキー。本当に呪師として依頼を受けてるのよね?自分の欲望に負けてないよね?」
「欲望?」
クルスが首を傾げると、タッキーはまずい、という顔をした。
「くっ……。小娘!」
「っ!な、なに?」
「お前が、ここに修業しに来てから、一体この館には何人の客が訪れた?」
タッキーの突然の切り替えしに今度はサファイアが詞を詰まらした。
そこを切り出してくるなんて。
「そ、それは……」
「答えてみろ」
「ひ、一人……もいないわ」
ここで切り札を使ってくるなんて。
なんて、勝負師として優秀。
いや、なんて卑怯なのだろうか、とサファイアは怯んでいた。
タッキーは、その詞にうんうん、と頷いた。
「そうだろう。お前は、ここに宝石眼の知識を得る一環として俺の下で修業をしているはずだ。しかし、この閑古鳥が啼いている現状では、それは本末転倒だ。だからこそ、俺は次に来た客の依頼が善呪師として叶えられる望みだと判断した際には、代償が多少見劣りしても引き受けてやろうと思ってたんだ」
「タ、タッキー。私のために?」
「弟子の成長のためには、犠牲も必要だからな」
タッキーはふんぞり返っていた。
「タッキー、ありがとう!……って、いくらなんでも、私もそんな見え見えの手にはもう引っかからないわよ」
「――さてと、じゃあ先に代償を戴こうかな」
サファイアの師匠に対する耐性が成長を見せた横で、タッキーは彼女と目を合わさず、何もなかったかのように話を元に戻した。
どうやら寸劇は済んだようだ。
クルスは、依頼人にもかかわらず、このまま依頼して良いものか密かに悩んでいた。
もちろん、今更引き返すつもりなどないが。
「……はい。俺の用意した代償はこれです」
クルスは懐から今度は小さな巾着袋を取り出した。
もしかして――。
前例が前例なだけに、サファイアは宝石鑑定士として期待した。
彼はターコイズの宝石眼。
ならば、代償は必然と――。
「どうぞ、お納めください」
巾着袋のなかにあった物は――。
「ど、銅貨一枚……?」
サファイアは呆気にとられていた。
もはや、動けなかった。
なんの反応も取れない状態に陥っていたのだ。
(やっぱり、私は宝石眼に向いてないんじゃないかしら)
サファイアは一回りしてまた再度思考が逆戻りしていた。
天秤のどちらか一方に振り子が引き切れるほどに傾く存在。
それが宝石眼としての資質なのかもしれない。
先ほどのアクアマリンの宝石眼のような存在になるための階段を、己が歩んでいけるのかすら不安だというのに。
もし、その逆へ傾けられる才能があると言われても。
正直、喜べない。
(それなら、いっそ向いてない方が……)
サファイアは、そこでハッとした。
こんな仕打ち、タッキーが激怒しないはずもない。
サファイアは、急いで訪れるであろう怒声に身構え、両耳を塞ぎ、両眼を閉じた。
「……」
(あ、あれ?)
予想に反し、静かな静寂が続いた。
サファイアは恐る恐るその片眼を、瞬きを繰り返しながら開き、彼を見た。
かの動物の瞳が煌めいていた。
緩む頬も隠しきれていなかった。
(な、なんで?どういうこと?)
「確かに。依頼に見合う代償だな」
「あなたなら、きっとこれで引き受けてくれると思っていました」
眼の前の男たちは、なぜか解り合っている。
しかし、彼女にはさっぱり皆目見当がつかない。
(まさか、タッキー。『水の公爵家』なんて甘美な響きに気を取られて冷静な判断ができなくなってるんじゃ……?)
サファイアは思わず口を挟もうとした。
「じゃあ、本題だ。なんの宝石を手に入れたいんだ?」
その問いの答に、思考が囚われてしまう前までは――。




