11-2
タッキーは、肩を竦めた。
「そこまで飛躍はできないがな。それを判断するのは、もっと深く依頼を聴いてからだ」
「はい」
サファイアは従順にしている。
そう見える――。
戻っている。
クルスはサファイアを見てそう感じていた。
また、市場で会い見えた少女に。
純粋で危うい女の子へ。
でも、違う――。
彼女は、何一つ変わってなどいないのに、深みに嵌りそうなのは自分の方。
神がやられてしまうのも頷ける。
知らないうちに逃げていく。
手に入りやすそうだから、尚更そんな気にさせるのだ。
初めから、己をこんな高嶺の華だと正体を現さない。
相手に距離を感じさせない。
だから、すぐ傍に、横を向けば常に己に微笑みを携えてくれる存在、そう勘違いさせる。
なんて罪作りな女性であろうか――。
これが、正真正銘本物の宝石眼。
もう、何度同じことを思っただろう。
宝石眼のなかでも長生であろう己。
幾人もの同士にこうして不意打ちの出会いを仕掛けてきた。
就任式など格式ばった公式の場では、その人間の内側などなにも見通せないから。
いつだって、次こそは、とそう期待する。
こうしていつも打ちひしがれることになるというのに。
それでも。
いつかは現れるかもしれないと、また無駄な希望を抱いてしまう。
己と同類だと感じる存在に――。
「おい、どうなんだ?」
タッキーの痺れを切らした問い掛けに、ハッとクルスは現実世界へ戻ってきた。
そうだ。
今は、彼女だけが目的ではない。
自分には欲しい望みがある。
「確かに。最初は関係者の誰かが企てた謀だと思われていたのですが……」
僅かな狭間、沈黙が室内を訪れた。
「犯人は絞れなかった。誰も宝石を盗んだり、金銭を掠め取ってはいなかったってことだな」
タッキーの推理にクルスは頷いた。
「……ちっ。まずいな」
タッキーは顔をしかめた。
「タッキー?」
「こういった件で犯人が割れない。まるで人外が起こしたような奇妙な事態」
「……」
クルスも表情を暗くした。
「まさか……」
サファイアにも思い当たる節があった。
そんな一見ありえないようなことを平気でやってのける存在。
人はそれをなんと呼ぶ?
奇跡。災い。魔法。超能力。
いっそ種が在る手品であれ、と強く願う。
それこそ、霊的な呪いに近い。
『呪師』という存在を表現するには――。
「同業者が関係してるな」
タッキーは、サファイアの予想通りの解を導き出していた。
「おそらく。その可能性が示唆されています。もちろんその存在を知らぬ者たちにとっては、一種の怪談として様々な憶測が飛び交っているようですが」
「呪師……あっ、悪の方なのよね?」
「当然だな。相当なにかの糸が絡まってなければ、災いを齎す望みとしか断言できないからな」
タッキーは、面倒な依頼を、と大きく溜息を吐いた。
(タッキーがこんなにすごいんだから、やっぱり悪呪師の方もきっと一般人には到底敵わないようなことができるんだわ)
サファイアはタッキーの心中を察していた。
それにしても。
サファイアはクルスに温かい眼差しを送った。
「……それじゃあターコイズの宝石眼様は、宝石や被害に遭った人々を守るために、代わりに犯人を見つけたいというお望みをもってここへいらしたんですね?」
やはり、言動や外見とは異なり真の宝石眼というのは、こうして人知れず民と宝石のために尽力しているのだ。
サファイアは、クルスの使命感に感動していた。
「えっ?違うよ」
クルスは、その容姿に釣り合ったなんとも可愛らしい表情と仕草で首を傾げながら否定した。
気まぐれな小鳥が、道行く人々に己の美声を囀り、足を止めさせ観客にしてしまうような軽やかな美しい音色で。




